☤ 同伊(トンイ) 第9話 ☤

『お前がチョン・トンイか?』

『そうですが 何でしょうか』

『早くこの女を捕らえろ!!!』

チョンスがくれた大事な鉢巻きを忘れたことに気づき

戻ろうとした同伊(トンイ)は 役人に取り囲まれる

同伊(トンイ)が ユン氏夫人の使いで行った薬房の店主が殺され

出入りしたすべての客を取り調べているのだという

取り調べの行列に並びながら 言い訳を考える同伊(トンイ)

なぜ懐妊を促す薬を宮中に持ち込んだのか…

正直に答えるわけにはいかなかった

ついに順番が来て 同伊(トンイ)は 掌楽院(チャンアゴン)の楽工のために

買いに行った薬だと答えるが 懐妊の薬が必要な筈がないと激怒されてしまう

『ほ…本当です!オ血(ヒョル)を解消し新血(シニョル)を浄化させるので

鎮痛剤や補益剤に含まれます

楽工様たちは頭痛や気虚症なのでもらったのです!』

『確認しろ!』

※オ血(ヒョル):皮下のあざ

※新血(シニョル):新たにつくられる血

『必要ない この者の言う通りだ 確認するまでもない』

そこへ現れたのは 従事官ソ・ヨンギ

あらぬ疑いは晴れたものの ここでソ・ヨンギに会ってしまうとは…

苗字を変え あれから長い年月が過ぎた

ソ・ヨンギは自分に気づくだろうか

同伊(トンイ)は 通されたヨンギの部屋で不安に怯えていた

ヨンギはまず 奴婢なのに薬材の知識が豊富だと褒めた

父がオ作人(ジャギン)だったので… とは言えなかった

『チョン・トンイだそうだな』

『…はい』

『元々 チョンという姓か?』

『…え?』

『他意はない 私の知人ではないかと思ったからだ

捜してる者がいるのだが 6年前から行方不明でな

お前と姓は違うが 名前はトンイという 生きてればお前と同じ年ごろだろう

私を… 知らないか? 6年前に会ったことは…』

『どういうことでしょうか な…何をおっしゃっているのかよく分かりません!

私はお捜しの方ではありません

お会いしたことはないし 姓はチョンです』

『そうか』

『そ…そうです 私は成川(ソンチョン)にある妓生(キーセン)の家で

奴婢をしていました その後掌楽院(チャンアゴン)に来たので

従事官様に会うわけありません』

部下が奴婢の名簿を持って来た

そこに書かれている内容と同じことを 同伊(トンイ)は言ったのだ

ヨンギは 別人だと認めざるを得なかった

同伊(トンイ)が退室すると ヨンギは落胆の表情になる

もし生きていても 自分を訪ねて来るはずのないことを知りつつ

無性にトンイに会いたいヨンギだった

掌楽院(チャンアゴン)の直長ファン・ジュシクは

またしても問題を起こしたと 激怒の表情で同伊(トンイ)を待ち構えるが

あまりにも消沈している同伊(トンイ)の様子にかける言葉もない

同伊(トンイ)の中に ふたたびあの日の悲しみがよみがえったのだ

(父さん 従事官様は私を覚えてたわ

ずっと捜してたんだって なぜかしら

捕まえる気かもしれない 私は罪人の娘だから だからよね)

奚琴(ヘグム)を奏でながら 同伊(トンイ)は亡き父と兄を偲んだ

どこからか聞こえる奚琴(ヘグム)の音に耳を傾ける粛宗(スクチョン)

しかし その音は間もなく消えた

禁じられている奚琴(ヘグム)を弾く同伊(トンイ)を止める者があったのだ

王妃の煎じ薬に毒を入れた犯人は今だ見つかっていないとの報告に

粛宗(スクチョン)は不満げに問いただすが

薬材に問題はなく どうして銀の匙が変色したのか見当もつかなかった

『物事には必ず原因がある 薬材の成分が混ざると毒になりうると聞いた』

『相反薬(サンバンヤク)のことでしょうか

しかし煎じ薬に相反薬(サンバンヤク)は入っておりません』

『王妃の煎じ薬なのだ 一部の疑いも取り除け!』

※相反薬(サンバンヤク):混ぜ合わせると毒性が強まる薬剤

厳しい取調べにも口を割らず 無事に切り抜けたとの報告に

チャン・オクチョンは 同伊(トンイ)への信頼を厚くする

しかし 同伊(トンイ)がオクチョンのもとを訪ねたことは

すでに 明聖大妃(ミョンソンテビ)側に知られていた

チャン尚宮と親しい奴婢が 渦中の薬房で薬材を買い

その店主が殺されたとなれば 疑いは強まる一方だった

チャ・チョンスは 世話になった旅の僧に別れを告げる

同伊(トンイ)が生きていると知った以上 捜さなくてはならないのだ

『具体的なことは考えてませんが

いつか生き残った者と剣契(コムゲ)を再結成します

今まで 罪悪感から自分の使命を忘れてました

生きて剣契(コムゲ)を守れという首長様の命に従わねば』

同伊(トンイ)は 久しぶりに掌楽院(チャンアゴン)の用事で市場に出る

まだ買い物がある同伊(トンイ)と別れ ジュシクとヨンダルは食事をとる

すると 離れた席の女性がしきりにこっちを見ている

誘惑されているのだと勘違いした2人は 馴れ馴れしく近づいていく

しかしその女性たちは 誘惑していたのではなく

ジュシクとヨンダルをすり抜けた後方を監視していたのだ

監察府(カンチャルブ)の尚宮たちであり 張り込みの最中だった

2人のせいで張り込みに失敗した尚宮たちは ヨンダルを投げ飛ばし

ジュシクを罵倒して去っていった

※監察府(カンチャルブ):内命婦(ネミョンブ)を監督・調査する部署

宮中に戻ったジュシクは とんだ失態にうなだれる

事情を聞いた同伊(トンイ)は…

『宮人(クンイン)を監察し罪を問う所でしょう とても怖い方だそうです』

『宮女の上に立つ宮女なんだ 威厳があり荒々しい!

捕まったら屍口門(シグムン)行きなんだと!

そんな方に無礼を働いたらどうなるんだよ!!!

全部主簿様のせいだ』

『女好きですから 問題を起こすと思ってました』

※屍口門(シグムン):王宮内から死者を運び出す門

その厳格な監察府(カンチャルブ)では すべての尚宮が召集されていた

それは 明聖大妃(ミョンソンテビ)の側近が出した投書から始まった

『掌楽院(チャンアゴン)の奴婢を使い ある宮女が薬材を持ち込んだとある

チョン尚宮が事実か確認しろ!

ポン尚宮 掌楽院(チャンアゴン)の奴婢を捕らえろ!』

その“ある宮女”というのが チャン・オクチョンだと知り 皆が動揺する

『この投書が事実であれば 最高位の宮女を調べねばならん!

ゆえに 過ちは許されんぞ!!!』

監察府(カンチャルブ)の一団が掌楽院(チャンアゴン)に進入し

たちまちのうちに 同伊(トンイ)を捕らえて連行してしまった

この事実は すぐさまチャン・オクチョンに伝えられ

仁顕(イニョン)王妃にも伝えられた

オクチョンの部屋をオ・テソクと 甥のオ・ユンが訪ねる

何と軽率なことをしたのだと 激怒し責め立てるオ・ユン

母がしたことだとは言いたくないオクチョンは ひたすら謝罪した

『監察府(カンチャルブ)に捕まるとは 深刻な事態だ

その奴婢が口を割ったら お前まで調べられる』

『分かっています ですが私の過ちゆえやむを得ません

すべて知られてるでしょう

ただ 確証が得たくて奴婢を捕まえたのです 私が行って…』

『それはいかん!!!監察府(カンチャルブ)の怖さを知らんのか!』

『私のせいで 罪なき者を苦しめられません』

『やめないか!お前は側室になる身だ なのに敢えて苦痛を受けるのか

そうなったら お前の威信は崩れる これは私たちが解決する

だからお前は動くでないぞ』

同伊(トンイ)は 厳しい取調べに耐えていた

『この奴婢が口をつぐむ気か!いくら粘ろうと真相は明らかになる

お前が就善堂(チュソンダン)の使いで外に出たことを知ってるぞ!

観念して事実を認めることだな そうすれば釈放しよう 約束する

お前が 就善堂(チュソンダン)に頼まれて薬材を買ったな?そうだろ?』

『それは… 言えません』

『何を言う!死にたいのか!!!』

面談での尋問で口を割らなければ 次は拷問を受けての尋問となる

今だ黙りつづける同伊(トンイ)を 誰よりもチャン・オクチョンが案じていた

同伊(トンイ)がどう出るかによって オクチョンの処遇も決まっていく

そんな宮中の空気を感じ取った粛宗(スクチョン)は

ハン内官(ネグァン)を問いただす

そこへ内医院(ネイウォン)の医官が謁見を求めて現れる

やはり 王妃の煎じ薬の中には相反薬(サンバンヤク)が入っていたというのだ

自分への疑いが晴れそうだとも知らず 同伊(トンイ)の尋問は続いていた

チョン尚宮が諭すように自白を促すが 同伊(トンイ)は断固として受けつけない

『私は卑しい奴婢ですが ひと言の重要性は分かります』

『何?』

『把握してると言いながら追及するのは 私の自白が必要だからでしょう』

『チャン尚宮の過ちなのに 罪を被る気なのか』

『いいえ それは違います これは私の過ちでもあります』

同伊(トンイ)の言わんとすることが予測できず チョン尚宮は黙り込む

『追放されやしないかと心配してます

でも 疑いながらも使いに出たのは私です

そんな過ちがあるから 尚宮様だけを責められません』

とうとう 同伊(トンイ)への拷問が始まろうとしていた

それを寸前で止めたのは 渦中のチャン・オクチョン本人だった

オクチョンは 自らの居所である就善堂(チュソンダン)に薬材を運ばせたと認め

同伊(トンイ)を介抱し 自分こそが罪を問われる身なのだと示した

連行されていくチャン・オクチョンの後ろ姿に 同伊(トンイ)は動揺するのだった


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