☤ 同伊(トンイ) 第8話 ☤

『本当は願いがあります!切実な願いです!

何よりも大事なのですが その望みを聞いていただけますか?!!!』

同伊(トンイ)は チャン・オクチョンが身につけている鍵飾りが見たいと申し出る

これから後宮に入ろうとする方の私的な持ち物を見たいとは

賎婢(チョンビ)である同伊(トンイ)が 望んでいい願いではなかった

※チャン・オクチョン:後の張禧嬪(チャンヒビン)

※賎婢(チョンビ):卑しい下女

激怒するオクチョン付きの女官

同伊(トンイ)はひれ伏しながらも 決して願いを取り下げない

オクチョンは その願いを聞き入れた

恐る恐る 差し出された小箱を開ける同伊(トンイ)

しかし 中から出てきたのは全く違う鍵飾りだった

落胆する同伊(トンイ)の様子を 観察するように見守るオクチョン

同伊(トンイ)が退室すると 女官が呼び戻して罰を与えねばと騒ぎ出す

『気に入った』

『え?』

『あれだけ切実なら 目的のために何でもやるはず

しかも賢いときている 詳しく調べろ どんな者か気になる』

『分かりました』

急に 後宮になる方に呼び出され しかもなかなか戻って来ない

掌楽院(チャンアゴン)では ファン・ジュシクとヨンダルが心配していた

ようやく戻った同伊(トンイ)に 大喜びする2人

同伊(トンイ)はヨンダルに聞く

『チャン尚宮様はどんな方ですか』

『大した方だぞ 容姿だけでなく頭も切れるそうだ

王様までもがご相談なさるとか だから上り詰められたんだ

賎出(チョンチュル)なのに 女官どころか側室とはな』

『チャン尚宮様が賎出(チョンチュル)ですって?!』

『知らなかったのか?お母様が奴婢らしい』

※賎出(チョンチュル):賎民の妾から生まれた子孫 賎民出身

チャン・オクチョンは 粛宗(スクチョン)と囲碁に興じていた

オクチョンの賢さで 囲碁は粛宗(スクチョン)の形勢が不利だった

『還撃手(ファンギョクス)を使っては?』

『何だと?』

※還撃手(ファンギョクス):小を犠牲にして大を得ること

『一手を犠牲にすれば 収穫が得られます』

『待て 囲碁の話じゃないようだな』

『囲碁は奥が深く 世の道理が詰まっています』

自分を諭そうとしているのが分かり

粛宗(スクチョン)は愛おしそうにオクチョンを見つめた

『黒幕の解明は困難ですから 手を引かれてはどうでしょう

音変(ウムピョン)をご自分で暴いただけで 犯人たちは恐れているはず』

『だから今回は手を引いて 重臣に貸しを作れと?』

『王様は朝廷の均衡を重視されています

ですが西人(ソイン)派の反対で 意を成し遂げられていません』

『……還撃手(ファンギョクス)か』

その頃同伊(トンイ)は チャン尚宮が賎出(チョンチュル)だと知り

チャン尚宮に言われたことを 感慨深く思い返していた

「賎婢(チョンビ)だからなのか?欲を抱くことが分不相応だから?

残念だ 分不相応な望みを言えば 逆に気に入ったのだが」

(分不相応な望みを抱くことなんて なぜ尚宮様にそれができたのか)

さっそく便殿会議が開かれ 粛宗(スクチョン)によって人事が発表される

西人(ソイン)派が占めていた重責に 南人(ナミン)派が取って代わり

オ・テソクは漢城府左伊(ハンソンブパンニュン)から昇進し

左議政(チャイジョン)に躍り出る

一方 チャン・オクチョン付きの女官が 同伊(トンイ)を城外に使いに出した

同伊(トンイ)の素性と資質を調べるうえで 命令を遂行できるかどうか

その忠誠心を試そうというのである

無礼な願いをして嫌われたと思い込んでいた同伊(トンイ)は

はしゃいで女官の後を歩く

訪ねた先は チャン・オクチョンの母 ユン氏夫人が待つ薬材商

するとそこへ 見知らぬ夫人が前から歩いてくる

忌々しい表情で睨みつけるユン氏夫人

ユン氏夫人は オ・テプンの妻パク氏夫人と何かにつけ競い合っていた

オ・テソクの口利きで 夫と息子が掌楽院(チャンアゴン)の重職に就いたと

自慢げに語るパク氏夫人は 奴婢出身のオクチョンの母を見下している

見返すためにも 娘のオクチョンには 是が非でも王の子を懐妊してほしい
ユン氏夫人は 懐妊に効くという薬材を買いに来たのである

オクチョン付きの女官は 同伊(トンイ)に使いの内容を話す

『薬材を受け取ったら 内緒で尚宮様に届けろ』

『薬材ですか?内緒で宮中には持ち込めませんが』

『だからうまくやれということだ!』

戸惑う同伊(トンイ)に ユン氏夫人が…

『確かに規律に反しているが 宮中では尚宮様に気遣ってくれん

意味が分かるな?失敗は許されないぞ』

『は…はい 分かりました』

薬材が用意されるまで待っていると 同じく薬材を買った男がすれ違い

同伊(トンイ)をジロジロと眺めて去っていく

男が向かった先には あの時の旅の僧が待っていた

男は 旅の僧の弟子だったのだ

『高貴な相の者に会いました

奴婢の女なのですが とても不思議なんですよ 見ますか?』

『必要ない 信じるか!』

弟子に高価な薬材を買わせ 旅の僧は寺を訪ねる

6年もの長旅に出る前に ケガをした若者を川辺で助け この寺に預けたのだ

それは あの日死んだと思われたチャ・チョンスだった…!

『あれは6年前のことか』

『はい 早いものですね』

『やっと歩ける頃から あの子を捜してたそうだな まだ見つかってないのか』

『同伊(トンイ)は人に預けました でも捜そうとしても行方が分かりません』

『ずっと捜しつづけるのか?死んだかもしれん

言ったように あの子の運命は…』

『いいえ 運命など信じません 幼いながらも強い奴だったんです

運命なんかに負けてないはず きっと生きています

同伊(トンイ)… あいつは絶対に生きています』

剣契(コムゲ)の首長だった同伊(トンイ)の父チェ・ヒョウォンの最期

幼い同伊(トンイ)との別れ際の約束

(遅くなってごめんな 俺に腹を立てたのか?

それで見つからぬよう隠れたのか?

どこだ 一体お前はどこにいるんだ…)

夜になり ようやく宮殿の門前に着いた同伊(トンイ)だったが

人定(インジョン)のため 門番が入城する者の検査をしている

※人定(インジョン):午後10時以降の夜間通行禁止制度

今門を通れば間違いなく荷物を調べられ 薬材が見つかってしまう

薬材の持ち込みを知られてはならないという命令を守ろうと

同伊(トンイ)は 何かを思いついたようだ

今夜も暗行(アメン)の帰りに 粛宗(スクチョン)はソ・ヨンギを訪ねた

徹底的に捜査をすると言いながら守れなかったことを詫びる粛宗(スクチョン)

※暗行(アメン):官吏が内密に民を視察すること

命に危険が及んだばかりだから 暗行(アメン)を控えてはと進言するヨンギ

しかし粛宗(スクチョン)は 確かに危険だったが 面白い下女に会ったと話す

遺体を発見し 事件の真相を明かす手柄を立てた賢い下女

その名はチョン・トンイだと聞き ヨンギは耳を疑う

同伊(トンイ)という名は滅多にない名前だった

その名に聞き覚えがあったが 苗字がチョンではなかった

知っている名は チェ・トンイ…

捕庁(ポチョン)を後にし 帰ろうとする粛宗(スクチョン)

すると 懸命に塀をよじ登ろうとする下女に出会う

粛宗(スクチョン)は内官に見逃せと命令し 1人同伊(トンイ)に近づく

『それでよじ登れるのか?』

『判官様! ど…どうも』

『そなたは常習犯だな』

『どうしてここに?』

『犬の哭き声に引き寄せられた 見たら豊山(プンサン)犬だった

噛んだら放さない犬だ 踏み台にはなれんからついて来い』

堂々と門から入って行く粛宗(スクチョン)の後をついて行くと

門の前には もう誰もいなかった

『ありがとうございます 判官様』

『もう今後は問題を起こすでないぞ 早く戻れ

前から思っていたが 問題児のようだ』

『よく言われます でも王様から褒美を授かったんです』

『そうか!もらったか』

『ええ 金や白玉や絹織物まで頂いて…王様に話して下さったのでは?』

『あ…ああ ちょっと報告した だが褒美まで頂けるとはな』

『奴婢にまで気遣われるなんて 王様はきっと慈悲深い方です』

『王様はお心の広い方なのだ』

『ではもう行きます 判官様も気をつけて』

同伊(トンイ)は 無事に宮殿に戻れたのは 亡き父のおかげだと思っていた

いつも見守って 自分を助けてくれているのだと信じていた

夜空の星に向かって話しかける同伊(トンイ)

『父さん いつも言っていたでしょう

人の貴賎というのは 身分でなく心によると

卑しい心は人を卑しくし 貴い心は人を貴くするんでしょ

チャン尚宮様がそう 貴い心をお持ちの方よ 私もそんな人間になれるかしら

どんなことにも貴い心を抱くことができるかな』

翌朝 就善堂(チュソンダン)に薬材を届け 帰ろうとする同伊(トンイ)

すると 女官たちが運ぶものに目が行く

同伊(トンイ)が持って来た薬材を処理しようとしていた

『失礼ですが それはチュン蔚ではありませんか?』

※チュン蔚:益母草

『開けたのか?!!!』

『いいえ 香りで分かりました』

『なぜ聞くのだ』

『あの… チュン蔚は鉄を嫌うので 銅ではなく銀や竹の刃で切らねば』

『な… 何だと? なぜそれを』

 

一介の賎婢(チョンビ)が知っている知識ではない

女官は驚きと疑いの目で同伊(トンイ)を見る

『書籍で読みました

掌楽院(チャンアゴン)での怪我などに使えると思い 読んでいました』

まさか父がオ作人(ジャギン)だったので… とは言えなかった

懐妊のための薬材を密かに持ち込んだと知り チャン・オクチョンは激怒する

訪ねてきた母親を叱り お付きの女官を失望したと言い睨みつけた

『早く下げて薬材を破棄しなさい!』

『破棄するだなんて!』

浅はかな母親を残念そうに見つめ 言い聞かせるオクチョン

『慎んでください 災いの元になりかねません

内医院(ネイウォン)の煎じ薬で十分懐妊できます』

『貴重な薬剤はすべて王妃に渡るのです お分かりでしょう』

『母上』

『王様は尚宮様を寵愛なさっています ですが男心は信じられません

王様も男ですゆえ 急いで懐妊しなければ!』

『王様は信じられぬから 我が子を信じろと?』

『そうです』

『母上 私は王様も子も信じません 信じるのは自分のみです』

そこへ 女官が飛び込んできて大変な事態を告げる

王妃の煎じ薬の気味の最中に 銀の匙が変色したというのだ

※気味:王室の食事を検査すること

しかし妙なことに その後の再検査では匙は変色しなかった

軽い事故だと思いたいオ・テソクと甥のオ・ユンだった

今回も チャン・オクチョンに災いが降りかかっては もう打開のしようがない

一方掌楽院(チャンアゴン)では

能力もないのに重責に就いたオ・テプンは

ろくに仕事もせず忙しいと嘆き 部下にすべてを任せていた

そこへ これも少々頭の弱い息子ホヤンがやって来る

『父さん 頼みがある 私に恥をかかせた奴婢のことです』

『また問題を起こしたか あの女はダメだ 関わらん方がいい チャン尚宮が…』

『妓生(キーセン)にすればいい!奴婢なのが問題なら

妓生(キーセン)にしてしまえば平気です!

掌隷院(チャンネウォン)で調べてみたら 後から奴婢として入ったようだ』

※掌隷院(チャンネウォン):奴婢を管理する官庁

その掌隷院(チャンネウォン)を訪ねているのは ソ・ヨンギの部下だ

やはり掌楽院(チャンアゴン)の奴婢の名前が気になったヨンギは

部下に命じて同伊(トンイ)の素性を調べさせていたのだ

苗字こそ違うが 同伊(トンイ)は掌楽院(チャンアゴン)の奴婢として

ちょうど6年前の今頃の季節に宮中に入っていることが分かった

同伊(トンイ)は 険しい山を登り 父が亡くなった崖の上に来ていた

今日は 命日だった

父と兄 そしてチョンスの冥福を祈り 法事の膳を捧げる

その頃 同じように山を登る姿があった

チャ・チョンスだ

頂上への途中 同伊(トンイ)の兄チェ・ドンジュが絶命した場所に佇む

『悪いなドンジュ 1人で来た お前の妹の同伊(トンイ)を守ることができず

情けないが… 1人で生きてる』

さらに 崖の上に来たチョンスは あの日 自分が転落した崖に佇み

この6年の日々を思う

そして ふと足元の花木に目をやると…

そこには 剣契(コムゲ)の鉢巻きが結びつけてある…!!!

それは あの日の…

「同伊(トンイ) 印が見えるな これを忘れるなよ

お前がこの印を残したら すぐに駆け付ける」

そう言って同伊(トンイ)に渡した鉢巻きだった

チョンスは 確かにここに同伊(トンイ)が来たのだと確信する

同伊(トンイ)は生きているのだと知り 狂ったように捜し回るチョンス

同伊(トンイ)は 市場の通りまで戻ったところで 鉢巻きを忘れたと気づく

慌てて戻ろうとする同伊(トンイ)を 呼び止める声がする

振り返ると そこには役人が兵士を連れていた

『お前がチョン・トンイか?』

『そうですが 何でしょうか』

『早くこの女を捕らえろ!!!』


☝ <ランキング参加中>

よろしければクリックお願いします