☤ 同伊(トンイ) 第2話 ☤
『今 チャンセの持ち場が空いている
ウデとヨンドも連行され ソッコの息子は父親を失った
何者かが両班(ヤンバン)たちを殺し 罪を剣契(コムゲ)に押し付けている』
※両班(ヤンバン):朝鮮時代の上流階級
『恐ろしく綿密な陰謀だ 我らは仲間を失い 無実の者が連れ去られた
犯人を捜さねばならん これはきっと つらい戦いになる
命の危険にさらされるかもしれん 皆が命を懸けることを確信している!
初めて剣を握った日 それは無実の母が殴られた日
妹が凌辱を受けたうえ 弟が売られた日であった!
皆が懐に剣を忍ばせ 無実の罪を着せられぬよう 強く心に誓ったものだ
賎民だからといって罪を背負い 命を奪われる筋合いはない
我らは必ず犯人を捜し 真実を明らかにする!そして仲間を取り戻すのだ!』
オ・ユンの策は失敗に終わった
牌札(ペチャル)に関係する父子 オ作人(ジャギン)と同伊(トンイ)
どちらも捕らえることはできなかった
同伊(トンイ)は ある両班(ヤンバン)の屋敷に連れて来られていた
気立てのいい同伊(トンイ)に 問安婢(ムナンビ)をさせるためである
※問安婢(ムナンビ):両班(ヤンバン)の代わりに正月の挨拶に行く下女
『今度 うちの娘が名家に嫁ぐので いい問安婢(ムナンビ)を選んだのだが
はしかを患ったらしい そこで評判のお前を呼んだのだ』
『ありがとうございます 頑張ります!』
しかし 同伊(トンイ)の身分が賎民だと知ると 途端に態度を変える夫人
あきらめきれない同伊(トンイ)は 挨拶文だけでも読ませてほしいと懇願する
漢文を読み さらに間違いまで指摘した同伊(トンイ)
夫人は感心して 賎民ではあるが問安婢(ムナンビ)を任せることにする
絹の伝統服を着せられ 同伊(トンイ)は嬉しくてたまらない
しかもこの屋敷では そのまま服をもらえるというのだ
有頂天で帰宅する同伊(トンイ)を 尾行する怪しい影
後ろから突然 同伊(トンイ)を引っ張り物陰に隠したのは 兄ドンジュだ
『兄さん』
『無事だったんだな』
『それはどういうこと? 私の場所をケドラに聞いたの?』
『話はあとにしよう ここは危険だ』
ドンジュが同伊(トンイ)を 安全な場所に連れて行く間
チョンスが 尾行していた男たちと対峙する
なぜ同伊(トンイ)を狙うのか 誰の指図なのか
しかし 聞いて答える相手ではなかった
オ作人(ジャギン)の姿から チェ・ヒョウォンは剣契(コムゲ)の首長として
各組に指図し 一丸となって事の真相を解明しようとする
『政治的な陰謀があるはずだ 些細なことも見逃すな』
一方 捕盗庁(ポドチョン)従事官ソ・ヨンギもまた捜査に乗り出していた
身分の差を乗り越え師と仰ぐチェ・ヒョウォンとその娘が
忽然と姿を消したことに 困惑の表情を浮かべる
チョンスから 娘同伊(トンイ)が襲われたと聞き動揺するヒョウォンだが…
『会いに行かないのですか』
『無事ならそれでいい 相手は権力を持つ者だぞ
すぐにでも何を起こすか分からん』
オ・テソクは 甥オ・ユンの失敗を見逃すことは出来なかった
すご腕の追っ手を いとも簡単に追い返し逃走したとすれば
チェ・ヒョウォンはただのオ作人(ジャギン)ではないかもしれないからだ
チェ・ドンジュは掌楽院に顔を出したあと 書庫に忍び込み
何冊かの書物から何かを書き出した後 仲間の助けで無事に脱出する
チョンスは 市場の通りに貼り出された手配書を見て驚く
それは チェ・ヒョウォンと娘同伊(トンイ)の似顔絵が描かれた手配書だった
『義禁府(ウィグンブ)はなぜ奴らを追ってるのです?』
『知り合いか?』
『どこかで見たような気が』
『捕庁(ポチョン)で軍官を殺した父娘だ 見かけたら知らせろ』
『わ…分かりました』
※義禁府(ウィグンブ):主に重罪人を扱う検察に似た機関
※捕庁(ポチョン):治安維持を担当する警察に似た機関
ヒョウォンが手配されたと聞き ソ・ヨンギは激怒しオ・ユンに食って掛かる
『チェが殺人なんてとんでもない!事件を横取りして何てことを!』
『死亡推定時刻にチェが捕庁(ポチョン)から消え いまだに現れていない』
『それが理由だと?!今回の事件には朝廷の者が絡んでます』
『お前の考えは聞いた
だが根拠である牌札(ペチャル)は チェの娘が持ってた』
『だから?!』
『娘まで使い 殺人を犯した者が
犯行時刻に捕庁(ポチョン)から逃げた 疑わしくないか?』
『いいですか…!』
『これは剣契(コムゲ)の仕業だ!!!証拠が示している
そもそもお前が奴らを捕らえただろ』
『そうです…愚かなことに私の過ちゆえ 自らケリをつけます
義禁府(ウィグンブ)の不当逮捕は絶対に見過ごせません』
『何だと?口が過ぎるぞ!ここは王命で動く機関だ
お前は捕庁(ポチョン)に戻れ!』
自分がなぜ追われるのか理解できない同伊(トンイ)は
チョンスがせっかくかくまおうと連れて来た ケドラの家から出ようとする
美味しい肉を食べさせるからとケドラを誘い 計画を実行に移す
腹痛を訴えて苦しむケドラのために 医者を呼んでくるという理由で
同伊(トンイ)は出て行こうとするが ケドラの父親はその必要はないと出て行き
腹痛には人糞を飲むのが一番効くのだと言う
哀れなケドラは人糞を口に入れられ…!!!
同伊(トンイ)は どうしても問安婢(ムナンビ)になりたかった
綺麗な絹の服を着てみたかったのだ
帰らせてくれと懇願しているところへ 父ヒョウォンが現れる
問安婢(ムナンビ)をやってはならないと言われる同伊(トンイ)は納得できない
しかし ヒョウォンはこれまで見たことのない厳しい表情だった
『父さん! 一度くらいお嬢様みたいに絹の服を着たい!!!どうか許して…』
泣き叫ぶ同伊(トンイ)を振り返ることもなく ヒョウォンは去っていくのだった
厳戒態勢の中 チェ・ヒョウォンはソ・ヨンギと会う
僅かな時間で ヒョウォンは事件の手がかりになる資料をヨンギに手渡した
それは 書庫に忍び込んだドンジュが書き写したものだった
『亡くなったお三方の部署で 同じ南人(ナミン)派の人の
不正を調べていました 派閥内で不正を暴くとは奇妙なことでしょう』
『まさか…』
『最初は西人(ソイン)派の仕業だと思っていました
しかしこれにより 仲間割れの可能性も』
ソ・ヨンギは 父ソ・ジョンホに相談する
すでに剣契(コムゲ)の仕業だと処理された事件を再捜査することは難しい
それを王様に進言できるのは 副提学である父ジョンホしかいなかったのだ
ヨンギは心からヒョウォンを心配していた
しかし 刺客に襲われはしないかとつけた尾行をまき逃げるヒョウォン
追っ手を蹴散らすほどの武術と 尾行をまく機敏な動きは
とてもただのオ作人(ジャギン)とは思えなかったが
今のヨンギには ヒョウォンへの信頼の方が勝っていた
早朝 下男に扮した剣契(コムゲ)の1人が ソ・ヨンギの執務室に忍び込む
ヒョウォンからの 次なる情報を机の中に忍ばせるためだったのだが
運悪く役人に見つかり 捕えられてしまう
ヒョウォンは 最後に見た同伊(トンイ)の泣き叫ぶ声が耳から離れなかった
『同伊(トンイ)を都城の外へ逃がさねば』
『え?』
『従事官様からの伝言で 副提学様が王様に事実を告げると…
仲間が解放されても 私は捕庁(ポチョン)で証言せねばならん
不測の事態もありうる 頼んだぞ』
『…分かりました』
チャ・チョンスは 深刻な表情でヒョウォンの頼みを引き受けた
しかしチョンスが迎えに行くと すでに同伊(トンイ)の姿はなかった
その頃 剣契(コムゲ)の砦に 副提学の身が危ないとの知らせが入る
父ヒョウォンと兄ドンジュが 仲間を連れて山道を急いでいる頃
同伊(トンイ)は問安婢(ムナンビ)として絹の服を着せられ上機嫌だった
チョンスは 同伊(トンイ)が問安婢(ムナンビ)として出向いた屋敷を探す
何と 同伊(トンイ)が行った先は オ・テソクの屋敷だったのだ…!
ヒョウォンたちが山道の中に放置された輿を発見し 近づいてみると
輿の周りには側近と人足の遺体が転がり 輿の中では
ソ・ヨンギの父ソ・ジョンホが息絶えていた
その瞬間! 義禁府(ウィグンブ)の兵士に包囲されるヒョウォンたち…!!!
父と兄の身に危機が迫っていることも知らず 同伊(トンイ)はかしこまり
挨拶の口上を述べていた
『幼いのに賢いな 名前は何という?』
『チェ・同伊(トンイ)です』
『嫁がうちに来る時は 侍女として来てもらおう』
『…申し訳ありませんが 私は奴婢ではないので それは不可能です』
『召使いではないのか?』
『はい 私はパン村に住む賎民です』
『パン村…オ作人(ジャギン)の住む村ではないか』
『はい 私の父もオ作人(ジャギン)です』
『……』
『お話がなければ 私は失礼します』
『いやちょっと待て! 姓は…チェだったか?』
『そうです』
『パン村に住む オ作人(ジャギン)のチェか…父親の名は?』
『チェ・ヒョウォンと申します』
『チェ… ヒョウォン? お前が… その娘なのか?!』
オ・テソクの笑顔が 次第に高笑いへと変化する
まさか自分の屋敷に 手配書の娘が転がり込むとは…
テソクの知らせでやって来た役人が部屋を包囲する
用意された食事を食べ切れず 同伊(トンイ)は包んで帰ろうと思い
ちょうど部屋を離れ 包む物をもらいに厨房へ来て騒ぎに気づく
何が起きているのかは分からないが 役人が自分を追っていることは確かだ
どうにかしてここから逃げようと必死の同伊(トンイ)だが…!
同じ時 ソ・ヨンギは父の死を知らされる
しかもその犯人は剣契(コムゲ)で 剣契(コムゲ)の首長は
あろうことかオ作人(ジャギン)のチェ・ヒョウォンだったと聞き驚愕する
ヒョウォンを売ったのは 仲間の剣契(コムゲ)だった
ヨンギへの伝言を頼んだが捕らえられた者だ
命惜しさに裏切った剣契(コムゲ)は申し訳なさにうなだれ
ヒョウォンは 悲しげにそれを見つめる
駆け付けたソ・ヨンギの前で チェ・ヒョウォンは言い訳をしなかった
何も言わず連行されていくヒョウォンの後ろ姿を見つめるヨンギ
危うく捕まる寸前の同伊(トンイ)を チャ・チョンスが救い出す
『一体 なぜ私が追われてるの?』
『詳しい話はあとで』
チョンスは 船着場で待っているはずのドンジュがいないことで不安になる
しっかりと同伊(トンイ)を隠れさせ 砦の洞窟に向かうと
砦は炎に包まれ おびただしい数の仲間の遺体が転がっている
生き残った仲間が 官軍の討伐だと言ってこと切れた
市場に向かって走って行くと 連行されていくヒョウォンとドンジュが見えた
ヒョウォンの前に立ち 懐から短剣を出そうとするチョンス
やめろと目で訴えるヒョウォン
(首長様!)
(落ち着くんだ 剣契(コムゲ)の首長はお前だ ここで終わりにはできん!)
船着場の木陰に隠れている同伊(トンイ)は
いつまでも来ないチョンスを待ちくたびれ不安になる
『父さんの言うことを聞くべきだった ごめんなさい 父さん…』
そんな同伊(トンイ)の耳に 騒ぎが聞こえてくる
官軍の後に続き 縄をかけられ連行されているのは
父ヒョウォンと兄ドンジュだ
『父さん!兄さん!』
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