☤ 同伊(トンイ) 第1話 ☤

粛宗(スクチョン)7年(1681年)

大司憲(テサホン)チャン・イッコンが 川船から釣り糸を垂らしている

そこへ近づく船が…

漁師と見せかけたその男は刺客だった

チャン・イッコンは抵抗する間もなく斬られ

刺客に取りすがりながら その牌札(ペチャル)をむしり取った

一方 雪の降りしきる竹林を逃げ惑う2人の男女

それを追跡する役人たち

容易く取り囲まれた男女は これまでと観念する

そこへ 覆面姿の男たちが現れ 役人に立ち向かう

闘いの中 1人の男の覆面が取れ その顔があらわに…!


役人をかく乱している隙に 別の仲間が無事に船着場まで男女を送り届けると

そこにはすでに船が用意されていた

『この船に乗って 彼らが案内をします』

『もしや剣契(コムゲ)で?』

※剣契(コムゲ):賎民による秘密結社組織

『哀れな賎民を救うと聞いたことがある』

『どうか生き延びてください』

賎民の男女を逃がした覆面の男たちは 役人の追跡をかわした

顔を見られた男は しばらく身を隠すと言い去っていく

もう1人の男は 黒装束に覆面の姿から 宮廷楽師の姿に代わり

本来の自分の居場所に戻っていく

市場では 子供たちによる徒競走が行われていた

村ごとに競い合いをし 勝った子供たちには薬菓が配られる

『パン村の賎民は味を知らないだろ

勝負に勝たなきゃ食えないのに女を出すとは』

※パン村:賎民が暮らす成均館(ソンギュングァン)周辺の村

『やってみなきゃ分からないわ』

『何だと?』

『頑張った方がいいわ 女に負けたら赤っ恥よ』

町の男の子に 威勢よく言い返している女の子は同伊(トンイ)

こうして徒競走の最後の走者が 薬菓をかけて市場を駆け抜けた

僅差で同伊(トンイ)が勝ち 喜ぶ賎民の子供たち

しかし判定は 町の子供たちの勝利だと宣言される

激しく抗議する同伊(トンイ)

『おかしいですよ 私が先に着きました』

『反則をしただろ』

『何が反則なんですか!』

『大通りじゃなく路地を走って来ただろ』

『反則じゃありません どの道でもいいと言われました だから勝ちです!』

『うるさい!反則と言ったら反則なんだ!!!』

どんなに抗議しても判定は覆らず ガッカリするパン村の子供たち

大喜びで薬菓を受け取る町の子供たちだが 覆いの布を開けると…

そこには薬菓ではなく 石ころが積まれていた

大騒ぎの隙に 同伊(トンイ)がすり替えたのだ

こそこそと逃げる同伊(トンイ)たちに気づき 町の子供たちが追いかける

薬菓を手に 散り散りに逃げるパン村の子供たち

同伊(トンイ)は 仲のいい男の子ケドラと一緒に橋の下に隠れた

するとケドラが しゃがんだ同伊(トンイ)の後ろに死体があると騒ぎ出す

同伊(トンイ)は慌てず 役人のような身なりをした死体の脈をとる

『死んだみたいだ!』

『いいえ 違うわ 死んでたら…』

その時…!

倒れている男の手が 同伊(トンイ)の足元に延びた

驚いて悲鳴を上げる同伊(トンイ)

ケドラは泣き叫びながら走り去ってしまう

同伊(トンイ)は 怯えながらも 男が何かを伝えようとしているのに気づく

血を吐きながらも 必死に何かを伝えようとして

男は 手を握って開く動作を繰り返す

その手には 牌札(ペチャル)が…

この男こそ 今朝 川釣りをしていて刺客に襲われた

大司憲(テサホン)チャン・イッコンだった

このままでは死んでしまうと 同伊(トンイ)は人を呼びに走る

イッコンは 行ってしまった同伊(トンイ)が置いていった袋の中に

刺客からもぎ取った牌札(ペチャル)を入れ 絶命してしまう

※牌札(ペチャル):身分証

同伊(トンイ)の知らせにより 大司憲(テサホン)チャン・イッコンの死を知った

漢城府左伊(ハンソンブパンニュン)オ・テソクは驚く

そればかりか 安国洞(アングクドン)でイ刑判(ヒョンパン)が

桂洞(ケドン)ではハン戸曹参判(ホジョチャムパン)が何者かに殺されたという

川原では役人たちによりチャン・イッコンの検死が行われている

それを見ていた同伊(トンイ)が…

『あ 水に浸かった遺体は木綿で包むべきなのに…

あ 証拠が消えちゃう!履物まで置き去りだわ』

『さっきからうるさい!』

『すみません 遺体の扱いが間違ってるので…』

『何だと?』

『木綿で包むべきだと「無冤録(むえんんろく)」に書かれてます

ほら 皺襞(チュビョク)が出来てるし そのうち白泡(ペクポ)も…』

『黙れ 偉そうに!』

※無冤録:朝鮮時代に使われていた法医学書

※皺襞:しわ

※白泡:白い泡

そこへ 捕盗庁(ポドチョン)の武官が現れ 無知な役人を叱りつけ

すぐ同伊(トンイ)の言う通りにするようにという 同行したファン武将が…

『賢い子どもだな どこで知識を?』

『私の父がオ作人(ジャギン)なもので』

『なるほどそうか』

※オ作人(ジャギン):解剖時に遺体を収集する賎民

同伊(トンイ)が遺体の第一発見者だと知った武官は

有用な手がかりを話せば褒美をやると言う

しかし あの時チャン・イッコンは何かを話そうとして言葉にはならなかった

結局 期待した褒美ももらえないまま 同伊(トンイ)は放免される

従事官ソ・ヨンギが 武官に死亡推定時刻と死因を尋ねる

しどろもどろで答えられないファン武将を ヨンギは軍士に降格だと叱る

楽師チェ・ドンジュは 連続して起こる殺人に大勢の役人たちが行きかう市場を

様子を窺いながら歩いている すると後ろから…

『兄さん!』

『同伊(トンイ) 何しに来たんだ』

『市場に来たから一緒に帰ろうかと』

妹同伊(トンイ)と一緒に帰宅するドンジュ

父チェ・ヒョウォンと3人で食卓を囲み

ドンジュが 男を負かし死体にも怖気づかない同伊(トンイ)を褒めると

才能があれば性別など関係ないと話すヒョウォン

『だけど女らしくない 問安婢(ムナンビ)にも落ちたし』

『それは関係ないよ』

※問安婢(ムナンビ):夫人の代わりに正月の挨拶に行く下女

同伊(トンイ)は両班(ヤンバン)の屋敷に問安婢(ムナンビ)を志願していた

その日ばかりは着飾ってもらい 夫人の代わりに親戚に挨拶しに行けるのだ

一度でいいから絹の服を着てみたい同伊(トンイ)だったが

賎民からは選ばれないのだった

父と息子は町の様子について話し合う

南人(ナミン)の高官が殺され 騒動になっていると心配する2人

ヒョウォンは同伊(トンイ)の寝顔を見ながら 腰から巾着を取り出す

それは数日前にもらった 同伊(トンイ)手作りのものだった

戸締りに行ったドンジュが 暗闇から現れた何者かに取り押さえられる

咄嗟に反撃し取り押さえると 後ろからその上官が現れ

中から物音を聞いたヒョウォンも飛び出してくる

その上官とは 捕盗庁(ポドチョン)の従事官ソ・ヨンギだった

身分こそ違うものの ヨンギはヒョウォンを心の師として仰いできた

しかしヒョウォンは ヨンギの出世の妨げになると思い姿を隠したのだった

ヨンギは捜し当てたヒョウォンを捕盗庁(ポドチョン)に連れて行き
検死させる

3体とも死因は刺傷で 急所を突かれ絶命したと判定するヒョウォン

凶器は菖蒲剣(チャンボゴム)だということまでは一致した

※菖蒲剣(チャンボゴム):剣契(コムゲ)や一般人が使う剣

しかし 犯行現場に着いては…

『2体は発見場所で殺されましたが 大司憲(テサホン)様は違います』

『部下も同意見だが それ以上は分からない

殺害場所の見当もつかないのだ』

『川を流れてきた遺体を見てそこまで分かるはずは…』

『分かるということを教えてやろう』

言い訳する部下を睨みつけ ヨンギはヒョウォンに尋ねる

『殺害場所は?すでに分かっているはず』

『“三田の渡し”かと思います』

『なぜだ』

『朝早く釣りに出られたので』

『都城には釣り場が数百もあるんだぞ』

『ワカサギの漁場は10ヶ所足らず

遺体の手にウロコが付着し しかも深い傷を負って川に落ちれば

流される前に亡くなります でも命を取り留めていたのは

水温が高いからでしょう』

『水温が高い?』

『今日は 川の南側は春の陽気でした

つまり 川の南側のワカサギが釣れる漁場

そして今の時期 2時間で10里ほど流れる川は “三田の渡し” のみです』

唖然とする部将(ブジャン)たち

もう賎民だとあざ笑うことは出来ない

直ちにヒョウォンの推理通り 動くしかないのだった

新芽のお茶で ヒョウォンの手柄を称えるヨンギ

『単純な殺人じゃない 組織的に両班(ヤンバン)を狙ってる』

『恐縮ですが もう犯人の目星はついているのでは?

大司憲(テサホン)様の殺害場所をご存じでしたよね

確認のために私を呼んだのでは…』

『ああ そうだ 誰の仕業か見えそうだ

ともすれば 長い間追ってきた奴らなのかも』

『……』

南人(ナミン)派首長格の3人が殺され 次の標的にあげられる人物

漢城府左伊(ハンソンブパンニュン)オ・テソクを訪ねるヨンギ

『私たちと敵対する西人(ソイン)派の仕業だとでも?そんな考えは許せん!

政敵を殺すほど 我が国は腐敗しとらん!』

『それは違います 他の者の犯行でしょう』

『他の者?』

『剣契(コムゲ)をご存じですか?きっと奴らの仕業です』

※剣契(コムゲ):賎民による秘密結社組織

宮殿では 明聖大妃(ミョンソンテビ)のための宴が開かれ

民衆も自由に参列することができた

楽師である兄ドンジュを見に来た同伊(トンイ)は

ソリという女性に声をかけられる

兄の知り合いだというソリは 親しげに笑いかける

同伊(トンイ)はそれよりも 兄の演奏姿が見たくて走り出す

するとそこへ突然 大勢の役人がなだれ込むように入って来る

役人は 楽師の中に紛れ込んでいる剣契(コムゲ)の捜索だという

王命だと言われれば 明聖大妃(ミョンソンテビ)にも拒否権はない

ドンジュはうろたえる…!

次々に捕らえられる楽師たち

おろおろしている同伊(トンイ)の後ろから 兄ドンジュが…!

捜索は宮殿だけではなかった

賎民の村もすべて捜索され 大勢の容疑者が連行されていく

ヒョウォンは捕盗庁(ポドチョン)の従事官ソ・ヨンギを訪ねる

剣契(コムゲ)は理由なく殺したりはしないと言うヒョウォンに

ヨンギは ずっと剣契(コムゲ)を追ってきたのだと答える

ヒョウォンが殺害現場だと指摘した三田の渡しこそ

ドンジュたちが賎民を逃がすため 役人と斬り合った場所であった

今回の事件とつなぎ合わせ ヨンギは剣契(コムゲ)の仕業だと確信したのだ

その頃 オ・テソクを訪ねたのは甥のオ・ユンである

今回の殺人事件の黒幕は この叔父と甥の仕組んだことであった

同じ南人(ナミン)の中に犯人がいるなどとは思うまいと せせら笑うオ・テソク

『南人(ナミン)のために貢献してくれた者だ

しかし その地位に長く居座り続けた 最後は時流も読めず意地を張ってた

あのままでは共倒れしていたはず

衰えに気づいた時に自ら身を引かないから

結局 私が手を下すことになってしまったな』

『有能な従事官ソ・ヨンギがだまされるでしょうか』

『疑っていると犯人に見えるもの

すべての証拠が剣契(コムゲ)に不利な状況だ

いくら賢くても欺かれるだろう』

密かに宮殿から逃げ 難を逃れたドンジュは 仲間と密談し対策を練る

兄の様子がおかしいと感じる同伊(トンイ)

そこへ ケドラの情けない声が聞こえてくる

薬菓を奪われた町の子供たちが ケドラを捕らえたのである

同伊(トンイ)の家にまで押し入り 薬菓が入っている籠を奪う

逆さに籠を振り 薬菓だけを持っていく町の子供たち

連れ去られていくケドラを助けるため 追いかけようとする同伊(トンイ)

その時 籠からこぼれた牌札(ペチャル)を見つける

『これは…』

殺された役人が 死の間際に握りしめていた牌札(ペチャル)だ

同伊(トンイ)が人を呼びに行っている間に 籠に入れたに違いない

“義禁府軍官(ウィグンブグングァン) 姜正赫(カン・ジョンヒョク)


有用な情報があれば褒美をくれると言った役人のもとへ 同伊(トンイ)は走る

ケドラも助けたかったが 今はこっちの方が重要だった

義禁府(ウィグンブ)では 子供が証拠の牌札(ペチャル)を

持って来たことで騒ぎになっていた

オ・テソクの甥オ・ユンの部下が落とした牌札(ペチャル)だったのだ

このままでは 殺害犯が発覚してしまう

直ちに証拠となる牌札(ペチャル)を処分し その子供も殺せとの命令が下る

しかし 門前で待っているはずの女の子 同伊(トンイ)はいなかった

慌ただしい義禁府(ウィグンブ)に ソ・ヨンギが現れる

ソ・ヨンギの手には 例の牌札(ペチャル)が…!

ヨンギは牌札(ペチャル)の持ち主カン・ジョンヒョクを連行する

これは一個人の問題ではなかった

ジョンヒョクの口からオ・テソクの名が出れば大変なことになる

オ・ユンは慌てて叔父に使いを出す

同伊(トンイ)は ソ・ヨンギを訪ねてきた父ヒョウォンとばったり会う

この有用な手がかりを届けてくれた子供が ヒョウォンの娘と知り驚くヨンギ

大司憲(テサホン)を殺したのが 義禁府(ウィグンブ)の人間だとすれば

黒幕は大物に違いないのである

大司憲(テサホン)が死の間際にやっていた手の合図も手がかりになった

ヨンギは賎民であるこの父と子に感謝し 礼を述べる

この事態の報告を受けたオ・テソクは…

『1つずつ邪魔なものを取り除いていけばいい まだどうにでもなる』


父と別れ 先に帰宅することになった同伊(トンイ)

ソ・ヨンギからもらった褒美の金で薬菓を買い ケドラを助けに行かなければ…

帰る途中 旅の僧が同伊(トンイ)を呼び止める

家へ帰るなら大通りを歩けと 助言する僧

『あの子に物騒な気配を感じる あぁ…私の力も底を尽いた

あんな賎民に…初めて見るような天乙貴人の相が見える』

※天乙貴人:天の貴人により助けられた吉相

ソ・ヨンギは まだいるはずのヒョウォンが消えていて 怪訝な表情になる

そこへ 捕らえたカン・ジョンヒョクが牢の中で死んでいると報告が入る

帰宅しようと歩いているヒョウォンには 尾行がついていた

気配を感じたヒョウォンは警戒し 気づかれたと悟った尾行の輩が襲ってくる

絶体絶命のチェ・ヒョウォンを助けたのは チャ・チョンスだった


三田の渡しで覆面をはぎ取られ 顔が知れてしまったために

雲隠れしていたのだった

『チョンス!』

『一体なぜ狙われてるんですか?』

『…同伊(トンイ)が危ない!』

『え?』

ようやく家に着いた同伊(トンイ)

中から出てきたのは 見知らぬ男だった

『お前が同伊(トンイ)か?』

『はい そうですが どなたですか?』

ヒョウォンはチョンスと共に同伊(トンイ)を捜すが…

『どこにもいません 首長(スジャン)様!』

『……仲間を集めろ 今すぐだ!』

山中の洞窟内に 剣契(コムゲ)の砦があった

首長(スジャン)ヒョウォンの命令で 仲間が続々と集まってくる

その頃同伊(トンイ)は とある両班(ヤンバン)の屋敷にいた


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