高橋秀俊『数理と現象』の「人間の特性8則」について
以下、引用。
以下、引用。
最後に、これからの計算機システムの設計の指針ともいうべきものをまとめて述べてみよう。
それは結局、計算機は人間のためにあるものであり、いかなるときにも人間の忠実な奴隷であるための条件を述べたものである。
それはまた、人間の(機械とは違った)いろいろの特性を機械(ハードウェアとソフトウェア)が心得ていて、人間の機嫌を損わず、
また人間の欠点を補うようにすることである。そこで人間の性質にもとづいて列挙すると、
1.人間は気まぐれである。
だから機械は人間がいつ気が変わっても、それに対する処置ができるように用意しておかなければならない。
プログラムはいつでも中止して他の勝手なプログラムに切りかえることができ、
入力、出力等がプログラムと独立に進行している場合も入出力を途中で打ち切ることが可能でなければならない。
いったんセットしたらある処理が完了するまでリセットできないようなレジスターが存在してはならない。
鍵盤入力はいつも計算機に割込み可能でなければならないし、それが実際に使われる前に気が変わって
変更しようとしたときは変更が可能でなければならない。タイプライターの入力部と出力部は独立でなければならない。
2.人間はなまけものである。
だから計算機は人間が何もしないですませるところはすますようにしなければならない。
細大もらさず人の指示をあおぐのは感心しない。ある時間人間が返答しなければ、適当に判断して進むようなことが必要である。
また機械から出るメッセージも、これに対する人間の指示も、誤りを防ぐに十分な限りで、なるべく簡潔にすべきである。
3.人間は不注意である。
だからタイプの打ち誤り、ボタンの押し誤りがとりかえしのつかない結果を生じることがないよう注意し、
特に、そういう重大な指示については確認操作を必要とするようすべきである。
また一般の入力も一度バッファに入れてすぐ後から訂正できるようにする。
綴りの誤り等にはある程度の許容度(警告だけ出す)があって然るべきである。
4.人間は根気がない。
だから、仕事を途中でやめて、後からまた続きをやることが可能でなければならない。
5.人間は単調をきらう。
だから、入力に同じことの繰返しが必要な場合は、そのかわりに適当な繰返し指令(DOループ類似の)がいつも使えるよう考慮する必要がある。
6.人間はのろまである。
だから、入力がなかなか来なかった場合に機械時間が無駄になったり、他の利用者に迷惑がかかったりすることがないように考慮する必要がある。
7.人間は論理的思考力が弱い。
だから、入力言語はいかに論理的にすじが通っていても、あまり複雑な構造をもつものは不適当である。できるだけ自然言語に近いことが望ましい。
8.人間は何をするかわからない。
だから、人間が返事をすべきときにしなかったり、不合理な入力を入れたりした場合にも、
他の利用者に迷惑のかかるような誤動作をおこしてはならない。
入力装置自体も機械的に丈夫で誤動作や無理な操作によってこわれないようにする必要がある。
以上、思いつくままに述べたのでまだ他にも必要なことがあるだろうし、
また、かなり個人の主観が強いかもしれないが、要するに時分割システムは計算機を人間の延長として
最も機動的に使おうということである。鉄道や飛行機が人間の足の延長だとすれば、
これに相当する頭脳の延長は在来の中、大型計算機であろう。
これに対して時分割方式はタクシーや自家用車のように小まわりのきくものを目指している。
新幹線や航空路が今後も栄えるであろうように、何回も使う完成された大型プログラムの実行には
今後も在来のような計算機の使い方が続くであろう。
が、今後計算機の利用がますます多様化し、日常化してくるにつれ、自家用車がますます普及するのと同様に、
時分割方式はますます発達するであろう。