カギ屋は見た! -2ページ目

なりすまし

家や車のカギ開けの場合、本人の身元確認(免許証等)をし、

伝票に直筆のサイン又は印鑑をもらうのがわが社の決まりです。


ある日、オバサンとおぼしき人より

「家のカギを無くしたので開けて欲しい」との依頼で、

ある公営住宅の一室を開け手続き通り終了。


数日後、警察や郵政監察官から問い合わせがあり、

その家の預金が不正に引き出されていて、

わが社の名刺がその家に残されていたとの事。


翌日朝、郵政監察官が当社を訪れ、防犯ビデオの写真を見ながら事情聴取中、

たまたま電話があり家を開けて欲しいとの事。


話し方や声の調子から、「あ!こいつだ」と直感し、時間稼ぎをしつつ、

警察とも連絡をとり捜査員共々現場へ急行。


つけホクロをし、髪型を変えてたものの、前のオバサンでその場で御用となりました。


同じ公営住宅の同じ階で、近所つきあいもしているので、

ハンコのありかも一目瞭然、

最初のとき不信に思わなかったのも無理はありません。


私達は犯罪に巻き込まれたり、利用されないよう常に気を配ってますが、

たまに落ちた(落とし穴)でした。

強制執行

商売柄、裁判所の強制執行や警察の強制捜査(ガサ入れ)に立ち会う事が多い。

悲喜こもごもの世の中を裏側から見る事になるのだが、

その中で印象深かったのを一題。


真冬の吹雪の日、余市の同業者からのSOSで出動した。

聞けば外洋クルーザーに納めた無線機や魚探を差し押さえるので

東京から債権者と執行官が来ているけれど

一日掛かっても開けられなかったとの事。


翌日も猛吹雪の中余市港へ目指す大型クルーザーは港の中ほどに停泊しており、

地元の漁船に頼んで横付けし、雪をかきわけ船室のカギを開け中の確認をし、

赤い紙を貼って又カギを閉めて終了。

睫毛にツララ、手はガチガチで寒い思いをしました。

船舶錠は塩害があるため特殊な構造なのです。


その半年後、取引先の銀行より強制執行するので手を貸してほしいとの事。

良く聞くと何やら記憶にある物件なのです。


同行してみると、陸に上がっていたその外洋クルーザーは前と同じ船、

勝手知ったる何とかでスイスイと作業終了。

今度は船体そのものを差し押さえして一件落着。


私は一粒で二度おいしいでしたが、

五千万円以上はするであろう優雅な外洋クルーザーも

借金まみれで終には競売にかけられる運命に・・・


どんな夢を見てそのクルーザーを買ったのか、人の心は知る由も無い。

一人前

この商売で一人前になるには、三~五年かかると言われている。


カギ開けや、紛失キーの製作の技術は勿論だが、

鍵の種類の多さに慣れるまでの期間である。


建物の場合、三十~五十年以上経った錠もあり、廃盤になっていたら代替品を、

どこをどう加工して付けるのか現場で体験して初めて身につくからである。


この他に先輩達からの言い伝えで、「死体をみて一人前」というのがある。

「部屋の中で死んでるかもしれない」「殺されてる可能性がある」と

身内の人や警察からの依頼で出動することがある。


捜査員や鑑識・関係者多数のギャラリーを引き連れ緊張のカギ開け作業。



カチャッ!「開いた」



なだれ込む捜査員・・・

何事もなければホッとするが時にはその現実に直面する。



「今日、人が死んでました」


蒼い顔で帰ってくるとすかさず

「お~おまえも一人前になったか!」


先輩がニヤリとして言う。