抑留見聞記(4)   十銭硬貨 | SAPPERの兵隊・抑留記

抑留見聞記(4)   十銭硬貨

 
 手元にある「五銭硬貨」を眺めてる。現在使われておる「五十円玉」より小振りである。表(中央に穴。上に菊の紋章、下桐の図案左右は右から五銭)裏(中央の穴の上部に右書大日本、下に大正十年)とある。
 
 眺めてるうちに、遠くシベリア抑留時代を思いだした。
 
 抑留宿舎の外の日溜りの方だ。チンカンチンカン音がするので覗いた。戦友のYが十銭硬貨の穴を紡錘形の鉄棒に刺し入れ、硬貨の縁を金槌で叩いてる音だ。近くで聞くと鉄棒も硬貨も共鳴しキーンキーンと澄んだ音色だ。 
 

 叩かれた十銭玉、穴は外に向かって捲れ、外縁は内に向かって夫々捲れて、穴は次第に大きくなる。少しずつ、少しずつ進展する仕事である。技と根気の結晶である。
 
 何日か経て作品を拝見した。あの十銭玉は見事な指輪に変身し彼の手中でニブク光っていた。
 
                   2009.2.9 記

 

    用語解説

 

【紡錘】(ぼうすい)
 

    糸を紡ぐ道具。丸棒の両端が最も細く、中心に向かってだんだん太くなり中心が最も太い。