壁新聞
ソ連側の思想的締めつけは、次第に厳しくなり、抑留者が所持していた数少ない書籍も見つかれば〔検閲〕と称して没収され二度とかえらなかった。われわれは書籍を分け、分散し腹に巻いて作業に出たり、それなりに工夫、抵抗を試みたが、永くは続かなかった。ペンもインクも紙もない、漢字活字の無い、索漠とした毎日となってしまった。目につくのはロシア語の「プラウダ」「イヅベスチャ」などソ連の新聞である。そんなもの読めるわけがない。
そんな環境の中で唯一〔検閲〕を通過したのが『壁新聞』である。内容は[天皇制打倒][労働は神聖なり][働かざる者食うべからず]‥‥に始まる臭気粉々たるものであったが、中に娯楽欄があり、俳句、短歌小噺などあった。
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小噺 『へのこ』由来 (あらすじ)
ここは大名屋敷の連なる江戸の街である。
さる大名(殿様)に美貌の姫が居られた。
殿様のお側に仕える若侍、姫に一目惚れ、寝ては夢、起きてはうつつ幻の‥‥の状態。狂わんばかりの毎日のお勤めである。そこで一念発起、脱藩す。
仙人の住む山に隠る。三年の修行で「透明人間」の術を九分九厘会得した。あと一厘、濡れるとその部分に「術」がかからない。
これを会得するには更に数年かかるという。そんなに長い期間、姫様がよそに輿入れしないという保障はない。彼は決心する。透明人間に変身、一厘の欠点を抱えたまま山を下りる。
勝手知っている大名屋敷、姫の寝所に忍び込み、姫を手に入れ思いを遂げた。
一方、姫様はいきなり重いものがのしかかり、思わず「アレッ!」‥‥‥ 屋敷中総員非常呼集
くだんの透明人間、長居は無用と寝所を抜け出した。濡れて「術」の効かなくなったへんてこりんなものが、廊下をピョンピョン、曲者出会え出会え、雨戸を蹴破って屋外へ、隣屋敷との境の板塀にあった抜け節の穴にくだんの代物を押し込み、塀にぴたり、張り付く。
お隣りの屋敷も、騒ぎを聞きつけ厳戒体制。
お隣りのお姫様も起きてきて、
姫 「爺ッ!あれは何じゃ。
爺 「塀から出てる? 『へのこ』と申す‥‥。」
2008.11.19記