Bさんの奇妙な体験(その5) --後日談--
さて『事件』のことだ。(馬賊の捕虜)とは不名誉な話だ。二人の胸の内に深くしまい込み他言無用、と決める。幸い出張予定期間内に帰ることができる。
出張所では相棒と一緒に調査報告書を纏め上司に提出。後は平常の業務に戻った。
2~3ヶ月経った頃だったと思う。支社から例の「調査報告書」の件で呼び出された。
省庁の役人との打合せだ。省庁の会議室には、既に庁側の役人が入室していた。大きなテ-ブルを挟んで挨拶を交わす。一番上座の男を見て飛び上がらんばかり驚いた。『馬賊の頭目』だ。彼の顔はニコニコしながら片目をつぶり「何も言うな」と知らせている。
蛇足
頭目は例の「事件」後、満洲国側に帰順して省庁の高官に就いていたのだ。
銃声や、徐行する列車の後の方に乗った人影は、おそらくBさん達監視のための尾行者だったのだろう。
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【准尉】(じゅんい)軍隊の階級で尉官の下、下士官の最上位。
【満洲国】(まんしゅうこく)日本が満洲事変によって占領した中国東北部(現在の黒竜江省吉林省遼寧省内モンゴル自治区北東部)につくりあげた傀儡(かいらい)国家。
【満洲事変】(まんしゅうじへん)1931年(昭和6年)9月18日奉天(現在の瀋陽)郊外の柳条湖で満鉄線路の漠は事件を契機として始まった日本軍の中国東北部への侵略戦争。
【傀儡】(かいらい)陰にいる人物に思いどおりに操られ利用されている者。
【馬賊】(ばぞく)馬に乗って荒らし回る賊。特に清代末頃から中国東北部(旧満洲)を中心に荒らし回った騎馬の群盗のこと。