兵隊・抑留記(86)  あっぱれ雲古隊長 | SAPPERの兵隊・抑留記

兵隊・抑留記(86)  あっぱれ雲古隊長

 

抑留後期 - その7
 
 
 
 収容所で一番汚い仕事といえば、『雲古・小便』の始末であろう。 厠の便槽を一杯にした『雲古』と厠の外の『小便』槽(二米角深さ50Cm位)の氷塊を鉄棒で突き崩し、荷車で収容所外の谷間に捨てる作業だ。
 
 この『雲古隊長』がK少尉である。
 
 この『雲古』、使用毎に凍りつき鋭角に盛り上がりながら成長する。兎に角始末が悪い。益々成長すると今にも尻に突き刺さるような恐怖感を伴う。
 
 さて、凍結した『雲古・小便』を突き崩すとき、どうしてもこの黄色い氷の飛沫を受けてしまう。作業後、衣服をよく払って宿舎に帰るが、払い残したものが暖かい室内で溶け染み着く。とにかく臭うのである。
 
 ところが『雲古隊長』は平然そのものであった。
 
 朝、衛門の寒暖計はマイナス20数度であり珍しく暖かく感じた日である。
 
 入坑するため正門付近に集まっていた“俺”は、珍しく『雲古隊長・K少尉』と顔を合わせ挨拶を交わした。外套の中は少尉の襟章をきちんと付けた将校服だがヨレヨレれだ。顔は筋になった垢で如何にも汚い。
 
 「顔、汚れていますよ」
 
 「お、丁度いい、水をくれ」素早く水筒の水を口に含むと、水筒を“俺”に返してから、口の水を両手に受けぐるぐるっと顔を撫ぜるや、煮染めたような手拭いで顔を拭き「これでいいかい」。これは並みの将校じゃできない。
 
 
つづく