兵隊・抑留記(65) 落盤 - 危うく命拾い
ブカチャチャ炭鉱 - その7
☆ 《三尺層》での話。
前の番方が取り残した切羽の石炭を払う作業だった。“俺”は切羽の最上部に入り《ナワラダボイシュク》(運炭夫)である。
《三尺層》での移動は、上りは、両手・両膝・足先を使う。下りは主に両手と尻でずり下る。 《運炭》はシャベルを使い石炭をコンベアに入れる作業だ。天井が低いので座って行なう。
運炭中、ガクン!“俺”の肩にのしかかるものがある。落磐だ。
“俺”の顔は粉炭の中に半分埋まり、辺りは、もうもうたる炭塵だ。身動きできない。鼻先でコンベアが動いている。それでも肩に触れている岩盤を一生懸命支えている積もりだった。ひと呼吸ごとに押し付けられる。ところが、或る程度押し付けられたら肩が僅かに空くではないか。
しかし、“俺”の下半身は、岩盤に押された石炭の中にあり身動きできない。“おーい、大丈夫か”と、仲間の叫び声が聞こえる。“俺”はそれに答えて、鼻先で動いているコンベアを止めてもらった。岩盤がずり落ちないよう、石炭の中を静かにもがきながら、コンベアを乗り越え、うまく裏山に脱出することができた。奇跡的に五体満足である。異常無し。《もし、‥‥‥だったら。》そんなこと、考えないことにする。
とにかく、命びろいである。
脱出後、分かったことだが、2本ある支柱のうち“俺”から遠い支柱は、くの字に折れて飛んでおり、“俺”の頭に近い方の支柱は、そのまま残り、且つ、支えの桁は支柱の際で折れたが切断されず、岩盤の重量を支えてくれたのである。岩盤の大きさは畳一畳、厚さ5~60cm位、重量約2トンはあるだろう。
岩盤は斜めになった状態で、桁に寄り掛っていたのである。
何のことはない。前日、苦労して運んだ太い支柱や、根株つきの桁が、“俺”を救ってくれたのである。
つづく