兵隊・抑留記(36) 上官に盾突く者がいる
独立工兵聯隊 Ⅱ - その5
連日の行軍で、足の裏はマメの上にマメができて、休憩後の第一歩が火のように熱い。思い切り2~3回飛び上がると少し落ち着く。足裏をマヒさせて行軍である。野営数回、臨汝鎮に着く。(洛陽の南160Km位)
臨汝鎮での任務は、歩兵の陣地構築であった。
“俺”は7名位で班を組み、伏牛山系の八〇八高地の測量を行う。
山頂付近で陣地構築をしている中隊主力が見えるうちは、心強く安心だが、駐屯地八〇八高地の東側駐屯地を離れ、高地の裏、西側山麓付近に入ると、重い測量器材運搬のため、火器・歩兵銃の携行2丁位では、やはり気持ちのいいものではない。八〇八高地の南東に少し低いがなだらかな台地(A)を含めた測量図を作成に数日要した。
次の中隊長命令は、主力から離れた台地(A)の陣地構築であった。
台地(A)南東隅に軽機関銃掩体を設ける作業だ。先ず、主軸線・射角を決め、掘削である。掘削が終わったところで、天蓋をつけ土で覆う。銃眼は敵方から黒々と見えるので偽装を施す。九分通り出来上がったところで、中隊長が馬でやってきた。
作業員を集め、敬礼の後、作業報告をした。ところが、馬から降りて、掩体(えんたい)内部を査察した中隊長は、ジロリ“俺”の顔を見るなり《フン、貴様の作る掩体とはこんなものか》。“俺”はそれはないだろうと、《『築城教範』にあるものです。どこがおかしいのですか》と、一生懸命作業してきた部下の手前もあったのだろう、直ちに反論した。
下士官候補者隊の教官・聯隊副官・中隊長と順風満帆だったM中尉は今まで部下から反論されたことがなかったのだろう、顔を真っ赤にして一言も喋らず、馬に飛び乗るや、ひと鞭くれると、サッと行ってしまった。
中隊長、余程頭に来たらしい。次の日の朝礼である。中隊全員が集まったところで、M中隊長久々の挨拶があった。《昨今、作業に熱心の余り、上官に盾突く者がいる‥‥‥》。なんだい、“俺”のことじゃないか。
つづく