兵隊・抑留記(34)  イナゴの大群 | SAPPERの兵隊・抑留記

兵隊・抑留記(34)  イナゴの大群

 

 

独立工兵聯隊 Ⅱ - その3
 
 
 我々兵隊は七里河の駐留部隊を別名茄子唐辛子部隊と称した。兵站(へいたん)からの補給線が延び、途中、黒石関などの要衝を通過するためか、物資が片寄り給養がままならなくなってきたのだろう、来る日も来る日も現地調達の高粱飯に、茄子唐辛子をアレンジしたものであった。
 
 ある日、忽然と地から沸き上がったように蝗(イナゴ)の大群が出現した。蝗は若くして未だ羽がない。次から次と沸き上がるように地面を這い進んでくる。思い思いの集団が右に左にあるいは後退もする。だが、全体として一定の方向に進んでいる。凄いエネルギーである。地面が動く、壁が動く、目がくらくらする。
 
 窓に西日を避けるために「よしず」が下げてあるが、それを次から次とよじ登る。大集団である。上端のわずかな隙間からポトリ、ポトリと室内に落ちてくる。これでは、勤務も儘ならない。
 
 「よしず」の片側面に取りついた蝗は逆光で真っ黒だ。「よしず」を外し、空(から)のドラム缶にあけるが数回で一杯になってしまう。
 
 厠(かわや)を襲った蝗は便槽に落る。先に落ちたやつは這い上がろうとするが、次々と落ちこんでくるので、槽の中は沸き返るようだ。やがて、これも一杯にして前進である。
 
 若い蝗は踏みつぶすと水となり、青臭い汁を残して気持ち悪い。
 
 これではロクに休憩もしてられない。流石の工兵隊精鋭もこれには参った。
 
 やがて、数日で羽が生え、一斉に飛び立つ、天空全面、黒い帯となり延々と。壮観である。高粱畑は丸坊主、全滅である。僅かに残った茎の先に蝗が一匹。
 

 

つづく