兵隊・抑留記(19)  馬の尻に捧げ銃(つつ) | SAPPERの兵隊・抑留記

兵隊・抑留記(19)  馬の尻に捧げ銃(つつ)

召集  独立工兵聯隊 - その2
 
 
 
 聯(れん)
隊長・T少佐については、工兵下士候隊が、“俺”の初年兵・現役時代の兵舎(北洋営)の隣だったので、よく知っている。兎に角、《人のアラを捜してこずき回す、灰汁(あく)の強い(まあ、下士候隊の隊長ぐらいが適任か)》との印象が強く残っている。兎に角嫌な奴だ。
 
 また、聯隊長Tにしても、なんとなく“俺”を覚えていた節がある。
 
 聯隊の正門前の運河は白河に通じる。運河に向かって左が上流、右が下流である。下流側50m位のところが敷地のはずれであり、そこに木橋が架かっている。
 
 現役当時の話をすれば、橋を渡らず右折して聯隊の塀に沿って行くと、右側に下士候隊の正門がある。逆に、橋を渡った先が、天津市街方面であり、営外官舎方面でもある。朝、営外官舎住まいの将校連中は、橋を渡って出勤してくる。
 
 “俺”がまだ“座金の付き伍長(幹部候補生)”で衛兵勤務に就いている頃のこと、営門を佐官(大佐~少佐)以上が通過する時は、衛兵は衛兵所前に整列、“捧げ銃・頭右(ささげつつ・かしらみぎ )”の礼を行う。
 
 聯隊長K大佐の場合、乗馬の聯隊長は橋の中程まで来るとわざわざ馬を引き止め足踏みして、衛兵に知らせた後、ゆったりとやってくる。衛兵は衛兵所前に整列、“捧げ銃・頭右”の礼をする。聯隊長はおもむろに答礼して営門を通過する。
 
 少佐・T下士候隊長は違う。わざわざ他所の聯隊の営門(表門)を通り裏門から下士候隊に入るという意地悪を時々やってくれる。
 
 歩哨も早めに衛兵整列を知らせるが、整列の気配を感じると、橋から真っ直ぐ下士候隊に向かってしまう。
 
 今朝はどうかな、馬は並み足、ゆっくりと橋を渡っている。そのまま、真っ直ぐ下士候隊へ向かうと思っている歩哨の一瞬の隙を突いて、急に馬の鼻面をこちらに向け今度は速足だ。正に突進である。歩哨は泡を食って衛兵整列を叫ぶが、時既に遅し。“捧げ銃・頭左”は営門通過後の“馬の尻”に“なってしまう‥‥。どうやら、ゲームを楽しんでいるようだ。兎に角〔嫌な奴〕だ。
 
 “俺”は直ちに聯隊本部に赴き、聯隊副官に事故報告する。副官曰く、《あれは、趣味だほっとけ‥‥》。一件落着である。
 
 あるとき、衛兵所の通過の際、馬を止めしげしげと“俺”を見て《座金付き(幹部候補生)を衛兵に就けるとはおかしい》と、“俺”に向かって言う。しかし、“俺”に言ったってしょうがない。又、聯隊副官に報告。曰く、《ほっとけ‥‥》。 
 
 聯隊編成後、直ちに聯隊全員(約1千名)を集めての聯隊長の訓示があった。
 
“俺”は目立たぬよう後列に並んでいたが、訓示後、そこの下士官《只今の話を復唱せい》と、“俺”を指すではないか。“俺”は最初から、ろくすっぽ聞いていないので、すかさず《ハイッ、忘れました》。聯隊長、唖然、声なし。独立工兵第××聯隊編入第一日である。
 
 
 
 
 
つづく