兵隊・抑留記(6) 手製爆弾で威嚇
討伐
☆ 初年兵も1941年(昭16 )の春頃から討伐に駆り出されるようになった。
平時の駐屯地《天津・北洋営(聯隊)》は聯隊本部、器材小隊の外、中隊は四個、一個中隊は四個小隊、一個小隊は四個内務班、で編成され、一個内務班は15名~20名位だったと思う。
駐屯地《北洋営》に留守隊を残して、討伐隊は編成される。
一個分隊は、初年兵(3)に対して、古年兵(2)位で、構成されていたと思う。古年兵の中には、なにかにつけ自己を誇張し、威張りちらす奴が居るものだ。こんな連中はこのときとばかり、ますます増長する。
討伐隊編成時各兵に弾薬、糧秣(米五合、非常用圧縮食料など)が支給される。
工兵の場合、兵一人当携行弾丸数(三八式歩兵銃)は、前弾丸入れ(一個)30、後弾丸入れ60 計90発である。
戦闘が主目的の歩兵は前弾丸入れ《二個》、後弾丸入れ《一個》の計120発を携行し、その外、重機関銃、軽機関銃、歩兵砲などの火器がある。
工兵の火器は歩兵銃と、若干の軽機関銃があるだけだ。その外、《火焔放射器》(トーチカ攻撃用)があった。この火焔放射器は敵トーチカに近づきトーチカ内を焼き、敵兵を殺傷するための兵器である。繰り返しの演習・訓練はまず、重い燃料ボンベを背負っての匍匐前進(ほふくぜんしん:腹ばいになって前進する)である。匍匐の際重いボンベで首筋を押さえ込まれるので、前方確視が困難である。嵩張った背中のボンベはいくら匍匐しても敵のトーチカより丸見えである。その上、肝心なときに点火不良をおこす。こんな信頼性《ゼロ》の不良品では、自殺行為に等しく、実戦には役に立たないしろものであった。
そこで、多用されたのが《爆薬投擲(とうてき)器》だ。これは爆薬を豊富に利用できる工兵独特の兵器である。
凡そ、30センチ立方位の鉄の箱の上面に直角に木棒(直径4~5センチ・長さ30センチ位)を取りつけ、箱の中は爆薬(黄色薬)である。これに正副2本の雷管を固定する。雷管には長さ4~5センチ位の導火索(黒)を挿入緊結し、導火索の他端には引き抜くと発火する発火装置を固定する。雷管2本は信頼度を増すためである。これが投擲される爆薬のあらましである。
《投擲器》は木棒の径に合った鉄製のパイプを鉄製の台に角度45度位に固定したものである。パイプの根元に小さな穴を設ける。発射用の黒色薬はパイブの上部から挿入され、しかる後に爆薬の柄を静かにパイプの中に入れ、爆薬の発火装置の紐は投擲器に固定される。
《投擲器》は発射の反動でひっくり返らぬよう前部に鉄杭を打ち、且つ土嚢などを置き固定する。これで準備完了。八路軍は討伐隊の動きに合わせて、付かず離れずある一定の距離をおいて移動し、我に隙あらば攻撃しようとしているのが分かっている。
そこで野営の際の夕方、敵を威嚇するためによく発射した。《投擲器》のパイプの小さな穴からなかの黒色薬に点火する。“ボワーン”発射である。爆薬は西日に向かってゆっくりと柄を回転させながら飛んでいく。やがて、地上2~30m上空で炸裂する。“ババリーン”空気が裂けて辺りが一瞬真っ赤になる。これは破壊力はないが、音は凄い、脅かすにはもってこいである。我が討伐隊は朝までゆっくりと休息できるというわけである。
駐屯地《聯隊》の営庭に整列した討伐隊は足並みを揃え、威風堂々、ラッパを吹奏しながら営門を出て敵地に向かう。当分電灯とお別れとなる。駐屯地には、明るくはないがそれでも、電灯はある。ところが、天津を離れてすこし郊外に入ると、夜は、途端に江戸時代となる。
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電灯のない野営地の“明かり”としては、アセチレンガス(カーバイト)が一番、蝋燭(ろうそく)が二番、“お皿に灯油灯心”はこの中で一番暗い。これは上部はまだしも、お皿が影になり下部が暗い。なにかものを書いたり読んだりするのに、非常に不便である。
そこで、蝋燭は貴重品となる。燃焼熱で溶けて流れないよう、大事に使用しなければならない。
まず、一升瓶を輪切りにして、切り口を煉瓦などでこすって角をとりコップの大きいのを作る。これに水を入れる。蝋燭は水よりやや軽い。浮かしたとき蝋燭が倒れないように、針金を螺旋状に巻いたものを倒れぬようコップの中心置く、螺旋状針金の中に蝋燭を差し入れて浮かすと、蝋燭の頭は水面より少し出た状態になる。回りが水で冷やされているので燃焼熱による溶け出しがない。また瓶の水面の高さが蝋燭の燃焼点になるので、その分手元が明るい。効率はいいし使用勝手は上々というわけである。
しかし、消灯後の外は月夜ならいざ知らず、月のない夜は全くの闇である。
朝から夕方まで、只々敵を求めての進軍である。一時間4キロメートル、一日8時間は歩く。銃は肩に食い込んでも、黙々と歩くのみ。
行軍中は、銃に弾丸(5発)を込め、暴発防止のため安全装置をしたうえで、不意の敵襲に備える。
つづく