こころとからだのしくみ
問99 血管系に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 リンパ管には血液が流れている。
2 末梢動脈には逆流を予防するための弁がある。
3 左心室から出た血液は大静脈へ流れる。
4 肺動脈には静脈血が流れている。
5 下肢の静脈は体表から拍動を触れる。
細胞もまた、体内の物流システムによって活動に必要なエネルギーをつくるための栄養素と酸素を手に入れています。血液が24時間365日、休むことなく酸素や栄養素をせっせと運んでくれるからこそ、私たちは生体活動を維持することができるのです。血液が流れる全身の血管は図1に示してあります。
図1
大動脈の走行
- 大動脈口(左心室)→上行大動脈→大動脈弓(頭部・上肢へ)→胸大動脈→腹大動脈→左・右総腸骨動脈
大動脈弓
- 心臓の上部に位置し、脳や上肢に向かう腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈に分かれる。体幹や下肢に行く血管は、大動脈弓からそのまま胸大動脈へと向かう。
総頚動脈
- 気管や喉頭の外側に沿って上に向かう血管で、甲状軟骨の上縁の高さで外頚動脈(頭蓋腔外、頭皮、顔面、頸部に向かう)と内頸動脈(頭蓋腔内に向かう)に分かれる。
腕頭動脈
- 右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分かれる。
上肢の動脈
- 鎖骨下動脈→腋窩動脈→上腕動脈→橈骨動脈・尺骨動脈
脳の動脈
- 後大脳動脈、前大脳動脈、中大脳動脈が前・後交通動脈によって大脳動脈輪(ウィリス動脈輪)を構成している。
下肢の動脈
- 外腸骨動脈→大腿動脈→膝窩動脈→前脛骨動脈→足背動脈→後脛骨動脈→腓骨動脈→外側・内側足底動脈
上大静脈
- 頭部と上肢の静脈を集めた腕頭静脈が合流し、右心房に入る。
下大静脈
- 下肢の静脈を集めた総腸骨静脈が合流し、腎静脈や肝静脈が流入して右心房に入る。
頭部の静脈
- 脳内の太い静脈は静脈洞(硬膜静脈洞)とよばれ、S状静脈洞から内頸静脈へと連なり、心臓へ戻る。
血管吻合
- 血管が閉塞しても、他の通り道を血液が流れるように横同士の血管(細動脈同士あるいは細静脈同士)を結合させている部分があり、これを血管吻合という。
終動脈
- 細動脈に吻合をもたない動脈を終動脈とよび、腎臓、脾臓、脳、心臓などにある。
動静脈吻合
- 毛細血管を間に挟まず、動脈と静脈が直接つながっている場合のことで、皮膚や陰部海綿体にみられる。
側副循環
- 血管のどこかが詰まったときに他の血管がバイパスの役割を果たし、血流を保つことを側副循環(側副血行路)という。
血管を流れる血液は心臓から拍出され、全身を巡り心臓に戻ってきます。このように血管は閉鎖回路を形成しています。ですから、心臓と血管を合わせて循環器系と呼んでいるわけです。しかし、血液の液体成分は常に血管内を流れているのではなく、細胞に酸素と栄養素を届けるために、毛細血管の動脈側で血管から流出します。そして、静脈側で血管に戻れなかった水分はリンパとなり、これを回収して血流に戻してくれるのがリンパ管です。このように、毛細血管から漏れた水分をすくい、血管の静脈系に戻してくれるリンパ管は血液の組織間を起点、血管を終点としたバイパスになっています(図1)。
図1
道路に相当する血管の中を流れる血液は生活物資を運ぶ宅配業者であるとともに、細胞から出たゴミを回収するゴミ収集業者でもあります。そのため、血液をトラックにたとえることができます。トラックはガソリンで走ることができますが、血液は自分自身で流れることはできません。そこで、心臓がポンプのはたらきをして、血液を流してくれています。これは、流れるプールの水がポンプで流れている様子をイメージしてください。この心臓と血管を合わせて循環器系といい、中を流れる血液とは区別しています。
循環とは、「一回りして元の場所に戻り、それを繰り返すこと」です。たとえば、ある駅で山手線に乗り、居眠りして目的の駅を乗り越してそのまま乗っていると、乗り込んだ駅に舞い戻ってしまいます。身体の中にも山手線のように心臓から送り出されてもまた心臓に戻るように血液が循環しています。
心臓から送り出される酸素濃度の高い血液(動脈血)が流れる血管を動脈、心臓に戻ってくる酸素濃度の低い血液(静脈血)が流れる血管を静脈とよんでいます。動脈は体内に取り込んだ酸素や栄養分を個々の細胞に運ぶ通路、静脈は個々の細胞が活動して出た老廃物(ゴミ)を回収するための通路です。
血液は山手線のように心臓から出て心臓に戻ってきます(図3)。
解剖学では心臓を基点に、流れ出ていく血管を動脈、そこに戻ってくる血管を静脈とよんでいます。肺から心臓へ血液を運ぶ血管には、酸素をたっぷり含んだ動脈血が流れています。それでも、名前は肺静脈ということになります。また、心臓から肺へ送られるのも、中を流れるのは静脈血ですが、血管は肺動脈なのです(図3)。
血液の循環は心臓を中心とした8の字サーキットを描きます。肺循環と体循環の流れは以下のとおりです。
肺循環:右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房
体循環:左心室→大動脈→全身の器官・組織→上・下大静脈→右心房
血液はまず心房に流れ込み、続いてその下にある心室を満たします。送り込まれた血液でいっぱいになると、厚い筋肉でできた心室が収縮し、血液が外に送り出されます。
心臓は見た目には1つの臓器ですが、左右のはたきはきちんと役割分担がされており、直接血液のやり取りをすることはありません。右側(右心系)は全身の静脈から戻ってきた酸素濃度の低い血液を肺へ送り込むポンプで、左側(左心系)は肺から戻った酸素濃度の高い血液を全身へ送り出すポンプです。
図3
1 リンパ管には血液が流れている。
➡ 間違い。リンパが流れている。
↓↓↓
血液の液体成分は常に血管内を流れているのではなく、細胞に酸素と栄養素を届けるために、毛細血管の動脈側で血管から流出します。そして、静脈側で血管に戻れなかった水分はリンパとなり、これを回収して血流に戻してくれるのがリンパ管です。
2 末梢動脈には逆流を予防するための弁がある。
➡ 間違い。
↓↓↓
(参考に)
- 血液の循環にあたって、避けなければならないのが血液の逆流です。そこで、血液が一方向だけに流れるように働いているのが、心臓内にある4つの弁です。右心房と右心室の間にある「三尖弁」、左心房と左心室の間にある「僧帽弁」、そして肺動脈への出口にある「肺動脈弁」、大動脈への出口にある「大動脈弁」がそれです。
- 心臓が静脈から血液を取り込むときには三尖弁と僧帽弁が開き、肺動脈弁と大動脈弁が閉じます。逆に、血液を送り出すときは三尖弁と僧帽弁が閉じ、肺動脈弁と大動脈弁が開くというように、交互に開閉を繰り返して血液の逆流を防いでいます。
- 末梢動脈とは足や手の動脈のこと。末梢動脈の疾患には、足の動脈が狭くなったり詰まったりして血液の流れが悪くなり、足にさまざまな症状を引き起こす病気です。以前は、「閉塞性動脈硬化症」あるいは「下肢慢性動脈閉塞症」と呼ばれていましたが、現在は、その原因に関係なく、国際的に「末梢動脈疾患」に統一されています。原因はさまざまですが、多くは動脈硬化によって、腹部大動脈から下肢動脈が詰まります。同じく動脈硬化を原因とする狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などを合併することが多いため、末梢動脈疾患 の患者さんでは全身の動脈硬化症についても目を光らせておく必要があります。
3 左心室から出た血液は大静脈へ流れる。
➡ 間違い。大動脈。
↓↓↓
大動脈口(左心室)→上行大動脈→大動脈弓(頭部・上肢へ)→胸大動脈→腹大動脈→左・右総腸骨動脈
体循環:左心室→大動脈→全身の器官・組織→上・下大静脈→右心房
4 肺動脈には静脈血が流れている。
➡ 正しい。ここは間違わないようにしてください。下記参照。
↓↓↓
解剖学では心臓を基点に、流れ出ていく血管を動脈、そこに戻ってくる血管を静脈とよんでいます。肺から心臓へ血液を運ぶ血管には、酸素をたっぷり含んだ動脈血が流れています。それでも、名前は肺静脈ということになります。また、心臓から肺へ送られるのも、中を流れるのは静脈血ですが、血管は肺動脈なのです(図3)。
肺動脈は、心臓から肺に静脈血を送る動脈。左右1本ずつあり、心臓から出るので動脈とよばれる。
5 下肢の静脈は体表から拍動を触れる。
➡ 間違い。拍動は、心臓の収縮により生じた拍動を触れるもの。拍動は動脈で触れる。
↓↓↓
心臓から送り出される酸素濃度の高い血液(動脈血)が流れる血管を動脈、心臓に戻ってくる酸素濃度の低い血液(静脈血)が流れる血管を静脈とよんでいます。
脈拍は、心臓の収縮により生じた拍動を、体表近くの動脈で触れるもので、心臓の活動状態や不整脈を知る大切な指標。
脈拍は心臓に近く、最も脈拍が触れやすい橈骨動脈で行うのが一般的であるが、収縮期血圧が80mmHg以下となると橈骨動脈では触知困難となる。
この場合は、より心臓に近い動脈で触知すれば拍動を感じられることがあるため、上腕動脈や頸動脈で触知できるか確かめる。
そのほかにも、体表面から触知できる動脈は下図に表す通り、たくさんある。
正答は選択肢4でしょう。