あいを~つぐな~えば~…サオリリスです。

先日巣鴨に行った時の話。早く書きたかったけど、真面目な話が長くて・・・ようやく書ける。自分のさじ加減だけど。てなわけで巣鴨に行ってきた。

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商店街の入り口に着いて↑の写真を撮っていると、どこからか私を呼ぶ声がした。名前を呼ばれたわけではないが、視線を感じたのだ。見回すと、窓からおばちゃんがこちらを見ていた。

(これが巣鴨か・・・)
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私たちは「ときわ食堂」という、短い商店街に二店も構える、巣鴨といえばココという大衆食堂で一杯引っ掛けた。なんの飾り気のない、絵に描いたような食堂である。

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まずは看板メニューのアジフライにソースをたらりとかけていただく。

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「ん、んま~い!」(藤子不二雄「まんが道」参照)
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私はアジフライが大好きなのだ。本当はタルタルソースもつけたいが、今回はなくてもいい。
タルタルソースがあっても美味しいと思うけど・・・身がホクホクでふかふかで衣さくさくで重くなく、白身の淡白な中にもほのかな甘味を感じる。多分ソースが少し甘いせいだけど、とにかく美味しい。これなら100尾食べれる。

「油がいいんだな、きっと。」

と実際どうだかわからない適当な事言いながら、ポテトサラダ、煮物セット、マグロ納豆もいただく。いい!何を頼んでも素朴な美味さがあるのだ。壁に貼られたメニューやお知らせもたまらない味を醸し出している。

「しみるな~・・・」

ジョッキに入った緑茶ハイ片手に、思わず涙流してまで熱く語ってしまった。しかし全く内容に覚えがないのでただの酔っ払いだったのだろう。すまない友人よ。

ときわ食堂のパフォーマンスに充分満足したのと冷房にあたり体が冷えてしまったのとで、店を出ることにした。空調はむずかしい。誰かに合わせると誰かに合わない。そういうものだ。

ときわ食堂の何から何まで気に入った私たち。また行きたい、今度はハムカツと生姜焼きも食べたい、定食も気になる、なんて話しながらの帰り道でスナックの前を通りかかった。

「は、入ってみる・・・?」

店構えがとても気になって、なんとなく、このまま見過ごして帰れない気がした。

でも、外から店内の様子が見えないので入るのにかなり躊躇する。こういう店に一見で入るのは結構恐ろしいもんだ。常連だらけでも居づらいし、客がいなくても気まずい。

友人はまずGoogleで調べてみると言ってスマホをいじりだした。そこまでして・・・とも思ったが、私もビビっていたので大人しく調査結果を待つ。そうこうしているところにカクヤスの配達員がやって来て、店内に酒を運び込んでいく。その際に少し開いた扉から、ザ・ピーナッツの「恋のバカンス」が聴こえてきた。

「行ってみよう!」

結局Googleの情報には頼らず私が先陣を切った。

壁一面の演歌歌手のサイン入りポスター。ところどころママと思われる人物と誰かのツーショット写真が飾られている。演歌歌手か作曲家か、そんなところだと思う。戸惑いながらもあえて真ん中の席を選んで座った。まもなくして注文したウーロンハイと、冷奴、お菓子が運ばれてきて、料金を払った。

巣鴨のザ・ピーナッツたちが小さなステージで楽しげに歌うのを横目に、隣の席のさだまさしに似たおっさんに声をかけた。
「常連さんですか?」
「ハハハ!いや、はじめてはじめて!ねーちゃんは常連かい?」
「私もはじめてです!」

さだまさし似のおっさんがあまりに馴染んでいたので、はじめてと聞いて驚いた。常連にしか見えない。

反対隣のクリカン似のおじさんにもおなじ質問をした。普段は福島県に住んでいるので常連ってわけではないががたまに来るらしい。シャツの色というか柄というか・・・なんていうのか独特で、頭にはほんのりパンチパーマがかかっている。天パではないと悟った。多分、亭主関白でもない。

巣鴨のザ・ピーナッツたちが歌い終えて席に戻ってきた。一人は斜め向かい、一人はさだまさしの隣に座った。こちらどうやら夫婦らしい。
さだまさしが奥さんに、「この子もはじめてきたんだと!」と私のことを紹介をしてくれたので互いに挨拶を交わして皆で乾杯をした。さだまさし夫婦は、なんと中学生のころからの付き合いらしい。きっと出会いは雨やどり、結婚の際に関白宣言したものの関白失敗し、そして今に至るのだろう。勝手な想像だけど、かなり素敵である。

「ちなみに、あちらの女性(ザ・ピーナッツのもう一人)はご友人ですか?」
「いいや、知らないな、ハハハ!」

まじかよ!あんなに仲良く歌っていたのに、初対面って!着いて5分も経たないうちに、さだまさし二度も驚かされた。

どうやらもう一人の女性もはじめて来たらしく、奥さんは流れで一緒に歌うことになったらしい。もう一人の女性はほどなくして帰っていったが、楽しげな人だった。よく一人で来たな・・・中年女性は強いのである。

「今日ははじめての方が多いわね~」

ママは嬉しそうに言うと、私にデンモクを手渡した。「よければ歌ってね」優しいママでよかった。しかし、なんだか歌う気にならないというか、この空間にまだ慣れてなくて、座っているだけでいっぱいいっぱいいだった。

そうこうしてるうちに今度はクリカンが演歌を歌い出した。なんだこれ!スゲ~うまいんだけど!プロなの?知らない歌だったけど聴いてて苦じゃない。このあとに何を歌えばいいんだろう・・・しかしすごいシャツだ。

それからもしばらくは聴くに徹していたのだけど、あまりにも歌わないのも悪い気がして、音痴な友人の分も私が歌おうと、恐る恐るデンモクを眺めてみた。迷いに迷って、大好きなテレサ・テンの「つぐない」を選曲。

♪てーれーれれーれれー

(聞き慣れたイントロのはずなのに、すごく緊張する・・・なんとか声を出すもののいつもの調子が出ない・・・あれ?こんなに下手だった?・・・長く感じる・・・早く終わって欲しい!)
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人前で何か披露する、幾度と無くこんな場面に出くわして来たはずなのに、異常に緊張してしまった。間違いなく、今までで一番緊張した。そんな私に皆やさしく拍手をしてくれたけど、それでもまだ落ち着かなかった。

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その後も定期的に私の番が巡ってきて次第に調子を取り戻した。私が歌う度に「大したもんだ!」「デビューしよう!したほうがいい!」と、皆が褒めてくれたのはあまりにも大袈裟だったけど、うれしかった。この中では私は若手なので、かわいがってくれるのだ。

ママ「名前はなんていうの?」
私「サオリリスです」
一同「え?なに・・・?」「ガイジン?」
さだ「俺、トニー。こっちがステファニー」
さだ奥さん「ハーイ!」
さだ「で、君は?」
友人「え!?」
さだ「わかった!フランクだ!」

友人はフランクと呼ばれることになった。

さだ「サオリちゃんはいくつなの?」
ママ「まだ若いのになんでこんな曲知ってるの?」
友人「意外といってるんですよ」
「もう30歳は過ぎてるんで」
さだ奥さん「まあブリッ子!!」

別にブリッ子はしてないけど・・・私たちはスッカリ打ち解け仲良くなっていた。これぞ和気あいあい。私とフランクは、勇気出して入ってみてよかったねと軽い乾杯をして、皆の歌に手拍子をした。

さだまさしは自分の曲を歌わなかった。でも、やしきたかじんの「東京」は見事だった。「東京」は、大阪から出てきた女の、東京での切ない心情を描いた恋の別れの歌である。歌詞は関西弁。さだまさしの声はやしきたかじんのように甘く、ピッタリなのだ。
歌い終えたさだまさしにあっぱれと拍手を送ると、「ま、俺東京生まれ東京育ちだけどね!ははは!」とさだまさしが豪快に笑い自ら台無しにした。

クリカンは聞いたことのない演歌歌手の歌をひたすら歌っていた。いわゆる演歌の名曲は歌わないこだわりを持っているようだ。でも上手いしシャツがおもしろいので退屈しない。クリカンの歌で、NHKやテレ東の演歌・歌謡曲の番組をチェックしているだけでは足らないくらい、演歌の世界は広いことを知る。

ママのデンモクの信号を受信し、画面は「人生一路」の文字を映した。

(人生一路!!!!!)

美空ひばりの「人生一路」である。
「愛燦々」でも「川の流れのように」でもなく、「人生一路」という点にグッときた。愛燦燦も川の流れのようにも、人の弱さも哀しみも受け入れて、愛して生きていく、そういう曲だ(と解釈している)が、人生一路は違う。

一度決めたら 二度とは変えぬ
これが自分の生きる道
泣くな迷うな 苦しみ抜いて
人は望みをはたすのさ


ママがこれまでどんな人生を歩んできたかなんて知らないけど、きっと何度もこの曲を聴いて歌って、辛い時も言い聞かせてここまで来たんだろうと勝手に想像して感動した。

私も演歌をカラオケで歌ったりもするけど、音程とか小節とかという以前に、説得力に欠けていることを自覚しているので、歌いながら違和感を感じて恥ずかしくなる。曲に似合うほどの経験を詰めていないのだ。

ママはかなり上手いけど、歌手ではない。でも、歌手なんだ。いくら上手く歌えも、こういう歌には敵わない。こういう歌を歌える人は、CDを出していなくても、NHKホールで歌わなくても、巣鴨の小さなスナックでも、立派な歌手なんだ。それくらい、ママの歌は染みた。

(これが歌だよな~)

しみじみしているとさだまさしが北島三郎の「まつり」を歌い始めた。さだまさしは陽気なおっさんだけど、歌は真面目に歌い上げてくる。しみじみしたママの歌とはまた違うけど、かなりいい。

祭りだ 祭りだ 祭りだ 豊年祭り~~~

皆で歌うこの感じ。会場は紅白の〆のごとく大盛り上がりである。

土の匂いの しみこんだ
伜その手が

永谷園
~~~


(えーーーーーーーーーっ!!)

その昔、永谷園のお茶漬けのCMに北島三郎が出ていた。その時の曲は「はーるばるきたぜサーケ茶漬け~」という「函館の女」の替え歌だったのだけど、たしかコロッケか誰かものまね芸人が「まつり」でこう替え歌にしていた。それをここにきてもってくるとは・・・これまで真面目に歌ってきたのは伏線だったのである。くだらないおっさんらしいギャグに、私は腹がよじれるくらい笑った。

ちなみに2番は
伜一番 さけ茶漬け~~~
3番は再び、永谷園~~~
だった。多分さだまさし毎度お馴染みのもちネタなんだと思う。ステファニー(さだまさしの奥さん)も手慣れた感じでツッコミを入れていた。それがまた可笑しかった。

「まつり」をやり終えるとさだまさしは帰っていった。さだまさしは「俺は”スナック荒らし”と呼ばれていて、スナック界じゃ結構有名なんだ」と言っていたのだが、本当に、荒らすだけ荒らして帰ってしまった。

結局何時間いただろう。どうやらもう閉店時間。私は、竜宮城で過ごす浦島太郎のように時間の感覚を忘れていた。もう帰らないといけない。私だけでなく、ママのほうも名残惜しいようだった。

「よかったら、連絡先交換しない?」

ママの提案にビックリしたが、私はママと携帯の番号を交換した。まさかである。私は普段人とあまり・・・というか全然連絡をとらないし、機種変をしてもPCと動機作業も怠り連絡先も移していないので、今、6人しか電話帳に入っていない。なんと自分の母親、本物のママの番号すら入っていないのだ!(それはさすがにあとで入れとこう)
なのにはじめて入ったスナックのママと番号を交換することになるなんて・・・こうして電話帳は7人になった。

そういえば、今日は高尾山に登るつもりだった。それが急遽巣鴨に変更になったのだ。少しのズレがもたらした小さな出会いを不思議に思い、一度決めたら二度とはかえる人生二路もいいもんだ、これが私の生きる道。私は帰路につくのであった。