2017年冬の募金キャンペーンに合わせて、掲載しているキャンペーン期間特別記事。

 

前回は、山友会の活動地域である山谷地域で暮らしてきた”おじさん※”達が孤立に至る背景を、地域の変化をたどりながらレポートしました。

 

今回の記事は、山友会に集うおじさんのインタビュー記事。

仲間の孤立死についてどのように受け止めてきたのかを、自身の人生を振り返りながら語ってくれています。

※おじさん・・・山友会を訪れる年配の日雇い労働者の方や路上生活者の方、元ホームレスの方のことを、親しみを込めて「おじさん」と呼んでいます。

 

インタビューと記事の作成は、ボランティアの大森亮平さんにご協力いただきました。大森さん、ありがとうございます!

 

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1950年、東京生まれのアイカワさん(仮名)。山友会に集う仲間たちからは通称「アイちゃん」と呼ばれています。

アイカワさんは、幼くして家族のもとを離れ、住み込みでの労働や飯場での肉体労働に従事しながらひとりで生きてきました。しかし、次第に仕事が不安定になったことから生活が苦しくなります。そして、その苦しさから逃れるようにギャンブルに依存、ついには生活が立ち行かなくなり、路上生活を送るようになってしまいます。

空腹を満たすため、冬の寒さを凌ぐため、アイカワさんはさまざまな支援団体を頼りました。そのひとつが山友会でした。現在は生活保護を受給しアパートで暮らし、山友会に通う日々を送っています。

 

8人きょうだいの末っ子だったアイカワさんは10代の頃に親戚の蕎麦屋のもとへ預けられ、住み込みで働きます。家族のもとを離れた14年もの歳月は、親戚一家によって家族同然に育てられたこともあって、アイカワさんと本当の家族との関係を次第に疎遠にしていきます。

 

ある日アイカワさんが実家に帰ると、そこにはかつての跡形もなく、ただアイカワさんの荷物が野ざらしになっていたといいます。

 

 

「もう踏んだりけったりで。帰ってきたら何も残ってないんですよ。それで嫌になっちゃってね。」

 

それ以来、母親が他界したときを除いて家族とは離れ離れになっているといいます。それぞれの家族を持ったきょうだいを頼ることもできず、アイカワさんはひとりで生きる道を選択します。

 

山友会とは偶然出会います。同じく路上生活を送っていた顔見知りがこぞって歩いていく様子に期待を抱き、その後を付いていったアイカワさんは、山友会とその前に並んで食事を待つ人々を目にします。幸いに、その日食事にありつくことのできたアイカワさんは、それから山友会を頻繁に訪れるようになりました。

 

 

その後、アイカワさんは生活保護を受給し、パートで仕事をしながらアパートで暮らすことができるようになりました。アパートでの暮らしに移ってからも、仕事のない日などには山友会を訪れていました。

 

 

ある日、山友会で食事の最中に突然の嘔吐。

 

体の異変を感じて病院に行くと、肺腺がんであることが判明し、1ヶ月間の入院と手術が決まります。当時続けていた仕事も辞めざるを得なくなったアイカワさんは、ひどく落ち込んだといいます。そんなアイカワさんのもとに、多くの人々がお見舞いや、身の回りのお世話のために訪れます。

 

 

「山友会の人たちが、わざわざ病院きてくれて、お見舞い来てくれたりしました。それでおれ、なんとか救われました。」

 

手術を終え、数年が経った今でも苦しいときがあるといいますが、体調が良いときや時間があるときには山友会の活動に関わります。活動のひとつである居場所・生きがいづくりプロジェクトのメンバーとして、山友会に来所した寄付者や見学者へ渡すためにメンバーの皆で考えた石けんや人形を作ったり、炊き出しのお手伝いなどをします。

 

 

初めは食事にありつけることから山友会を訪れていたアイカワさんも、歳を重ねるにつれ、山友会と関わりがあることに、ありがたさを感じるようになったといいます。

 

「やっぱり恩を仇で返しちゃうのは悪いよね。山友会へ来て病院行けたんだから、感謝しなくちゃ。」

 

活動のお手伝いのとき以外は、山友会の前に並べられた椅子に座ってお茶を飲んだり、他の”おじさん”と共に他愛もない会話を楽しんだりして時間を過ごしています。

 

そんなアイカワさんは、あることで山友会の有名人です。

 

インタビュー前、山友会に訪れていた”おじさん”たちが笑顔でアイカワさんに声をかけます。

 

「アイちゃん!台所に置いてあるあれ、インタビューのときに見せてあげなよ!」。

 

アイカワさんも笑顔で応じます。

 

「あれ」とは、アイカワさんが趣味でつくっている人形のことです。テレビでお馴染みのキャラクターから、宝船に乗る七福神といった超大作まで、紙と色鉛筆だけでリアルに表現します。何気なく始めた趣味だといいますが、山友会のスタッフや”おじさん”たちに人形を気に入ってもらうことが、アイカワさんにとって楽しみのひとつになっているように感じられます。

 

 

昨年、山友会では長い関わりのあった2人の”おじさん”が亡くなりました。

 

 

一緒にお手伝いをしたり、何気ない会話を楽しんだり、日常的に様々なかたちで”おじさん”たちと関わるアイカワさんは、誰かが亡くなることに悲しみを感じるといいます。

 

「毎年ね、誰か亡くなるのは嫌だなとか思うんですけど、しょうがないですよ。その人の運命だからなんにも言えないし。でも会えなくなるのは寂しいです。」

 

山友会を訪れる人たちに限らず、路上生活や他の団体に通っていた頃に関わっていた仲間たちが亡くなることにも、寂しさを覚えるといいます。

路上やドヤで暮らす方々のなかには、誰にも看取られずに息を引き取る方や、無縁仏として身寄りがないままに他界する方もいます。

しかし、アイカワさんは自分と関わりのあったそうした人たちが、他界した後も孤独であるとは考えていません。

 

 

「おれは心の中では、あの世で一緒に仲良く遊んでんじゃないかなって思うんです。」

 

悲しみに暮れながらも、亡くなった人々の幸せを信じるアイカワさん。

これからも、たとえ共に過ごすことができなくとも、山友会で出会った人々と本当の仲間でいることを、アイカワさんは強く願っているように感じます。

 

(インタビュー・記事作成 大森亮平)

 

【2017年 冬の募金へのご協力のお願い】

ホームレス状態にある人々が、孤独さに凍える冬の夜を越えて、あたたかな人のつながりの中で春を迎えられるように。あなたのやさしさをわたしたちに託してもらえませんか。

(募金受付期間:~平成30年1月31日)

 

 

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【スタッフ募集!】

■山友会クリニック 看護師(常勤)※1名

路上生活を送る方や、経済的な問題で一般の医療機関を受診できない方などが患者さんとして主に受診される、全国的にも希少な無料診療所です。 来院された患者さんの話にじっくりと耳を傾けて、心を通じ合わせながら診療を行うことを大切にしています。募集内容の詳細はこちら→http://bit.ly/2kMwvTq

 

■ケア付き宿泊施設 山友荘 生活支援員(常勤)※1名

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