2017年冬の募金キャンペーンに合わせて、掲載しているキャンペーン期間特別記事。

 

前回は、山友会の活動においても問題意識が高まっている「孤立死」について、その現状や背景・解決策などについて、3回にわたってレポートしてきました。

 

今回は、山友会の活動地域である山谷地域で暮らしてきた”おじさん”達が孤立に至る背景を、地域の変化をたどりながら見ていきます。

※おじさん・・・山友会を訪れる年配の日雇い労働者の方や路上生活者の方、元ホームレスの方のことを、親しみを込めて「おじさん」と呼んでいます。

 

 

今回の記事は、広報支援チームやまとも ボランティアメンバー 井関さんにご協力いただきました。井関さん、ありがとうございます!

 

*********************************

 

JR常磐線 南千住駅。

 

その裏側へは少し行きにくくなっています。

 

まず、地下鉄(東京メトロ日比谷線)の線路をくぐり、さらにJR貨物線の線路を超えなければいけません。

 

フェンス越しに見えるのがJR貨物駅の「隅田川駅

 

そうして南方へ10分ほど歩いてたどり着く地域が山谷です。

 

泪橋の交差点。南千住の駅方面は荒川区。明治通りを挟んで浅草方面は台東区。

 

山谷は「さんや」と読み、東日本最大のドヤ街として知られています。

ドヤとは「宿」を逆さに読んだもので、三畳ほどの小部屋からなる簡易で低価格の宿泊施設(簡易宿泊所)です。

 

ドヤの部屋の様子

 

このようなドヤが山谷に集中していて、独特な性格の地域となっています。

 

 

■ 「山谷」のあゆみ

 

山谷は古くは日光街道の千住宿の一部であり、木賃宿と呼ばれる安宿の多く集まる地域でした。

 

太平洋戦争後には、戦災被災者のためのテント村が作られたことを経て、日雇い労働者の寄せ場が形成されました。

 

写真:http://majyo1948.blog.so-net.ne.jp/2017-05-06

野宿を余儀なくされる戦災被災者。上野駅の周辺には約1,300人の戦災被災者がいたとされる。治安への影響を危惧されGHQの要請により、山谷地域や都内各地の仮宿泊施設(テント村)に収容された。

 

こうして山谷地域に集まった日雇い労働者の人々は、その後の日本の行動成長期を重要な労働力として支えます。

 

とくに彼らは建設現場で多く働き、東京オリンピックの建設ラッシュの頃に全盛期を迎えます。

 

昭和38年には山谷地域には200軒を超えるドヤがあり、15,000人近くの労働者が宿泊していたと言われ、活気のある街であったそうです。

 

写真:山谷労働センター「30年のあゆみ」

 

しかし、この時期から、労働者らによる暴動も頻発するようになります。

そのため、とくに当時は、山谷は危険な地域というレッテルを貼られてしまうようになりました。

 

写真:山谷労働センター「30年のあゆみ」

 

日雇い労働者の方たちは、その日の仕事があるかないかもわからない状況です。

そのため、彼らは景気の変動の影響を大いに受けてしまいます。

 

景気が良いうちはドヤに宿泊していられるのですが、平成3年(1991年)にバブル景気が崩壊すると、寝床を失う人が続出しました。

 

平成10年頃には、山谷地域では1,000人を超える路上生活を余儀なくされた方がいました。

 

隅田川河川敷に並んだブルーテント

 

加えて、労働者の人達も少しずつ高齢の方が増えてきます。

過酷な肉体労働に就いていた労働者の方たちは、健康状態も悪くなりやすくなっています。

こうした労働者の方にとっては、路上生活は過酷なことです。

 

そして、なかには仕事をすることが難しくなった方が出るようになります。

しかし、年金などの社会保険に加入していなかったり、貯金もなかったり、家族との縁も途絶えてしまっているため頼ることができなかったりという事情が、多くの方にはありました。

 

こうした事情から、生活保護制度を利用する方が増えました。

 

当時、全国的にも急激に路上生活者や生活保護受給者が増加していましたが、住まいのない路上生活を余儀なくされた方や労働者の方たちが、生活保護制度を利用した後には、どこかに住まいを確保しなければなりません。

 

一方では、そうした方の仮住まいになるような施設も十分に整備されておらず、受け皿となる住まいが不足していたことから、その受け皿として山谷地域のドヤが活用されるようになりました。※1

※参考 山谷(wikipedia)

(図1)

 

図1 山谷地域の簡易宿泊所(ドヤ)宿泊者の生活保護受給率の推移

「山谷地域簡易宿所宿泊者実態調査(H24年10月)」より筆者作成

 

とはいえ、身寄りもなく高齢であることなどからアパート等に入居することが難しい、公営住宅も不足しているという社会的な背景から、ドヤでの暮らしが長く続くことになります。※2

※2 なぜ単身高齢の生活保護利用者が「ドヤ」に滞留させられていたのか?(稲葉 剛 公式サイト)

 

なかには、長い年月を過ごしてきた山谷の街から離れづらいという方もいるようです。

 

■ 超高齢社会の縮図

 

山谷でずっと暮らしてきた労働者の方だけでなく、近年では、同じように低所得であったり、高齢であったり、さまざまな障がいを抱えていたりという背景から、安定した住まいを手にすることができなかった事情で山谷で暮らすようになった方も一部では見られます。

 

現在では、山谷地域のドヤに宿泊している人のうち、生活保護受給者の割合は9割を超え、平均年齢は66.1歳、65歳以上の人の割合は62.9%という状況です。※3(図2)

※3「山谷地域-宿泊者とその生活-(平成27年10月調査)」東京都福祉保健局

 

図2 山谷地域の簡易宿泊所(ドヤ)宿泊者の平均年齢の推移

「山谷地域簡易宿所宿泊者実態調査(H27年10月)」より筆者作成

 

民間支援団体の取り組みや団体行政の行うホームレス対策により、路上生活を送る方の数は少なくなりましたが(図3)、これは問題の一部が改善されたに過ぎません。

 

図3 山谷地域の路上生活者数の推移

公益財団法人 城北労働福祉センター 平成29年度版 事業概要」より筆者作成

 

ドヤで暮らしている方たちの高齢化に伴って、持病が重くなったり介護が必要になったりする人が増えてきます。

ドヤには「帳場」と呼ばれる管理人のような方もいますが、そもそも介護をするためにいるわけではなく、介護について多くは望めません。

(なかにはとても親身にお世話をしてくれる方もいるようですが)

 

 

帳場の方や同じドヤの宿泊者の方、生活保護のケースワーカーの方などに気が付かれなければ、病気の状態が悪化したり、排泄や食事もままならない状況になってしまいます。

 

アパートで暮らしている方は、より誰にも気付かれづらくなります。

 

その結果、前回の特別記事で取り上げられたような「孤立死」が起きてしまいます。

 

 

 

■ 山谷の”おじさん”達を取り巻く環境に残された課題

 

長い人生の中で、家族ともつながりが途絶え、困ったときに頼りにできる人も少ない方が多かった”おじさん”達。

 

高齢化に伴ってより孤立してしまう可能性が高いことが考えられます。

 

 

一方で、今まで振り返ってきたような「山谷」という街の性格は、だんだんと薄れてきています。

ドヤの中には、外国人観光客などを新たな宿泊客として経営の転換を図るところもあります。

さらに、リノベーション経営者の高齢化でドヤが少しづつ廃業したり、その跡地にマンションが建設されたたり少しずつ街の姿も変わってきました。

 

 

出典:公益財団法人 城北労働福祉センター 平成29年度 事業案内

 

こうした時代の変化の中で、山谷で暮らしてきたおじさんたち、新たに山谷にたどり着いた人たちのつながりやコミュニティを、どのように維持し、また新たにつくっていくのかということが問われているように思います。

 

【参考文献・資料】

・公益財団法人 城北労働福祉センター 「平成29年度版 事業概要」

・公益財団法人 城北労働福祉センター 「平成29年度 事業案内」

・山谷地域簡易宿所宿泊者実態調査(東京都福祉保健局)

『エコノミーホテルほていや』ブログ

山谷労働センター「30年のあゆみ」

山谷(wikipedia)

なぜ単身高齢の生活保護利用者が「ドヤ」に滞留させられていたのか?(稲葉 剛 公式サイト)

 

(広報支援チーム やまとも 井関)

 

 

【2017年 冬の募金へのご協力のお願い】

ホームレス状態にある人々が、孤独さに凍える冬の夜を越えて、あたたかな人のつながりの中で春を迎えられるように。あなたのやさしさをわたしたちに託してもらえませんか。

(募金受付期間:~平成30年1月31日)

 

 

********************************

【スタッフ募集!】

■山友会クリニック 看護師(常勤)※1名

路上生活を送る方や、経済的な問題で一般の医療機関を受診できない方などが患者さんとして主に受診される、全国的にも希少な無料診療所です。 来院された患者さんの話にじっくりと耳を傾けて、心を通じ合わせながら診療を行うことを大切にしています。募集内容の詳細はこちら→http://bit.ly/2kMwvTq

 

■ケア付き宿泊施設 山友荘 生活支援員(常勤)※1名

入居者の方々にアットホームな雰囲気で過ごして頂けるように、生活のサポートを行っています。 募集内容の詳細はこちら→採用情報

 

【山友会メールマガジン ”やまとも通信”】

活動のトピックスやイベント・ボランティア募集などの情報が満載です! (配信は月1回)

登録はこちらから→メルマガ登録フォーム

 

【山谷スタディツアー開催中!】

山谷地域や山友会の活動についてご関心をお持ちの方を対象に、スタディツアーを開催しております。「知る」「関心を持つ」ということも、ホームレス問題を解決するひとつの方法です。皆さまのご参加、お待ちしております!詳しくはこちらから→山谷スタディツアー