りさぽん・不眠症の渡邉さんをTwitterでリクエスト頂いたものです。
長いですが読んでもらえたら幸いです

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朝じゃないのに
アラームもなってないのに
目が覚める

夏の夜ならセミが鳴いてるかもしれない
いや、セミたちも寝付いてるか

まさに静寂

身体は疲れているのに寝れない
今まではそんなことはなかった
こんなにも疲れていたら死んだかのように寝れた

いつからかは知らない
そんなん知ったところでだ
今知りたいのはなんで寝れないかだ

考えたところでわからないものはわからない
飽きるほど見ている天井を今日も朝まで見るんだろうな

暇だ。眠い。疲れた。寝かせてくれ、私。
自分を責めたところで寝れるわけがない

そんな時に頭をよぎるのはやっぱり愛しい彼女のことで

寝ているだろうな
私以上に忙しいから寝かせてあげよう
迷惑をかけたくない

そう思っているのに
少しでも声を聞きたいと思うのは私がわがままだからだ

五回目のコールで切ろう
それを心に決めて電話をかける

夜に響く音が期待と罪悪感を呼び起こす
一回目、、二回目、、

「───ッ、、ん、あい」
「え、でた…」
「んー?りさあ?」
「う、うん、ごめんね」
「だいじょーぶだよ、、?どーしたの?」
「声聞きたいなって思って」
「そーなんだぁ」

由依が電話に出たのは三回目のコール
絶対出ないと思っていたから期待が喜びに変わった

でも起こしてしまったという罪悪感

そんな気持ちをかき消すように愛おしい声が耳元で聞こえる
いつもより少し掠れている腑抜けた声

普段話す時は耳元で話すなんて絶対にないから電話もいいなと思った


話していくうちに目が覚めた時にはいなかった睡魔が徐々に現れてくる

起こしちゃったのに先に寝たら悪い
まだ話していたい

そんな気持ちとは裏腹に上瞼は降りていき音も少し遠くに感じる

遠い場所から
「おやすみ、理佐」
そんな言葉が聞こえたような気がした


次はアラームの音で目が覚めた
要するに朝

疲労感はある
拭いきれない疲労感
でも、まだマシな方だ
だから由依に感謝しなきゃ

塵も積もればなんとやらで体調崩さないといいな
周りに迷惑なんてかけられない
そんなことをまだ起きていない頭で考える


ボーッとしつつも仕事の準備をして家を出た


..........


昨日の夜

珍しく理佐からの電話

かけてきた理由はなんとなくわかる
最近寝れていないのだろう
最近というか二、三ヶ月くらい前から

理由は本人にしかわからないか
本人もわからない

きっと後者だろう
前者なら解決できるならすぐに解決してる

楽屋でもみんなと笑い合っていることもあるが疲れた顔をしていたり机に突っ伏していたりする

そして今も机に突っ伏している
ただ、やっぱり眠りが浅いみたいで近づいただけで起きてしまった

「ごめんね、起こしちゃった?」
「んー、全然」
「ほんと?ならいいけど」
「うん…」

少し眠そうな理佐は私と話すために体を起こそうとしたが、まだ寝てて欲しいからそっと背中にブランケットをかける

「このブランケット使っていいよ?」
「いや大丈夫、由依使うでしょ?」
「使わないよ」
「…うそつき」

何を根拠に嘘だと思ったのだろう
夜にまだ起きていたくて、少しぐずってる小さい子みたいだ

「ほんとだよ」
「なに笑ってんの」
「んー、なんもないよ」
「…昨日はありがと」
「いえいえ」

頭を撫でると目を細め幼く笑う
こんな顔見れるのは恋人である私の特権だ

しばらく撫でてると完全に寝てしまった
少し寂しくも思うが寝てくれたのは嬉しい
安心してくれたってことだろうから

そのまま寝顔を眺めていたら
メイクさんに呼ばれてしまった

理佐の寝顔を他の人に見られるの嫌だな
なんて思ってもみんな見たことあるだろうけど

ブランケットで顔を隠そうかと思ったがさすがに暑いだろうからやめた

大人しくメイクさんのところに行こう


メイクさんとお話をして戻ると背中にかけはずのブランケットがなくなっていた

盗る人なんていないだろうし…と少し探していると理佐の腕の中に隠れていた

私のブランケットに顔を埋めて寝ていた
天使がいる…
写真を撮って、隣に座る音に気づいて目を開ける

「また、起こしちゃったね」
「…おかえり」
「ただいま」

そういって手を掴まれる
掴まれてるだけでなにもされないから手を繋ぎ直そうとすると理佐の頭に手を持ってかれた
撫でろという意思での行動だろう

理佐は甘えられることがあっても甘えることがない
だから、その練習として言葉にしないと頭を撫でないことにした

今、勝手に

本当はおねむの天使の甘えたが聞きたいだけかもしれない、嫌な恋人だ

眠いのに寝れなくて少し目を潤ませている理佐を見るとそんな馬鹿げたことなんてしていられなくて謝罪と寝てほしい気持ちを込めて頭を撫でる

眠りにつく手前で移動しなくてはいけない時間になってしまったので申し訳ないけど頭を撫でるのをやめる

「ん、ゆい、手はぁ…?」
「理佐、時間だって。行かないと」
「…わかった」

一回私のブランケットに顔を埋めてから、んーーと唸ってからいきなり立った理佐
さすがに立ちくらみがあったみたいで咄嗟に支えるとそのままハグされた

「理佐?行かないとだよ?」
「あと10秒…」
「うん、10秒ね」

私も腕を背中に回して細い体を抱きしめる
折れないように、でも精一杯の力で強く
心の中でゆっくりと10秒数える

「10秒…たったよ?」
「ん、行く」

体は離れるけど普段は繋がない手をしっかりと握られる

「あれー?珍しいね?二人が手繋いでるの」
「たまにはいいじゃん」
「イチャつきすぎないでねー、天いるから」

と尾関を始めにみんなから言われてしまった
うるさいぞと怒っている理佐は笑っているけど

繋がれた右手が少し熱くなったのは私だけが知ってること


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収録が終わり次はダンスレッスン

こう考えると私たちのスケジュールは結構ハードだと思う
今日は個人の仕事がないから少しだけだが時間にゆとりがある
それでも、ご飯を食べて着替えてストレッチなどをしているとすぐに始まってしまう
寝てる暇はさすがにない

レッスンが始まり理佐を横目に見るも眠そうな感じも調子が悪そうな感じも微塵も感じなかった
隠すのだけは上手になって、いざという時に甘えたり本音を言うのは苦手なんだよなとつくづく思う

尾関へのハグやゆっかーへのイタズラはそれこそ甘えに行ってるんだろうけど辛いであろう今行ってない
不器用な彼女をどう支えるか考えないと

休憩の度に声をかけてたら
「そんなに心配しなくて大丈夫だよ」
としか答えない

理佐の方が嘘つきじゃん


少しモヤモヤしたままレッスンが終わった

とりあえず理佐に声をかけようと理佐を探すが見当たらない
尾関に行方を聞くと飲み物を買いに行ったとのことで自主練をして帰るつもりなのだろう
待っていたら戻ってくるだろうから自主練をして待っていた

しばらくすると戻ってきて
「あれ…由依いたの?」
「いたらダメだった?」
「いや、別にそういう訳ではないけど」
「よかった」

それから二人別々で振りを確認しつつ自主練をした

「ねえ、理佐」
「んー?なにー?」
「ここ教えてほしいんだけど」

座って動画を見てるのに理佐はなかなか座らない
なんならはやくスマホ貸してと言わんばかりに手を出してきた

その手を引き、座らせようとすると全力で拒む
なんとなく察しがつくが拒まれるのは少し悲しい

「疲れすぎて座ったら立てそうにないんでしょ」
「………いや、違うけど」
「間があるし、わかるよそれくらい」
「違うってば」
「私、理佐の恋人だよ?」
「そーだけど」
「一旦座って休憩しよ?」

それでも座ろうとしない理佐の手を強めに引くとやっと座ってくれた

ひとつの画面を二人で共有しているから距離は近くなるわけで汗臭くないかなとか心配してたけど理佐はそんなのお構い無しに肩に顎を置き匂いを嗅いでくる

「ちょ、理佐」
「なーにー」

匂いを嗅ぐのをやめてもらおうと理佐の方を向くとどこか目は少し虚ろで眠たそうな顔してる
このまま軽く寝かせようと思い頭を撫でる
するともっと撫でろというアピールなのか撫でてる手に対して頭をグリグリとしてくる

「理佐、寝ていいよ?」
「んー、寝ない」
「ほらおいで?」

自分の膝を叩くと渋々ながらも来てくれる理佐

「ぽんぽんが自分の足ぽんぽんしてる」
「ねえ、怒るよ」

なんて言ったけどもうほとんど夢の中
軽く頭を叩いたけど理佐の手によってそれは撫でる方向へと変わる

「寝ちゃいな?」
「んぅー、だれかきたらやだ」
「さすがにみんな帰ったと思うよ?」
「けど、、」
「私しかいないから、ね?」
「わかったぁ」

頭を撫でたらすぐに寝れてしまうほど疲れている彼女はふとどこかへ消えてしまうのではないかと不安になる

誰にも弱い部分を見せない
ひとりで何かから耐えようとする

強くないのに強がる彼女に弱いことを認めさせたいわけではないけど、頼ることを覚えてほしい
みんなが心配してることを知ってほしい

でも、私には甘えてくれていると思うと優越感に浸ってしまう自分がいる

ほんとに私は嫌な恋人だ



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「あ!!!」
「うわあ!!!」
「あ、ごめんごめん」
「なに?ひーちゃん、いきなりすぎん?」
「忘れ物しちゃった」
「取りに戻るん?」
「んー、そうする。だから先帰ってていいよ」
「はぁーい、気をつけてなぁ」
「ありがとー」

レッスン室は開いているだろうか
開いていなかったらスタッフさんに声かけないといけないから面倒くさいなと思いながらドアを押す

「開いてたー、よかったー」
「ひかる」
「え?」

誰もいないと思ったのに好きな人の声が聞こえる
振り返るとそこには理佐さんに膝枕をして頭を撫でている由依さんがいた

「理佐、今寝てるから」
「あ、すみません」
「ううん、しーっ、ね?」
「…はい」
「可愛いよね、この寝顔」
「そーですね」

理佐さんの顔は私には見えない
由依さんのお腹の方に顔が向いてるから

二人だけの空間に明らかに浮いている私
早くこの場を後にしたくて言葉が上手く出てこない

「それじゃあ、失礼しますね」
「あれ、もう行くの?」
「はい、ほのちゃん待たせているので」
「そうなんだ、じゃあ明日ね」
「はい、また明日」

笑って手を振っている由依さんはどこか下手で違和感があった

由依さんの優しすぎる笑顔は私に向いているはずなのに私がさせた笑顔ではなくて、何より私に向けた笑顔ではないことをこの胸の痛さが知らせる


「そーじゃん、、左手だからか」



..........


「…んっ、」
「あれ、起きたの?」
「んー」
「ふふっ、おはよ」
「ぉはよ」
「声出てないよー」
「んー」

何かに起こされたわけではないけど目が覚めた
夜に目が覚めるようなそんな感じでもなくて、なぜか目が覚めた
心地良い目覚めだった

由依がいるからだろうか
一緒に暮らせばこんなにも困っていた睡眠不足を解消できるのだろうか

それだと由依の負担になってしまう

そう考えたら自分からは絶対に言えない
由依を利用しているようで人として最低だ

起きて間もない頭で考えてもごちゃごちゃになってよくわからなくなるばかりで泣きそうになる
由依のお腹に顔を埋め腰に抱きつき目を閉じて一回落ち着こう

「また寝るのー?」
「んーん」
「理佐」
「…あい」
「夜ご飯なににしようか」
「んー、、」
「理佐ー?」
「んー」
「理佐かわいいね」
「んんー」

再びふわふわする頭にたくさん話しかけてくる
うまく反応できない

「理佐、一緒に暮らそ?」
「ん」
「やったー」
「ん?」

頭がどんどん起きてきた
いや、叩き起こされた
起こしてきた由依はケタケタ笑っている

その反動で体も起きる

「理佐がずっと んー しか言わないから」
「いまのほんと?」
「ん?なにが?」
「いま、一緒に暮らしてくれるって…」

あ、起こすために言ったのか
早とちりをしてしまった
冗談だったのに勘違いしたから由依を困らせてしまっている

「ごめん、、なんもな「理佐は、」」
「理佐は、どうしたい?」
「え?」
「理佐は一緒に暮らしたい?」

いつもみたいな優しい笑顔に目が真剣だから体が強張る

「私は、、由依と暮らしたくない」
「なんで?」
「由依に迷惑はかけられないから…」
「…」
「だから一緒に暮らせない」

目を見て言えなかった
怖いけど顔を上げると由依は怒ってるようなでも寂しそうな顔をしてた

「言いたいことがたくさんあるんだけど」
「…はい」
「理佐は私をなんだと思ってるの?」
「それは…恋人だけど」
「私はどこにも行かないって思ってるの?」
「どこか行っちゃうの?」
「行っても平気なの?」
「由依がそれを望んでいるのなら」
「嘘つかないでよ…」

少し強かった言葉が急に弱くなった

「私は理佐がいないと生きてられない。笑ってられない。毎日泣いてると思う」
「由依…」
「それなのに、理佐は私が望んでるならって寂しいよ」
「ごめん、、でも、迷惑が「迷惑ってなに?」」
「私、理佐に頼られて迷惑だと思ったこと一回もないよ」
「でも、」
「信じられない?」

そんなふうに言う由依の顔は今にも泣きそうな顔をしていた
私がそんな顔にさせてしまったんだ
恋人に信じてもらえないのは悲しいとかのレベルじゃない
私が由依の立場だったら…なんて考えたくもない

「由依、、ごめんね」
「大丈夫…強く言い過ぎちゃった、私の方こそごめん」

二人とも何かを合図するともなくキスをする
それと同時に頬を伝う涙

「泣かないで…ほんとにごめんね、由依」
「ちがっ、安心したら、涙、止まんなくて」

指で涙を拭ってそのまま頬に手を添える
視線が絡みあって離れない

自分たちも離れないように小指を絡めて約束をした



..........



あれから一ヶ月

お互いが忙しくてまだ一緒に暮らせていない

お泊りをするのは次の日がオフか午後からの時だけ
電話をするのは由依が個人の仕事がない時かあっても帰りが早いとき
電話に関しては私が勝手に決めたことだけど本当は毎日かけたい

それぞれ個別の仕事がありレッスン後に寝ることもしばらくしてない
仕事が一緒になっても楽屋に由依が来るのが遅かったり、周りが騒がしくて寝るに寝れなかったりもする

由依が忙しいのは見てわかる
電話をして由依の負担になりたくない

あの日からずっと借りているブランケットは由依の匂いがしなくなった
ほとんど私のものみたいになってしまっている
今日ちゃんと返さないといけないな

今は収録までの暇な時間
寝る時間はあるのに寝れなくて気分転換で空部屋に向かった


_______________



別仕事を終えて楽屋に着いた
みんなと挨拶を交わして理佐を探すけどあるのはバッグだけ
空部屋にでも行っているのだろうか

理佐は私に気を使ってあまり電話をかけてこなくなった
頼ってくれると思ったのにいきなりはまだ難しいのかなと思う

謝る回数は減り感謝を言ってくれるようになった
それは素直に嬉しいことだ
迷惑とか罪悪感だなんて感じなくていいのだから

そうこう考えているうちに空部屋の前まできた
いるであろう空部屋に入るとソファーに寝転んで目を瞑っている理佐がいた
顔が見やすいようにソファーの前にしゃがむ

「寝てる?」
「ねてる…」
「寝ないの?」
「…ねれない」
「そっか」

声が眠そうだったから起こしてしまったかもしれない
ブランケットに抱きついている理佐は幼くみえる

「…これ、ゆい」

そう言ってブランケットを見せてきた

「それ、私なの?」
「ちがう、ゆいのにおい、なくなっちゃった」
「ブランケットかして?」
「……やだ」
「どーして?」
「もっと、ねれなくなる…」
「今は私いるじゃん、それ私じゃないよ?」
「ん、、きて?」

腕を広げ待っている理佐の中に大人しく収まる
耳元に息がかかってくすぐったいけど幸せな温かさだ

ブランケットは理佐を温める役目を放棄してこの温かさを感じているのか
今度からブランケットを禁止にしたい

「理佐?」
「んー」
「今日お泊まりしよ」
「……しごとは?」
「あるよ」
「だめだね」
「ばかりさ」
「ばかって…」
「電話しよ、電話」
「んー」
「絶対だからね」
「…うん」

そのまま二人で寝てしまい探しにきた尾関に起こされた

収録後 ちゃんと電話をするように と念押しして別れを告げた


私は仕事を終え連絡をいれた

それなのにいつまで経っても既読がつかない
仕事がなければ一時間のうちには返信してくれるのに

長引いているのか、それとも事故にあったのか不安になったのでマネージャーさんに聞いてみると無事に家についたとのこと

時間的には私が連絡した頃には家に着いていた
寝落ち出来てるならいいけれど一言連絡してくれたらよかったのに

『お仕事おわった?』
『理佐ー』
『夜ご飯食べてるの?』
『りさー』

本当に寝ているのかもしれない
一切既読がつかない

携帯で理佐がいつも電話をかけてくる時間にアラームを設定する
徐々に頭に霞がかかっていく

理佐のためとなっている電話
実際はそんなことない
今日久々に感じた温かさを恋しく思っているから、私がしたいからの電話なのに連絡が取れない
振られている気分だ

そういうことだったのかもしれない
お人好しすぎたのかもしれない
空部屋に行ったのは誰にも邪魔されたくなかったからかもしれない

心にも霞がかかる
一旦寝ようと思い目を瞑る


頭の霞が晴れたのは携帯の音
理佐の電話かもしれないと起きたけど自分が設定したアラーム音

心の霞は晴れなかった
霞から曇りに変わっていく

早く晴らしたくて寝ているかもしれない理佐に電話をかける

理佐が電話に出たのは六回目のコール

「───ッ、、、」
「、、ごめん…おこしちゃった?」

出した声は本当に自分のかと疑うほど弱々しい声だった

「……起きてたよ、由依は寝てたでしょ?」
「ううん、電話したくておきてた」
「寝起きの声してるよ」
「んー、でも電話したかったのはほんとだもん」
「…ありがと」

あまり信じてなさそうな声だ
私がどれだけ理佐のことを好きなのか知らないのかな
好きなのにその好意が嬉しくないのかもしれない

ダメだ、、嫌な方向に考えがいってしまう

「だって、お泊まりしたいのにダメって言うし電話したいのに連絡返してくれないし、、私、理佐の邪魔しちゃってるのかな?」
「そんなんじゃないよ…今日も明日も仕事だから、ゆっくり休んでほしくて」
「理佐と一緒にいたら疲れなんて消えるよ」
「…私だってそうだよ。お泊まりだって電話だってしたかったけどやめた。勝手にしなかったのに心にはモヤモヤが募るから、もうよくわかんなくなっちゃって」

あ、理佐も一緒だったのか
私たちはお互いのことを思いすぎてすれ違っていた
理佐は寝るに寝れないのを付き合わせちゃいけないと考えていて私は理佐の邪魔になっていると思っていた
大切だからこその思いやりでお互いを傷つけていた

「電話じゃだめだ、満たされない。理佐に会いたい、ハグして欲しい」
「私もだよ。私も由依に会いたいしハグしたい」
「明日、泊まる」
「うん」
「そのまま住む」
「いや、それは無理なんじゃ」
「もう荷物詰めてる」
「行動力…」
「明日お仕事行く前に理佐の家寄るから」
「うん」

そこから二人で雑談をしてたらいつもみたいに理佐が寝落ちをした
微かに聞こえてくる理佐の寝息で心の霞が晴れる


朝起きて理佐の家に向かう
付き合ってから割とすぐにもらった合鍵を使って家に入る
忙しいはずなのに部屋が常に綺麗な状態で保たれてるのは本当にすごいなと思う

寝室に行くとぐっすりと寝てる理佐
少し寝顔を眺めてからキッチンへ行く

荷物を端の方に置き、朝ご飯をつくる
お泊まりの時はいつも作ってもらってるからと日頃の感謝の気持ちを込めながら作る

しばらくすると理佐が起きてきて後ろから抱きついてくる

「きてたなら、おこしてくれればよかったのに」

少しむにゃむにゃしながら話す理佐は少し寂しそうだ

「ごめんごめん、起こしちゃ悪いと思ったから」
「おこしてほしかった」
「今度から起こすから、あっちで待ってて」

そう言ったのに抱きつく力を強くする

「でんわのとき、ハグしてほしいとかいってたのに」
「な、ちょっと…」
「てれてるの?」
「照れてないよ!ほら、顔洗っておいで」
「もうすこし、、このままがいい」

耳元で悲哀を帯びる声で言わないでよ
ダメだって言えないじゃんか

「…っ、わかったよ」
「ほんとー?よかったあ」

むにゃむにゃからへにょへにょに進化した理佐は肩に顔を置いて背中にピッタリくっ付いてくる

「これじゃ動けないよ」
「このままでいいっていったじゃん…」
「そーだけど、朝ご飯いらないの?」
「……いるけど」
「じゃあ、少しだけ力緩めて?」

素直に離れた理佐は先に座ってしょげている

「ほら、食べよ?」
「たべるー」

目の前に座る理佐はご飯を食べる前はしょげていたのに口にした瞬間から笑顔になった
コロコロ変わる表情は見ていて楽しい

「おいしー」
「それはよかった」

理佐の準備を終わるのをソファーのんびりと待つ
あっち行ったりこっち行ったりと足音や水音
そんな生活音を聞けるのは幸せだ

一緒に『行ってきます』で家を出た



..........



あ、まただ
暗い

由依と暮らすようになってから毎日ではないけど不定期に起きてしまう
胸に突っかかった何かが私を叩き、気付いたら目が開いてる

唯一変わったのはつまらない天井じゃなくて由依がいること
それだけで気持ちが和らぐ

由依の息する音や呼吸するたびに動く胸
包みこむような優しい匂い
どれだけ長く見てもどれだけ細かく見ても飽きることなんてない
だからかもしれない、寝れないのは

寝ているはずなのに頬に手を添えるとすり寄ってくる
頬を少し触るとぷにぷにしていて頬よりほっぺたという感じだ
めちゃくちゃ可愛い天使がいる

写真は撮れないから目に焼き付けよう
由依が起きたらこれでもかっというくらい君に似合う言葉を言おう
今の私では語彙力が無さすぎて低画質でしか表せないけど…

いつだって隣にいてくれる由依を高画質で見ている
携帯で撮ってもモノクロで撮っても何で撮ってもその綺麗さや可愛さを隠すことなんてできない
滲み出るオーラが勝手に高画質フィルターに変わる

それは恋人だからではない
メンバーとして、人として尊敬している

モデルをやり、ドラマや映画に出演して、その上でアイドルも抜かりない
そんな由依の隣にいてもいいのだろうか

それだけじゃない
私は欅坂のメンバーとして貢献できているだろうか
誰かのためになれているだろうか

考えずともたくさん出てくる不安や悩みは涙とともに拭けば消えればいいのに

寝ている由依を見ると
聞いてほしいけど聞いてほしくない
直接では言えない不安や悩みが溢れてしまう

たかがそんなことで、しょうもない、と思われそうで人に話すことなんて出来ない
例え思っていても思っていなくても悪いように言う人ではないって知っているけど怖いんだ

私より大変な内容をこなしている由依はもっと大きい不安や悩みにぶつかっているだろう

心身共に疲れているはずなのに寝れない日は一緒に起きて寝るまで付き合ってくれる由依は優しい

でもその優しさがたまに怖いときがある
甘えすぎてしまって嫌われるんじゃないか
呆れられるんじゃないかと

止まりそうにない考えと涙が由依を起こしそうになるからベッドから抜け出す



_______________



頬に触れた気持ち良い冷たさに頭が醒めた
その冷たさは私の頬抓って小さく笑う

笑い声は時間が進むと次第に泣き声に変わった

今すぐに理佐を蝕んでいる虫を駆除したいけど私が起きたら理佐はすぐに口を噤むだろう
人前で泣かないと決めていることを否定はしないが私の前だけでは気を抜いてほしい

鼻をすする音や細々とした声は静寂な夜に響く
そんなこと思っていたんだ、そんなこと考えていたんだ
知れば知るほど聞いてるこっちも辛くなる

辛いことを辛くないと自分の気持ちに言い聞かせて自分のことより他人を優先する
そんなことをして自分を殺して誰がそれに気づくというのだろうか

涙は血液の一種と聞いた
もう自分を殺して血を流さないでほしい
傷ついているところなんて見たくない

言わないと気づけない
エスパーじゃないんだから

よく聞く台詞
その通りだけど、でも、言えない辛さは痛いほどわかる
言えないけど理佐がその度に優しく包み込んでくれるから今の私がいる
理佐に救われているのに救えてない私は隣にいる資格があるのだろうか

声も殺して泣いていたからだろう
荒れてきた息を殺しながらベッドを出る理佐

あとを追いかけたいけど聞かれてたと知ったら余計に自分を殺すだろう

大切な人が泣いているのをほっとくのは胸が痛い
その痛みに耐えながら体感は三十分、実際は一分待った

もういいだろう、充分待った

リビングに行くとソファーに座って天井を向いていた
ブランケットをまた抱えている

私がきたことに気づいていないようで後ろからハグをする

「起きたなら起こしてよ」

いつかの時の言葉をそのまま返す

「ごめん…起こしたら悪いと思ったから」

意図的なのかはわからないけど私が言った言葉を返された

「正面から…ハグしたい」

顔を見られたくないかと思っての後ろからの配慮はどうやらいらなかったみたいだ

「私も」

正面から抱きつきお互い顔を肩に埋める
首すじの匂いをかがれてくすぐったくて恥ずかしい

特に何も話すことなく静かな時間を過ごす
あまりにも安心するから眠気が襲ってくる
頭を撫でる手が止まりそうになる度に寝ないでと言わんばかりに首を甘噛みしてくる

静かな空間に再び泣き声が響く
顔を見ようと涙を拭こうと体を離そうとすると腕の力が強くなる

「………なんで泣いてるか聞いてもいい?」
「…っ、ないてないっから」
「わかった、、、今何考えてる?」
「わかんっない」
「…そっか」

誤魔化しているのか、本当に分からないのか、感じ取ることが出来ない

「目を瞑って深呼吸しよ」
「っはぁ、、ふっ、、」
「息吸って、、、吐いて、、」

私の存在を確かめるように服を掴む力が強くなる

「大丈夫だよ、ここにいるよ」
「ゆっい、、ゆい」
「うん、いるよ。ひとりじゃないよ」

落ち着いたのはそれから少したった今
体を離して目を合わせる
不安そうな居心地が悪そうな目をしている
眉を下げて口をへの字に絵文字でみるような顔

「疲れちゃったでしょ?ベッド行こ?」
「…ん」

眠くなったのか行動がゆっくりだ
ベッドに入るとたくさん泣いたのにまた目から涙が零れそうになる

「泣き虫さんだね」
「泣いてないっ…」
「嘘つかないの」

簡単に零れる涙はなかなか止まらない

「もう、寝よ?」
「うん…」

目の前が暗くなっても私が居ることを感じるように瞼にキスを落とす
その感覚がいつまでも続きますように
そんな願いを込めて