「武蔵」予約受付開始の日―2009年10月16日

一、夢の始まり
夢から夢へ
2008年6月20日夜、上野の森美術館「井上雄彦 最後のマンガ展」内覧会
私たちの夢は、その夜から始まった。
「武蔵のフィギュアを作ってみたい・・ダメでも、それを、一目でも井上先生に観ていただいて感想を頂けたら、こんな幸せはない・・」
原型師鈴木の痛切な一言で、最初はただの夢にしか思えなかったこのプロジェクトは、その日を境に走り始めた。
とにかく、最高のもの、井上先生に見ていただけるために出来ることはすべてやろう、結果は、その先にあるというのが、このプロジェクトにかかわる人間すべての合言葉だった。
言い出しっぺの私でさえ、本当に先生に見ていただけるかさえ自信はなかった。
ましてや、商品化までできるなどとは、その場の誰一人として思いも願いもしていなかった。
ただ、ひたすら、先生に見ていただく、そのためだけに創ることを決めたのだった。

二、―そして、原型が完成した―
2008年9月**日、完成した武蔵フィギュアの原型を持ち、事務所にお邪魔をした。
おずおず取り出した原型を、じっと見ていた担当者の方から、一言「私が見た限りは、いい出来だと思います。井上に見せてみます」と言っていただいたのだ。
井上先生に見ていただける。そのことだけで、私も、T氏も、原型師の鈴木も、ただそれだけで十分だった。

三、先生に見ていただけた!彩色へ・・
2008年10月**日、担当者の方から一通のメールをいただいた。
先生に、見ていただけたという知らせだった。
そして、「手」について、先生好みで作られているし、「バカボンド」に対する愛情も感じられたと言っていただいたというのだ。
そして、何と、先生自ら、原型に彩色したものを見たいと言っていただけたというのだ!
鈴木からは、「正直、この仕事をしてきて、今回が一番嬉しかった。感激した。」というメールが返ってきた。
いろいろ、不足な点を指摘いただいて、返され、それで、このプロジェクトも終わる可能性が高いと思っていた。
それが、彩色まで、見ていただけるというのだ。
素直に、嬉しかった・・・

四、商品化?エッ
2008年11月**日、やっと彩色が終わった。
前日、井上先生の事務所にお届けした、彩色した原型を先生に見ていただいたというメールが入った。
いろいろ、気になるところをご指摘いただいた上で、「もっと井上をうならせてほしい」というもったいない言葉とともに、一言付け加えていただいていていた。
「商品化したいですね」と。
嘘ではないかと思った。
この瞬間から、夢が、夢でなく現実のものとなったのだ・・・・

五、2009年8月、完成から発売まで
2009年8月**日、ついに最終サンプルの了承をいただいた。
上野で夢を語り合った、あの夜から、1年以上が経っていた。
ここまで、いろんなことがあった。
何度か、井上先生からのご指摘を受け、修正に修正を繰り返してきた。
鈴木は、ついには、先生の展示会を追いかけ熊本まで行き、武蔵の晩年住んだという霊厳堂にも、足を運び、先生の描こうとする世界を何とか自分のものにしようという努力を重ねてきた。
商品化の許可いただいてからも、修正の期限も、発売日も、何も決めてこなかった。
とにかく、最高のもの、井上先生に「もっとうなっていただく」、それだけを望んでいた。
完成した商品には、その誇りも込めて、原型師鈴木の名前も入れさせていただくことにした。
そして、今、いよいよ、夢と精魂をこめた「私たち」の作品が、世界に出ていく・・