直己がまりあの元彼・碧(あおい)を連れてきた。
拘束している様子はなく、
観念して大人しくついてきたようだ。
場所は前にまりあと行ったことがあるカフェだ。
細いまりあを膝の上に乗せてキスをした場所。
今夜もほぼ満席で、
逢瀬の思い出が残るその席しか空いてなかった。
もちろんそのことは直己も碧も知らない。
「そっちに座って」
碧は不貞腐れた様子もなく、
直人が示した真向かいの席に静かに座った。
言いたいことは山ほどある。
でも…
襟元を掴んで問い詰めるとか、
そんな荒い行動もできないほど、
直人は疲れきっていた。
隣に座った直己が、
直人の代わりに碧を問い詰めようとして、
少し前に身を乗り出す。
だが口火を切ったのは碧の方だった。
「今朝、また居なくなった。彼女をどこに隠したんです?」
「…は⁉︎」
「あなたの家に戻ってないってことは、
あのマンションしか心当たりがない」
「あの小さな子供がいる三代目のボーカルの家だ」
つづく