
どこかのぼったくりバーで若者が被害に遭い
先日その加害者が逮捕されたとニュースを耳にした
ずっとずっと前に
近所で知り合いのお兄ちゃんが同じような手口でぼったくられ
取り立て人が家まで来たという噂が
子どものぼくの耳にまで届いたことがあった
つまり当時としてはわが街の大事件であったということだ
それから身近でそのようなことがあったということを耳にしたことは一度もない
だからこのニュースを聞いたときに
こんな古い手口のぼったくりがいまだに行われていたのかと少々驚いた
その若者は女性の甘い言葉につられて罠に踏み入ってしまったようだが
幸いぼくに甘い言葉をかけてかけてくれる女性はこれまでに一人もいなかったので
辛うじて被害にあわずに助かっているのかもしれない
ぼったくりという言葉にはもう一つ思い出がある
仕事上でかつて海外より来客だあったとき
当時その国から留学生として来日していた女性に通訳を依頼したことがあった
彼女は当時20代前半だった
生活習慣の全く違う日本で単身暮らしていくのは大変だったと思う
しかし彼女はそんな辛さをおくびにも出さず
いつも笑顔で依頼した1週間の職責を立派に果たしてくれた
驚くことに
その彼女の日本語は来日2年目だというのに完璧であった
彼女の口から発せられる日本語には
いわゆる外国人特有のイントネーションなど微塵も感じられなかった
その流暢な日本語力はほぼほぼ母国で培ってきたものだった
まさに才女だった
ある日
来客を日本の水族館に案内したことがあった
もちろん彼女も通訳として同行していた
イルカのショーなどを見学したのち
出口近くのショップコーナーでしばらく自由時間となった
ぼくともうひとりの同僚と彼女の三人は
来客から付かず離れずの間合いを保ちながら
彼女自身も何か土産を買いたいというので一緒に物色していた
彼女はイルカのキーホルダーが気に入ったようだった
それを購入しようと手に取ったのを見て
同僚が「ぼったくりだ!」とつぶやいた
完璧な日本語を操るさすがの彼女もこの言葉を知らなかったようで
ぼったくりとは何かと同僚に尋ねていた
ぼったくりの意味を聞いた彼女はそのキーホルダーの購入を諦めた
そしてほかの土産にしようと店内をまわっていた
彼女はぼったくりという言葉の響きがよほど気に入ったのか
千円以上の土産を手にすると
「ぼったくりだ!」と言っては手にした商品を棚に戻していた
そのたびに同僚も
「そうだ!ぼったくりだ!」と同調して二人でずっとふざけ合っていた
結局彼女は「ぼったくり」という新ワードを土産にしただけだった
その後行く先々で値札を見ては
ぼくと同僚に向かって「ぼったくりだ!」と笑顔で呼びかけるのであった
もちろん頭脳明晰な彼女の悪ふざけではあったが
店の人の前で「ぼったくり」と言うのはまずいだろうと
ぼったくりを伝授した師匠の同僚に何とかするように頼んだのだった
彼女とはその後もしばらくメールのやりとりをしていた
彼女は大学院の修士課程を終えると
いったん母国に帰国し
しばらくして今度は東京の一流大学の博士課程に編入したらしい
それからは連絡を取り合ってはいない
あれから随分な時が流れたが元気にしているだろうか
日本で働いているのか母国に帰ったのか定かではないが
お気に入りの「ぼったくり」ワードを
いまでも笑顔で使っているような気がしてならない

