鳴谷大滝。

 

 

 鳴谷は2015年に溯行しており、その時、大滝を見て登れるんじゃないかと思った。それから月日が流れ、心の底に眠っていたものが、突如、目を覚まし、登攀へ駆り立てることになった。

 昨年12月、渓游祭にお邪魔した翌日、大滝を偵察に行った。右岸のカンテ状に張り出した岩場は登れると容易に想像できたが、その上部はどうか・・?改めてしっかり観察してみる必要があった。果たして大滝下に立ち、二人でオブザベーションした結果、何とかなるのではないか、という結論に至った。傾斜も左程なさそうだし・・・無論、滝の上からぶら下って調べた訳ではないので、本当のところは登ってみなくては分からなかった。

 その時に、コージが左岸も登れるのでは?と話した。一見、左岸は右岸を比べ立っているように見えるが、樹林が点々と繋がっており、それを追って登れなくもないな、とコージの話を聞いて思った。来年、右岸を左岸をセットでトライしてみようということになった。

 

右岸尾根からアプローチ。

 

 

大滝上流部の河原にB.S

 

 

 今年の春は早い菜種前線の停滞と、相次ぐ低気圧の通過で、例年ない雨量だった。積年の目標の小木森谷大滝は断念せざるを得ず、4月下旬に確保した連休は鳴谷大滝にあてることにした。

 ますは、大滝へのアプローチ。溯行は時間が掛かるので、下山に使った右岸尾根から大滝上のB.Sへアプローチすることにした。この尾根上には境界杭があり、踏み跡も明瞭。ただ、派生する枝尾根には迷い込まないように地図の確認は必要だ。671Mピークからは北東の尾根に入るがこちらも人によく踏まれている。ギア、幕営装備担ぎ休憩入れて、約3時間ほど。大滝上は植林の広がる平流。ただ、間伐材散らばる暗い植林帯なので、あまり雰囲気は良くない。それでも二人が妥協できる場所を見付けてテントを張る。そして、右岸を巻き下って大滝下へ。

 

 

まずは、右岸をトライするも・・。

 

 

リスのない前傾壁に阻まれる。

 

 

 

 前衛の滝は12月来た時はへつって直登したが、今回は水量多いので左岸を巻いて、大滝前に立った。翼のように両岸壁を広げ、鳴谷大滝は白煙を上げて流れ落ちていた。文句なしのどうどうとした流れだ。まずは、右岸のトライ。私のリードでカンテ状に張り出した岩を登り大テラスに出て、後は、ザイルを伸ばせるところ伸ばそうと思った。上部が核心となり、コージの出番になるだろうと思った。

 カンテは階段状で容易。しかし、リスに見えたのは実は模様で、リスに乏しい岩質だということに取り付いてみて気が付いた。それでも、容易なので問題なく大テラスに達する。そこからモンキークライムで二つ小テラスを乗り越す。そうして、灌木が途絶えたところで、前進を阻まれた。目の前にすると、想像以上に立っていて、完全な前傾壁だった。それに、リスらしいものが全く見当たらあかった。

 滝下からも見える顕著な立木まではせめてザイルを伸ばせるかと思ったが、論外。兎に角、コージに上がってきて見てもらおうと、セカンドビレイをする。「えらい立っているな・・」と上がってきたコージ。「どうする・・?」と聞いてみたが、「ボルト打ったら登れるけどな」という返答だった。無論、打ってまで登るつもりなどなかったので、懸垂下降で大滝下に戻る。さあ、仕切り直しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、左岸。私は登攀対象とは見なかったが、コージの眼で見出されたライン。同じくカンテ状に岩が張り出しているので、そこは登れそうだが、そこから上部が右岸より立っているように滝下からは思えた。こちらも敗退かもしれないので、リードをコージに任せることにした。

 下部は本当は水流よりのスラブを攻めて欲しかったが、樹林を追いながら巻き気味で、テラスに立つ。訳30m。そこでピッチを切り私を迎える。

 ここから傾斜が出てくるが、立木が繫がっている。モンキーで一段上がると、ピナクルが聳えて、リッジを挟んで右はチムニー、左側はクラックが伸びている。クラックラインを選び、ハンドジャムを決めたり、レイバックでぐいぐい登ってピナクル頭に立った。そこで2ピッチ目を切る。

 さて、3ピッチ目だが、ピナクル上は完全な垂壁となっていた。立木は頭上3mほど上部に見える。ホールドが点々と繋がっており、フェイスクライミングが可能のように見えるが、支点が得られるかどうかが問題で、見た目には乏しそうだし、リスがあったとしても厳しい態勢でハンマーを振るうことになるだろう。

 恐らく10+~11.aくらいのフェイスだろう。大滝登攀にはあらぬ踏み替えや、ムーブでコージは見事に頭上の立木に達した。ピナクルからも見える滝の頭まではあとわずかのはずだが、立木の先からコージの姿が一旦消え失せたが、しばらくして、滝の頭で手を振るコージの姿が見えた!

 

 

いざ、頭へっ!

 

 

 フェイスはフォローでも厳しく、私はハーケンにアブミを掛けて立木に達することができた。このフェイスをフリーで、ハーケンを決めながら登るのだから、コージにはやはり叶わない。立木に達すると、奇跡のようにバンドが頭へ延びており、あっさりと頭に登り出ることができてしまった。最後は水流を踏んで頭に立つのが爽快だった。

 まさか左岸がとは思わなかったが、コージの慧眼で見出された見出されたライン。きっと、初登だろうが、3時間のアプローチを掛けてまでわざわざ登りに来る沢屋がいるかどうか。もし、トライする変わり者がいるなら、3ピッチ目のフェイスは白眉だし、逃げてしまった1ピッチ目を水流によって攻めればいいだろう。また、鳴谷は登攀要素の高い谷で、南紀でも指折りの名谷なんで、実力ある沢屋は溯行と大滝登攀をセットで計画したら、充実することだろう。

 

 

 

 

 B.Sに着くと、さっそく薪集め。前日の雨でしっかり濡れていたが、コージのお陰で今年初の焚火を囲むことができた。やっぱり、サイコー!!沢が好きで好きでたまらない。今年も、もう行きたいだけ、行ってしまうから!!