10月17日(火)は、アサラト妖精さんを誘い合わせて、大滝登攀へ!

初めは南アルプスの大滝を考えていたのだが、検索すると結構沢山のパーティが登っているようなので、

途端に興味が薄れてしまった。白山書房の『日本の渓谷`96』から成瀬さんの記録を見付けてきた。

 

 

布滝三段90m。

 

 

 『日本の渓谷`96』には成瀬陽一さんによる「佐久間湖周辺の沢」があり、奥三河・天竜川界隈の谷と大滝登攀の記録が掲載されている。あの成瀬さんの記録でありながら、調べてみると再登の記録がない。天竜川と言うと、会員による南アルプスの遭難事故で今年何度か足を運ぶことになり、馴染みの場所となっていた。そういうこともあって俄然、こちらの方に気が乗った。

 

 アプローチは、昔、鳳来の岩場に通った同じルートで懐かしい。鳳来を越え、更に東栄町からみどり湖を目指す。しかし、前夜泊予定のみどり湖公園手前で、何と、通行止めに。土砂崩れで工事中とのことだった。仕方がないので、手前の駐車スペースに車を停めて、テントは張ることに。ジャンクフードをアテに軽く酒を呑んで就寝。湖に休む鵜のギャーギャーと騒ぐ声が、夜中じゅう聞こえていた。

 

 

トンネルを潜り通行止めの県道を行く。

 

 

吊り橋の掛かる大入渓谷。

 

 

 

 目覚めは悪く、コージが先にシュラフから出て、声を掛ける。昨夜、到着した時は分からなかったが、みどり湖の周辺の森は存外深く、町から隔絶された雰囲気があった。ゲートから歩き始めるとすぐに土砂崩れ現場。50mくらいだろうか?随分、高いところまで法面を施す作業の只中のようだった。公園を横目に、トンネルを抜けて、大入渓谷沿いの県道を歩く。この谷も「佐久間湖周辺の沢」に紹介されており、夏の泳ぎの沢として楽しめそうだ。

 庚申沢の先でもう一つのゲートを超え、さらに枝沢を渡った先で、適当な斜面を下って、大入渓谷へ。踏み跡に導かれて河原に降り立つと、対岸にちょうど滝を掛けた出合を見る。下流には、弛んだワイヤーに丸太が垂れ下がる、朽ちた吊り橋が掛っていた。河原の転石は、柱状節理だろうか?角ばった大まかな白い岩が転がっていた。

 

 

布滝沢出合にて。

 

 

奥の20m。

 

 

 

 渡渉し、出合へ。ちょっとした廊下となっており、小滝の奥にトポによる20mが掛かるのが見える。きっと高巻くことになるのだろうが、滝下まで見に行くのは沢屋の習性。滝下に立つと、やっぱり、ここが登れるあそこが登れる!と思ってしまうが、ロープの出番になるので、引き返して、左岸を高巻く。

 

 

5m。

 

意外とエイドとなった。

 

 

 小滝をへつると、今度はしっかりとした廊下。最奥に斜瀑が見えるが、ついつい接近してしまう。接近してみると易しそうで、フリーでコージが取り付く。が、悪いと言って降りてきた。ロープあるならいける!ということで、ロープをアラサト妖精さんにザックから出してもらい、ウォーミングアップがてら登ることに。易しそうだし、大滝では出番がなさそうなんで、私がリードを買って出る。

 が、いざ取り付いてみると、スタンスもホールドも乏しくて、みた目以上に悪い。何度も行ったり来たりしたが、踏ん切り付かず引き返した。コージとリードを交代。大岩下にハーケンを決めて人工から際どいフリーで頭へ登り出た。フォローしてみても、なかなか悪くて、アブミからフリーに移るムーブができず悩んだ挙げ句、ゴボウしてしまった。。アサラト妖精さんも大分、奮闘していたようだ。

 ロープを束ねながらふと、見上げると斜面を降りてくる男性の姿が見える。こんなところで…??まさかこんなマイナーな谷、しかも平日にと思う。下山時に分かったが、右岸に仕事道があり、それを使って布滝へ簡単にアプローチできるようだ。少し言葉を交わすと、男性は斜面を再び登って行った。

 

 

さらに20m。

これも登れそうだ。

 

簾状15mと前衛のナメ。

 

 

 5mを越えると、左岸から枝沢が入った先に20m ほどの滝が現れる。両岸高く、引き返して高巻く。

谷に戻ると滝場は尽きず、ナメ、斜瀑と続いた後、端正な簾状15mが掛かる。15mは下部は直登するも、上部は立っており、右岸に逃れる。いやいや、大滝登攀が目的でこの谷に来たが、沢登りとしても楽しめる!!巻いてしまった滝も攻めたら、さぞかし充実することだろう。『日本の渓谷』では、簡単なトポしか成瀬さんは載せてなかったので、てっきりくだらない谷だと思っていた。

 

右又には連弾となってナメが掛かる。

 

 

ナメを振り返る。

 

 

そして、布滝!!

 

 

 

 倒木の堆積する河原を進むと、二又。進むは右又で、連段となってナメを掛けていた。見上げるばかり続くナメは、次から次へと打ち寄せる波のようで、思わず歓声を上げた。

 駆け上がっていくと、ナメの先に大滝が裾野を見せる。スライダー状の流れから不意に白い壁がせり立つ。それは、まるで白亜の城郭のごとくだった。ただ見惚れるでなく、さっそくルートを探るのは、やはり沢屋の習性。下部は容易なんで、ラバーのフリクションよく、フリーで中段基部へ。行動食をとった後、登攀準備に取り掛かる。リードはアサラト妖精。

 まずは、ピナクル上を目指すが、出だしから悪い。草付きを迂回するように右手のスラブから取り付き、ピナクル下に出るが、被った草付きが立ちはだかる。草付きを掻き分けたり、剥がしたりし、ホールドを探し、一進一退。ビレイしているコージはあれこれアドバイスしているようだ。一進一退した後、踏ん切りついたのが、スタンスを上け、ビナクルを乗り越す…しかし、その時不意に左足を置いていた草付きが剥がれ落ちる!!アサラト妖精さんは、草付きと一緒に落ちて行った…。

 

 

リードをコージに交代。

 

フォローの私。

 

テラスから。

 

 

 

 

 背中から落ちたので、ヤバいと思ったが、すぐに起きて大丈夫です!と、言う。しばらく、安静にしてもらう。どうも、おしりをひどく打ったようだが、その他は痛くないとのこと。ヒヤリとした出来事だった。 あの男性もちょうど大滝前に到着したところで、突然の滑落にひどく驚いたようだ。

 コージにリードを代わってもらい、アサラト妖精さんがビレイ。こなれたもんで、コージはピナクル直下で丹念に探りハーケンを打ち込む。その後は、ホールドを確かめた後、慎重に足場を決めて一気に乗り越す…。難しい箇所を何ともなかったようにこなした。

 ピナクル上は傾斜が落ちるが、ホールドの向きが悪くて落ち着かない。スラブに出たところで、しばらくフリーズ。ラインは凹角向けてスラブを直上のはずだが、ハーケンを決めた後、右上して行く…?「凹角ちゃうん!」と叫ぶと、「こんなところ無理〜!」と、怒鳴り返してきた。右上のカンテを登って行くが、テラスに達するには、なかなか時間がかかった。

 2番手は私で、フィックスされたロープを辿り、登るのたが、厳しいムーブがあるとなかなか厄介。ピナクルの乗り越しは、左手の遠くて悪いギャスから右足をハイステップするのたが、案の上、ピナクル下で身動き取れなくなる…。ロープスリングを取り出し、プルージックし、ロープ登高に切り替えて、この窮地を脱する。ピナクル上に立ち、ホッとしたが、しかしこの先待ち受ける、カンテラインもスローパーばかりで、全然易しくなかった。突っ込む前にコージが固め取りしていたのが、よく分かる。3番手は、アサラト妖精さんが回収。やはりピナクル乗り越しで手間取ったようだった。

 

 

テラスから更に上段滝前へ。

 

 

汚名返上のアサラト妖精のリード!

 

 

そうして、頭へ。

 

 

 

 さらにコージがリードで容易なスラブを上段滝前にまで伸ばす。上段滝は釜を持った斜瀑となっている。汚名返上にと、アサラト妖精さんのリード。水際を登る沢登りらしいライン。一箇所乗り越しで、躊躇していたが、エイドで上手いこと処理し、核心を突破。3人が頭に集結した時には、すでに薄暗くなっていた。あの男性の姿は、いつしか消えていた。

 右岸を巻いて大滝下へ。右岸にテープが見え、それを追いかける。沢筋で幾度か曖昧となるが、概ね明瞭な踏み跡が続いていた。途中で、とうとうヘッデンを取り出した。

 暗闇の林道を3人で歩く。背後から月が顔を出し、路面に影が揺れる。さあ、来年、3人でどんな谷に行くのだろう??悔しさを背に、さらなるアサラト妖精さんの飛躍に期待したい!アサラトがトンネルに木霊する。

 

 

登攀後、布滝前にて。

 

 

 成瀬さんが打ったと思われる、リングのないボルトを一つ見付けた以外は、人の痕跡と言えるものはなかった。アプローチも簡単だし、成瀬さんが紹介するだけの大滝なんで、もっと登られても良いと思う。沢自体は、右岸の仕事道以外にも高巻きルートぽい踏み跡があったので、地元の沢屋さんには知られているようだ。単に登られてないということで初登というものを追いかけるならば再登でも、ずっと登る価値があるものがある。関西からは日帰り圏内だし、沢登りとセットで大滝登れば、充実するだろう。