“名瀑”というのは、見た目から風格や美しさから、そう呼ばれるのに違いない。しかし、登って分かる“名瀑”というのも存在する。まさに、それがツキ谷左岸枝沢に掛るこの“かくれ滝”。見た目には風格や美しさなど感じない、暗くて滋味な滝なのだが、登ってその懐に入ると、しみじみその“名瀑”ぶりを感じることができる。

 

 さて、その“かくれ滝”。7月4日にタイムオーバーにて途中撤退となった。一昨日、病院に連れて行った父が癌だということが判明、全身に転移しており、更に大動脈瘤も発見、その治療方針を昨日、聞きに行った。父の存命は長くないと知ったが、どうしてもこの大滝を完結しておきたいという思いが強く、7月12日(水)に向かうことにした。

 

 

 

ツキ谷“かくれ滝”

 

 

 前回の登攀終了点の立木まで左岸を高巻く。あの暗闇の中、これしかないという最短ルートを嗅ぎつけた臭覚を我ながら感心する。まずは、残置してしまったカムの回収。この大滝を初登した知人のパートナーはクラッククライミングに精通しており、

ウオーキングしてしまったカムの回収装置の作り方を紹介した動画を教えてもらった。コージがさっそく自作してくれたんで、クライムダウンして、回収を無事に果たす。登り返して、登攀終了点に戻る。

 

 

3ピッチ目。

 

 

 さて、ここから前回の続き。左岸からバンドをトラバースし、水流を目指す。水流に入ると、途端にホールドが細かくなるようで、コージはハーケンを決め、慎重に手足を探りつつ登る。ちょっとした乗り越しの後、コージの姿は見えなくなった。左上し、恐らく初登の2ピッチ目終了点と思われる、立木生える右岸のテラスでピッチを切った。私たちの独自に見出したラインだったので、繋がるかどうか登ってみなくては分からなかったが、上手くラインは繋がってくれた!

 

 

4ピッチ目。

 

 

 4ピッチ目は、右岸から右上し、再び水線を目指す。階段状からクラックをネイリングし上昇する。トユ状となった流れを跨いでステミングを決め込むと後は楽勝。スラブをちょっと登って頭に立った。登っている間は、終始シャワーを浴び続けていたが、気持ち良かった。初登時は極寒の2月だったようだ。

 

 

その上の20m。

 

 

 大滝はここで一旦終わるが、目の前には釜の向こうに20mが掛かている。これも登っておかなくては、中途半端な完登となってしまうだろう。容易そうなので、私のリード。水流左側から登り途中で右側へトラバースする。20mは上部はスラブとなって更に50mくらい続いていた。

 

 

その上の20m。

 

 

 

 下山は左岸を壁の繋がりを見ながらルンゼを渡って大きく巻き降り、最後は前回と同じ尾根を降りて、千尋滝前に出た。大きく、堂々と流れ落ちる姿は、風格そのものだ。父の姿と千尋滝とを重ね和わせるようだった。

 

 

千尋滝にて。