3ヶ月間頂いた休暇も、残すところ一週間となり、最後に単独谷泊することにした。場所は昨年同じ時期に行った古座川源流の更にその先。アプローチがすこぶる不便なので、下から溯行するのでなく、稜線から本谷を下降し狩場谷を溯行するというルート取りを考えた。狩場谷はキンゴさんらの記録があるが、本谷とした小川最奥の谷の記錄は知らなかった。本谷も小川のその他の支流と同じく、くねくねと蛇行し、岩床と瀞場が特徴の谷、大した悪場はないだろうと踏んだ。

 

 

林道を歩く。

 

 

 前夜はクラックスでジムトレし、翌朝5時に起きて本宮に向う。日足から県道44号線に入り、滝本へ。さらに44号線を走り、小麦の集落手前で右の林道に入った所に駐車し、歩き始めた。寒気が下りたと聞いたこの日、植林に覆われた林道を歩いていると、南紀でもヒンヤリと冷たく感じた。しかし、やがて林道が尾根を跨いで、東側の展望が開けると日差しが注いだ。小屋のある分岐を左に取ると、尾根から外れ本谷源頭へと道は下っていく。沢筋を左手に見ながら下っていくが、道は陥没し荒れてくる。ケモノの足跡を辿ると歩きやすく、やがて道が右へカーブした所で、いよいよ沢に降りることにした。

 

 

やがてナメ床が見られるように。

 

台地に小屋も見られる。

 

 

 降りた沢は、ゴーロで至って平凡。ただ、四角ばった岩コロが、南紀独特である。両岸は、植林。降ってくと、ナメ床となり、これも南紀名物。地形図に見てとれるように蛇行を見せ、ナメ床と淵を繰り返す。両岸には台地が散見され、小川のその他の沢と同じく、冗長な渓相がずっと続くと思っていた。

 左から枝谷が入った先で右岸に広い台地が見られ、石垣や朽ちた植林小屋などもあった。小川の下流部と同じく、ここでも多くの人たちがかつて生活を送っていたのだろう。突然、犬の声が聞こえたので地図を見るが近くに集落があるのでもなかった。猟犬か?いや、野犬だったら怖いな・・と思ったが、吠え声は近づくことなく、やがて聞こえなくなった。そんな一幕があったものの、沢としてはハラハラさせられる場面はなかった。

 

 

二条5m。

 

ゴルジュとなり。

 

 

滝は小さいながら

手強いものばかり。

 

 

 

 

 

  しかし、右手から大きな枝谷が入った先で一変した。足元が切れ落ちて、滝が掛かる。軽く巻いて滝下に立つと、二条5mの滝。双子のようにみえる二条滝で、こんな綺麗な滝も掛るのかと最初は喜んだ。しかし、低いながらも両岸が壁となり、沢筋を進むのが容易でない渓相になってきた。そうして、連瀑帯へ。一応滝の頭に立ってみるが、それほど高い滝ではないものの、クライムダウンは難しくその先の釜は滝の大きさからでは想像できないほど深かった。

 左岸から巻くが、あと一歩のところが壁で下れず、引き返して右岸を巻くがこちらも壁が続いてなかなか沢に戻れない。トラバースし続けて、ようやく谷に戻るが、またもや滝と淵。これも小さいながも降れず、巻かされることになる。幾つ滝場をこなしたのか、もはや記憶になかったが、キャンプ気分でテントや食材をボッカして来たこと、そして単独で来てしまったことを後悔した。コージがいることが当たり前になってしまった沢登り。自分一人ではあまりに頼りなく、心細く、頼る者のいない自分の弱さを思い知った。今なら間に合う、引き返そうか…そう自問自答しながら巻きながら覗いた淵がびっくりするほど碧かった。

 

 

やがて連瀑帯を脱して。

 

 

岬状に張り出したナメ床。

 

岩小屋を見る。

 

 

蛇行する流れは、まるで迷路に迷い込んだ気持ちになり、谷が曲がる度に不安を掻き立てる。帰ろうか…?帰ろうか…?と思いながら歩んでいく内にいつしか連瀑帯を脱したようだった。両岸の壁は続いたが、曲がっても曲がっても滝は現れず、ナメ床と淵が続いた。岬状に張り出したナメ床が印象的な場所もあり、心が次第に和んでいった。右岸の岩壁に岩小屋を見ると谷は、大きく左に回り込み、不意に開けて河原に出た。ここが本谷出合で、昨年小森川から溯行した時に、快適なテンバがあることを確認していた。13時を回ったばかりだが、ザックを置いて、テンをを張ることにした。