大台ケ原・大蛇嵓は、不動返し尾根の南面に聳える200mほどの岩壁である。1578mピークを最高峰に、展望台のあるピークをP7とし、順次ピークに数字を当て、最後はP1で東ノ川に切り立つ。P3とP4の南壁に、日本が開拓熱に沸いた1970年代、複数のルートが拓かれた。それらは『登山体系』に紹介されているが、再登の話を今までほとんど聞かない。七面山南壁が近年、フリールートとして再開拓されたのに対し、大蛇嵓はアプローチの悪さから、未だ忘れられた岩壁のままだ。
私たちがわらじに入会する以前、わらじのOBが中心となって、“daijyagura”なるメーリングリストを立ち上げて、その登攀を目指したが果たせずに解散することになった。
大蛇嵓を望む。
私たちも当時、“daijyagura”のメーリングリスト・メンバーに加えてもらっていたが、沢をまだ始めて間もない頃で、岩壁登攀なんて想像さえしない、あまりにかけ離れた存在で、積極的なコミットをすることはなかった。あれから、はや20年たち、紀伊半島の大概の沢や岩壁を登った今、残された最後の課題としてようやく大蛇嵓を向けることになった。
ネット上でもみることができるが、登攀倶楽部による大蛇嵓開拓の記録がある。それによると、まず、中揚谷を下降し、東ノ川から不動返し尾根南面に突き上げる谷─大蛇谷を溯行している。それによると、「大蛇谷は上部で急峻となり、コケ付きのチムニー状のルンゼはとても登れず、右岸ブッシュ帯に入る」とあり、沢屋として、まずこの大蛇谷を登っておきたいと思ったし、大蛇嵓の概念を掴むのに最も良い方法だと考えた。