ツキ谷千尋滝下山後は、大阪に戻るredeyeさんと別れ、池原のきなりの湯で汗を流す。GW中日と相まって、温泉は満員の看板が出ていた。
温泉から出ると、再び池原ダムに向かい、更に奥にある坂本ダムを目指す。向かっている途中で、一台の車とすれ違う。誰かな?と思い見ると、ゆーみんだった。坂本ダムで待っていたが、なかなか来ないので心配して引き返してきたそうだ。圏外なんで、メールやラインを見ることができない。
だからこそ、静かな坂本ダム。3人で独占し、ささやかな宴会を催す。そして、撃沈。。5時起き予定だったが、何故だか、早くに目が覚める。靄の棚引く湖畔を散策した。
さて、5月5日は、又口川源流の溯行。昨年、わんこさんやキンゴさんの記録を見て良さそうだなと思っていた。池原からだと近いし、千尋滝登攀翌日の山行にうってつけだ。
橋桁付近のスペースに駐車し、歩き始める。右岸に山道があり、それを利用する。入口に“アナギの滝”と記された看板があり、ちょっとした名所になっているようだ。
陽の滝。
山道をしばらく辿り、ガレ沢を横断した先でテープに従い又口川に降り立つ。河原を歩いて行くと、壁が立ったドーム状の空間に出た。左手には三角錐状の直瀑が掛かり、右手には廊下の中に真青な淵を持った小滝が掛かっていた。それぞれを“陽の滝”、“陰の滝”と呼び、2つ合わせてアナギの滝と呼ぶらしい。本谷は、右の“陰の滝”の方なので、左岸を高巻く。
“陰の滝”上は深い釜となり、ナメ滝を掛けていた。ナメをへつり、登ると河原となる。河原に出て、一息。しかし、この河原が随分長かった。
蛇行しながら、又口川は高峰山に向かって南東に伸びる。右岸、左岸と台地が散見され、そこに炭焼き窯の石積みが見られた。辺りは自然林で、さざ波のような光を落とす。新緑の中に、紫の花が陽炎のように現れる。藤の花で、房を水面に向けて垂らしていた。
転石は白く、楕円形をして丸みを帯びていて柔らかい。谷は曲がると決まって格子状の節理が特徴的な側壁が現れ、それがいいアクセントとなった。
左右に幾つも枝沢を見送り進むと、やがて谷中に大きなオニギリのような岩が鎮座する。岩には数本、檜が生えていた。その大岩を越えた辺りから、ようやく滝場となった。
谷の曲折に合わせナメのプロムナードは、右に、左に、取って代わり、はたまたジェットコースターのように上に下に、うねるように流れ落ちていた。まさに、アトラクションのような、目まぐるしい展開。ナメの上を飛沫を飛ばし駆け抜けることもあれば、スリップしないかと、へっぴり腰になり進むこともあった。
岩肌は黄色み掛かり、その表面を水がサラサラと流れ落ちる。頭上にはカーテンのように新緑が被さり、ナメに映し出される。あまりの美しさに3人とも、歓声を上げた。
そうして、ナメのプロムナードが波打ちながらせり上がりを見せた先に、大波のように20mが押し寄せる。キンゴさんにより、“ドライブ感のある滝”と、呼ばれた滝だ。しかしそれは、水と岩とが反発し合うところからくる躍動感ではなく、むしろ融合し合うことによって生まれる躍動感だった。頭から流れ落ちる水流は、岩盤の柔らかさに沿うように、曲線を描くように滑り落ちていた。
ここは高巻くしか手がない。左岸の尾根を巻いたが、ドライブ滝は上部で更にナメへと終わりなく展開していた。クライムダウンできたが、ゆーみんの練習にと懸垂下降で、ナメに降り立つ。
釜を持った3mを巻くと、ようやくナメは消え、ゴーロとなる。5mは容易に登れるが、ゆーみんの為にザイルを出す。後からアドバイスしながら登ったが、どこをどう登るか、まだ分からないようだ。5mを越えると、再びナメロード。岩肌は黄色から赤茶色となり、起伏も穏やかで源流の気配となる。奥ノ二又で右俣を取って進むと、水流はぐっと減る。
ナメはやがて岩の体積に埋もれ、傾斜を上げゴーロの登高となる。岩の表面にびっしり苔が生えていたが、やがて水切れとなっても青々とした苔の絨毯に覆われていた。
予定通り、高峰山の西のコルに登り出る。計画では、左岸尾根を下山ルートとして考えていたが、昨日の山行で思った以上に疲れていたので高峰山から右岸尾根を辿ることにした。
高峰山は刈払われていて、尾鷲の町並みの向こうに太平洋を望むことができた。太平洋を展望できるのは、南紀の谷ならでは。高峰山を辞し、北東のピークからは稜線を西に進み、三角点のある884mピークをめざす。
所謂、尾鷲杉と言うのだろうか、この尾根には、幹周りが数メートルあろうかという、巨大な杉が多かった。そのどれもが、尾根の見晴らしいい東面に生え、太平洋を見下ろすように佇んでいた。私たちがこの世に生を授かった遥か以前から、そこにいたことを思うと、思わず溜息ついてしまう。
さて、巨木にいちいち足を止めていたこともあるが、痩せ尾根でアップダウンを繰り返し、思いの他進まなかった。三角点を見逃し通り過ぎたのかと、一時は疑いさえもした。ゆーみんがバテないか心配したが、全然問題なく付いてきていた。
ようやく884mに到着し、休憩の後、北西の派生尾根を下る。尾根を少し進むと、さっそく植林となる。幾つか尾根が派生しており、その度に地図を取り出して確認した。
最後の最後はやはり急な痩せ尾根となり、“陽の滝”の落口に降り着く。頭から見下ろし、右岸から巻き降ろうと斜面を登っていくと、先頭を行くコージが、「道や!」と叫ぶ。「ほんまかー」と思わず言ってしまうが、石積みされた立派な道だった。この山道は、アナギの滝の岩壁の縁に沿ってあり、かなり広い道型だった。所謂、木馬道だったのだろう。
やがて、入谷時に歩いた道と合流。テープに従って途中で沢に降りたが、なおもこの道はアナギの滝を高巻いて上流に続いていたのだった。
又口川上流は、清流と白い転石、そしてナメの美しい、品のある谷だった。詰めは太平洋を眺めるロケーション、下山は巨大な杉たちが佇む。極上の癒し渓だった!