GW前日となる4月28日は、晴れの予報!いても立っておらず、大峰の谷に向かうことにした。場所は、『大峰山脈の谷』で、取り零している天ヶ瀬川・水太谷。中庄谷さんによる記録があるのだが、その他にも様々な枝谷があり、それらの探索が今年のテーマの一つである。

 前夜はいつも通りクラックスでジムトレ。4時起きで自宅を出発し、国道169号を南下する。天ヶ瀬から309に入る。現在、北角の土砂崩れで洞川へは通り抜けできないようだ。分岐で右をとり、林道水太和佐又線に入る。小石が転がってたりするが、アスファルトの至って快適な車道。くねくねしながら標高を上げ、水太谷の2度目の横断となる橋付近にスペースあり駐車する。無双洞への最短アプローチとなる登山口でもある。


 登山道は辿らず、橋桁からいきなり水太谷に入谷。ゴーロで平凡な谷中だが、白い岩肌が苔と新緑に映える美しい渓相。やがて、二又となり水量豊かに流れ落ちるのは、無双洞のある左俣。しかし、今回の目的の右俣は、御愛想程度の水量しかない。
 相変わらずの単調なゴーロが続くが、枝先で囀る野鳥たちが耳を楽しませてくれる。白い岩肌は、石灰岩で独特の侵食を見せている。今にも落ちそうなCSを見上げながら岩間を登るとやがて、和佐又からの登山道が横断。登山道を見送り、さらにゴーロの登高を続け左岸に涸谷を何気なく見送るが、次回の舞台となる谷だった。程なくして再び二又となる。左の方が開けていて明らかに大きいのだが、右の滝の見える谷が気になる。中庄谷さんらが溯行したのは、きっと左俣なんだろうが、人の行った所をそのまま行っても面白くないと、そこで急遽、計画でない右俣に入ることにした。


二段目6m

 右俣には二段目6mが掛かり巻いて頭に立つと、谷は二手に別れ、それぞれに滝を掛けていた。右は10m程の滝、左には小滝が連続して掛かり、その先にまだ滝が掛かっているようだった。
 面白そうな左を進むと連滝の先に10mが掛かっていた。10mを巻くと谷は開け、日差しいっぱい受ける。振り返ると、日本岳のピークを樹林越しに眺めることができた。
 谷は開けたが、小滝を相次いで掛けている。樹林の緑が眩い。これまで完全な癒し渓の風情だったが、源頭に岩壁が聳えるのが遠望できる。いずれ、あそこへ突っ込むことになるのだ。


二段8m。

 やがて傾斜のあるゴーロとなり、伏流に。右岸に枯れた小沢を見送ると、両岸に壁も見られ二段8mが現れる。水量少く貧相だが、漏斗状に流れ落ちる特徴的な滝だ。8mを巻くと、小滝が連なる。6mをこなし、階段状に続く滝を快適に登ると、一旦河原に。

8mは二手に分かれて。

15m。

 河原を過ぎると、二段10m。これを巻くと谷はルンゼ状に狭まる。ハング滝5mをまず掛け、次の8mは二手に分かれて巻く。トユ状5mは突っ張りで突破。15mは左岸のルンゼからブッシュをトラバースし頭へ抜ける、ひっきりなしに滝が続いた滝場も、ここでひと息つく。



いよいよ核心へ。

 しかしながら、前方を眺めると、両岸の壁が高く迫り、いよいよ核心部へ突入していくようだ。雪の塊を足元に見て、谷深さを知る。
 両岸迫った中にスラブ滝10mが現れる。ここは登るしか手がない。コージのリードで10m、さらに二段5mを直登するが、ホールドが細かい。前衛のスラブ滝を突破すると、いよいよ目前に源頭岩壁が迫る。草付き帯と、ハングを幾つも有した登攀困難な壁だ。黒ずんだ壁は、陰惨な印象を与える。あれほどまで輝いていた太陽は姿を消し、灰色の雲が広がっていた。


源頭岩壁。


谷はルンゼとなる。

 源頭岩壁を前に谷は、岩壁に沿うように急激に左に折れ、ルンゼとなって突き上げる。ただ、右岸側は傾斜が緩く、笹薮から尾根へと逃げられそうだ。右岸の岩場が容易なので前進できるところまで進み、いよいよという所で尾根へ逃れる…と、辺りにガスが漂い、視界を塞いだ。シトシト小雨が降る。

右岸の岩稜へ。




 これで全く安心という訳でない。右岸尾根は切れた岩稜で、いつ岩場に前進を阻まれるか分からない。しかし、笹薮の中に糞と鹿道を見出すや否や、確信を得た。
 鹿は水を得る為に稜線から谷間に下りる。鹿が通った踏み跡は道となり、ルートの導きとなる。思惑通り、鹿道は岩場を上手く交わすように、岩場を縫ってついていた。これで安泰!と思ったが、鹿道は谷側をトラバースした後、不意に消えていた。見上げると完全な壁、そして下を見ると急峻な草付きだった。鹿が壁を登ったとは思われない。果たしてカモシカなら、この草付きを駆け下れるのだろうか…?
 疑問を抱き、引き返して鹿道を追い直してみると、尾根の反対側に踏みが続いていた。こっちだったのか!!モンキークライムで攀じ登り岩稜を脱すると、姫笹が生い茂る中に登山道を発見。間もなくして、“弥勒岳”の山名プレートの架かるピークに出た。


下山にて。

 下山は奥駆道を七曜岳まで辿り、無双洞への登山道を下る。随分以前に歩いた道で懐かしい。七ツ池には未だ夥しい残雪があって、驚いたのだった。