最初の5m。

 

 

 降りたのは、出合滝12m上の河原。大岩が転がっているので、縫い進んで行くと、釜を持った5mが、

最初に出迎える。「左岸からかな?」と思い見ていると、先頭のイトーさんは釜を回り込んで、

右岸を見ているようだ。SUGYさんも私と同じように「左岸側からじゃないか?」というふうに

指を指しているが、コージが泳いで水流右手の壁を登って行った。確かに近づいてみると、そこに弱点があり

登ることができそうだ。そう言えば・・・以前、サッポロ一番さんと来た時も、同じところをザイルを出して

登ったことを思い出す。ただ、以前は滝の前は砂地になっていた。今はその砂地が押し流されて釜となり、

泳がなければ滝に取り付くことができなくなっていた。続くイトーさんはコージにお助け出してもらい、

私はザックを荷揚げしてもらって同じところを登る。SUGYさんのみ左岸側を登って来たが、滝の頭で

際どいトラバースをせねばならなかった。コージと最初来た時、左岸を登ったものの、このトラバースができずに

逡巡したことを思い出す。きっと、コージはそんな記憶などさっぱり忘れ去っていることだろう。

 

 

地獄滝40m。

 

 

 

 その上のナメを通過すると、ドドドドと重低音が谷間に木霊する。両岸には100mあろうかという壁が立ち、

右岸からカンテ状に岩が張り出した奥に40mが掛かる。この先に掛る30mが、明るく開かれた空間に

掛る直瀑であり、それとの印象の対比で“地獄滝”と名付けられている。滝の下部はハング状に抉れており、

手前のカンテ岩の奥に隠れ、闇を作っていた。

 「どっちを巻く・・?」と、イトーさんに聞くと右岸を指差す。右岸も不可能ではないが、ルンゼがあり、

この上部まで大きく巻かないと行けないだろう、とコージと話す。一方、左岸にはブッシュバンドが伸びており、

これを辿れば最短で巻けるのではないか?と提案した。しかし、この提案は間違ってはいなかったが、

イトーさんには過酷な選択となってしまった。

 

 

地獄滝の巻きにて。

 

 

 釜の手前から笹の生えた斜面を登って行くが、数メートル登ったところで傾斜がキツクなり、ザイルを出すことに。

まず、イトーさんがリードしてみるとのことでザイルを結んでもらったが、最初の這い上がりが悪く、

何度もスリップ。難しそうなので、コージにリードを交代してもらう。コージはその箇所をあっさり登ってしまったが、

ブッシュの向こうに消えてからが、ザイルがなかなか進まず、悪そうだと思った。思った以上に長い時間が経って

解除のコールが響く。

 さて、二番手でイトーさんが登り始めるが、足元悪い上に傾斜があり、ザックの重いイトーさんにはかなり厳しそう。

先ほどのように何度も滑り落ちており、しばらく見守っていたが、どうもここを登るのは無理そうと判断。

それに以前巻いたルートは、こんな厳しくなかった。戻って、別ルートに変更した方がいい。

二番手をSUGYさんに交代してもらい、引き返すようにコージに言ってもらう。ザックを置いてSUGYさんに行って

もらう。SYGYさんはすぐに登って行き、すぐに戻ってきた。コージによると、「戻ることができひん、滝の頭まで

すぐやから」ということで、冷酷にもこの厳しい高巻きルートを進むことになってしまった。

 

 

地獄滝の巻きにて2。

 

 

 

 SUGYさんがイトーさんのザックを持って登ると言ったが、不安定なトラバースではバランスを崩したりしそう

だったので、最初の腕力いるポイントを、空荷でイトーさんに登ってもらい、その箇所を越えたところでザックを

荷揚げしてもらうことにした。イトーさんのザック、何を入れているのか、誰よりも重たかった。

 イトーさんはそれでも奮闘していたが何とか登ることができ、コージのいるところまで辿り着いたようだった。

 順調に三番手のSUGYさんも登って行き、最後は私。出だしの登りは問題なかったが、ブッシュが消えた先が

岩場のトラバースとなり、なかなか悪かった。バンドを辿って行くと、滝を横に見るテラスがあり、そこに皆が待っていた。

 

 

 

地獄滝の上でお昼休み。

 

 

 

 テラスの先にはルンゼが入っており、これを登れば容易に頭に出られそうだと思ったが、もう1ピッチザイルを

延ばすことになる。最初は私がフリーでルンゼを登って行ったが、立ってきたところで、

不意に手掛かりがなくなり、「やばい。落ちそう・・」。咄嗟にハンマーを泥壁に突き刺したものの、

浅いところに岩があり刺さりが甘く、滑り降りた。これを見たコージ、「ザイルを出した方がいいやろ?」と

声を掛けた。

 コージのリードで頭に躍り出たが、ここも簡単ではなかった。皆が頭に揃った時には、すでにお昼前で、

岩棚に腰かけて、やれやれと休憩を入れる。この地獄滝の巻きで3時間近く費やすことになってしまった。 

このロスが後々の行程に大きく影響することになってしまう。

 

 

 

極楽滝30m。

 

 

 

 中ガネ谷を右岸に見送ると、“極楽滝”30mの登場。太陽を全面に浴びて、側壁は白く光り、水流はキラキラと

輝いていた。この滝の巻きルートは明瞭で右岸にある。懸垂で左側のテラスに一旦降り、容易なスラブを

登って頭に出た。ザイルを出したが、ここは皆順調にクリア。極楽滝の上は細長い淵の先に三段12mが掛かり、

左岸に渡って巻くが、こちらの方が滑っていて、嫌な感じだった。

 ここは私がリードで。滑ったスラブから左岸の斜面に一旦上がり、そこからちょっとクライムダウンして

滑ったバンドを渋いトラバースをこなす。

 20mザイルしか持ってきてないので、3ピッチ延ばすことになったが、3ピッチ目はフィックスする灌木までギリギリで、

叫んだが沢の音に消されてしまった。セルフ用のスリングを投げて何とかザイルをフィックス。ここを越えると、

河原となり奥ガネ谷と四軒小屋谷とが対面する十字峡。核心を脱した感じで、一息つく。

 

 

 

牛鬼滝。

 

 

牛鬼滝上に続く淵を小滝。

 

 

 天気は晴れているのだが、谷間には日が差さず、以外と温かくない。淵と小滝が交互に現れるが、

極力、水を避けて進む。両岸の壁が立つと、二段15mの牛鬼滝の登場。一応、滝の前まで見に行ってみるが、

かなりのシャワーを浴びることになりそうなので、引き返す。直登したかったのだろうか?私たちが右岸のテラスに

上がってからも、SUGYさんはしばらく滝の前に立っていた。

 以前来た時もそうしたのだろうが、記憶はなく、テラスから滝へトラバースできないかと見にいくが、

切れ落ちており、引き返す。ザイルを出し、正面のボロそうな岩場を登って樹林生える斜面に出た。

 コージがここはリードしたが、フォローしてみると、結構悪かった。以前、サッポロ一番さんと二人で来た時は、

私がリードしたはずなんだが、よく登ったなぁと感心。大昔、コージと来た時は、泳いでその上のゴルジュを

突破したのが、濡れるのを厭わなければ、こちらの方が容易かもしれない。

樹林帯に出たら、小沢までトラバースし、そこから沢床に復帰した。

 

 

 

モジケ小屋。

 

 

 

 牛鬼滝のゴルジュを抜けると、小滝がちらほら現れ、何気に通過。両岸には植林は目に付くようになる。

やがて、河原となり、右岸台地上に立派な小屋を見る。これがモジケ小屋で、トイレや洗い場など整備されていた。

間伐材が谷間を塞いでおり、これを見たコージが、「木の墓場やな」と言う。15時はすで回り、テン場を

物色しながら進んで行く。

 

 

二段6m。

 

 

ヒジキ滝右側。

 

 

 

 二段6mも泳げば登れそうだが無論、ここも巻く。コージとイトーさんは滝に寄って行ったが、スリング出したりしていたので、

私はもうちょっと大きく巻いた。それにしても、牛鬼滝もそうだったが、フィックスロープが見苦しい。

こんなものを谷に残して欲しくないものだ。

 ヒジキ滝とは帰宅後トポ見て知ったが、釜の先に右側はトユ状滝、左側はスラブ滝を掛けるという

変則的二条10mが現れる。取り付きが微妙だが、左側をこなすと、河原となる。まだ時間的には進めたが、

そこにちょうど良いスペースを見付けたので、テン場とすることにした。ちょうど、16時だった。

 タープとツェルトを用意していたが、皆で寝れる広さが十分あったので、タープで雑魚寝することにした。

まずは、整地からで、ハンマーを使って岩を退かし、地面の凹凸を均す。夜の快適さは、整地に手を抜かないことだ。

それからメインロープを張る作業。一方は立木を利用できたが、沢側はないので倒木を支柱とした。

それから四隅を、タープの弛みなく固定すること。これらをレクチャーしながら、四人共同で

設営したら、あっという間だった。タープが張れたら、私は真っ先にビールを沢に冷やしに行き、

コージは米を洗いに行った。

 

 

中ノ川の素晴らしいテン場。

タープも完璧。

 

 

 

 それからようやく焚火。焚火の成否は準備にすべて掛かっている。まずは薪集め。

四人手分けして行うが、意外と辺りに流木は少ない。私はいつものごとく、両手以外にも、

ザックの中にも薪を詰めこんで運ぶ。その為にだか、知らずに柳又谷のダケカンバを持ち帰ってしまい、

自宅玄関先に今でも置いてある。

明日の朝の分までの薪を集めることができたら、いよいよ火熾しに入る。昨日の雨で、湿ったものしか周囲にはなかった。

こういう時は小木を沢山集めて、焦らず火力が安定するまで並べる木のサイズを次第に大きくして

いかねばならないのだが、SUGYさんはいきない大木をくべたりしていた。焚火にセッカチは禁物だ。

 焚火がやっと安定したら、それぞれ酒を持ち寄って乾杯~~!

私は、今回、チャプチェやビビンバ等お酒がすすむ韓流メニューを用意した。イトーさんは焼酎ロック、

SUGYさんは酒を断ったので、スポーツドリンクのようなものを飲んでいた。見上げれば満点の空・・・とは

曇っているようなのでいかなかったが、焚火を囲んでのこのひと時が、やっぱり堪らない。

酒を片手に、尽きない夢を語り合った。