鬼の棲家へ。

 

 

 このように敗退を喫した往古川・鬼丸谷。日を改めて、再度チャレンジすることになった。

今度は、時間的なゆとりを持つため予備日を設けることにした。

 久瀬谷出合の駐車地も6時スタートと、前回と1時間早い。出合に立つと、前回下山時に見付けた

仕事道を利用し、時短とする。小屋跡の台地まで、右岸に仕事道が通じていた。

30分足らずで鋭鋒を見上げるポイントに到着。そこで、地形図を取り出して、再度、ルートを検討する。

 前回は左岸を高巻いたのだが、地形図にも見える岩壁に行く手を遮られてしまった。

帰宅し地形図を眺めて、次回は、右岸から高巻いてみようとコージと話し合った。右岸には鋭鋒が分ける

ルンゼが入っており、そこからルートが拓けるのではないか?それがだめなら、再度、左岸にトライしよう

というのが二人の結論だった。

 

 

今度は右岸ルンぜから。

 

 

岩場を微妙なトラバースでこなす。

 

壁の基部を進む。

 

 

 右岸ルンぜは急傾斜で這い上がっており、出合の涸れ滝は左岸の斜面を巻いてルンぜに入谷する。

ルンぜはガレが堆積していて、落石要注意だ。断続的に涸れ滝が現れ、その場の状況に応じて

直登したり巻いたりする。CSが前方に見えた時、とうとう行き止まりかと思ったが、近づいてみるとフリーで

登れるものだった。結局、ザイルは出すことなく、鋭鋒の続きにあると思われる左岸の尾根に乗ることができた。

しかし、両岸は切れ落ち、壁に阻まれ尾根を前進できなくなれば、万事休すだった。

 ルンぜの左岸、鬼丸谷本谷右岸に当たるこの尾根は、見たところ、痩せ尾根であるが、尾根上は悪場なく、

稜線までたどり着けそうだった。谷への下降ポイントを探りながらこの尾根を登って行くと、本谷へと下って行く、

獣道を見付けた。鹿は水を得る為に、谷へと下る道を作る。見たところ困難そうに見えるのだが、獣道を

追っていくと、思惑通り、壁を避け上手い具合に谷に下るルートがあった。

そう、その地に棲む獣たちに、聞けばいいのだ。

 

 

降り立ったゴルジュ内の先には、

CSが連続する。

 

その下の6m。

 

右又に掛かる5m。

 

 

足止めを食らった巨大CSの頭から。

 

 

 

 降り立った谷もゴルジュ内で、先には両岸壁が迫ったところにCSを相次いで掛けていた。

この突破は戻ってからにして、まずは谷を下り、前回足止めを食らった巨大CSを確かめねば

ならない。すぐ下には滝が掛かり下って行くのは難しいので、引き返して右岸を巻く。両岸は

高い壁だが、谷間はゴーロなので用意に下って行くことができる。巨木が岩に埋もれるのを見て、

下って行くと左岸から谷が入る。ここが540m付近の二又だろう。右又出合には5mが掛かっていた。

 更に下流は、巨岩帯となり、クライムダウンが困難となったが、右岸側は巨岩と側壁との間がザレ場

となっていて、そこから下ることができた。巨岩の上に立つと、その先で切れ落ちて、急激に高度を

下げているのが分かった。両岸は100mはあろうかという、オーバーハングした壁。

そう、ここが、前回敗退を喫することになった巨大CSの頭だった。

 

 

源流小滝。

 

 

源流最奥の滝8m。

 

 

コルに詰め上がる。


 

 

 もと来たルートで引き返し、連続CSの前に立つ。さて、この突破は・・・直登あるのみで、

フリーで登って越えた。そこでゴルジュを脱し、両岸には樹林の生える斜面が降りてきていた。

鹿の仲間を呼ぶ声が森に響く。

 谷は源流という様相で、可愛らしい小滝やナメを掛ける。8mを越えると、水切れとなり、

谷はザレて荒れてきた。源頭は浸食が進んでいるようで、雨の度に崩れて行っているようだった。

 詰め出た稜線は、計画通り、922mの西のコルで、そこからひと登りでピークに立つ。

そこから、崩壊した八町滝を樹林越しに眺めることができた。八町滝は、滝の上部から深層崩壊しており、

滝自身の姿も全く変えてしまっていた。

あの大滝が、こんなに変貌してしまう自然の力とは・・・・。息を思わず呑んでしまった。

 

 

巨木が多い。

 

 

 

寺谷左岸尾根を下る。

 

 

海山の町を見下ろして。

 

 

 

 922mピークからは、寺谷左岸の尾根を寺谷出合へと下る。この尾根は、以前歩いたことがあった。

この下山ルートのポイントは922mから左岸尾根に乗るまで。乗ってしまえば、境界杭あり、

それが行先を示してくれる。350m辺りは平となっており、巨木が佇む。、かつて、そこに寺があったと言う。

“寺谷”の謂われでもある。

 

 帰宅後、改めて『台高山脈の谷』を見ていて、鬼丸谷の記録があることに気付いた。なんと、

川崎実氏による記録!なんで、今まで忘失していたのだろうか・・・?川崎さんは、私たちが敗退を

喫したあの巨大CSをアクロバティックなムーブで突破していた。

 鬼の棲む谷──川崎さんは、あの先を覗いた、数少ない一人だった。

 

 

922mから八町滝を望む。