6月に確保していた連休。二日ともいい方向に天気予報が変わったので、

梅雨入り前に泊まりの谷を計画。尾鷲道を歩いた時に、「あそこで焚火ができたらなぁ~」と

思っていた東ノ川・白崩谷へ。

 

 白崩谷は、東ノ川へのアプローチで知られる。が、過去二度の東ノ川溯行では、

それを採らずに入谷しており、今まで白崩谷には行ったことがなかった。

降った人たちの話では、ゴルジュがあって、なかなか手古摺るという。『台高山脈の谷』を見ても、

左又に入ると、釜を持った滝を連ね、アプローチには勿体ない内容だと思っていた。

 

 前日からの雨雲が紀伊半島山中には残っており、吉野川べりを走るようになると、

車のワイパーを動かさねばならなかった。「伯母谷峠を越えればきっと、この天気も

変ってくれる!」と思った通り、トンネル抜けると雨は止んだ。通行止めなので、

ザンギリ林道から坂本ダムへ。ダムの湖面を見下ろす頃には、雲の間から青空が

拡がっていた。

 

 

木組谷手前に駐車し、出発!

 

 

 

 

 最近入ってないのでどうかなと思ったが、425号から分かれて、東ノ川沿いの林道に入っても

路面状況は良く、軽自動車でも予定の木組谷手前まで入ることができた。紀伊半島大水害以来、

その先は決壊してしまっていた。

 

 木組谷の大ガレを渡って更に林道を終点まで歩く。木端だけになってしまった薬師堂を見送った先で、

東ノ川に入谷した。

 白崩谷出合までは、渡渉を繰り返しながら、河原歩きが続く。すっかり、青空が広がり、気分も上々!

青い淵に、両岸にはキラキラ光る新緑・・・見上げれば竜口尾根の岩峰が、厳つく聳え立つ。

ちょっとした淵を巻き越えると、そこが白崩谷出合だった。

 

 

白崩谷最初の廊下。

 

 

 白崩谷は大きな谷だが、入るとさっそく廊下をなし、鬱蒼と暗い。ガレ谷とばかり思っていたが、

淵と滝を連ねている。暑ければ泳いで突破と行きたいが、へつって滝を越えて行く。出合の

廊下を抜けると、谷は突然、開ける。堆積した岩がインゼルをなし、流れを二分していた。

 

 

やがて、右岸に岩壁を見上げる。

 

 

 谷が大きく左に曲がって行くと、右岸に岩壁を見上げる。白崩谷(しらくえだに)の謂れとなる、

大嵓の序章だ。右岸に聳えるその大嵓は、白くて脆いらしいが、谷から見上げた限り、

黒い岩壁だ。その大嵓を源頭にした枝沢が入り、見渡す限り巨岩で谷が埋め尽くされている。

白崩谷自体も、ゴーロから巨岩で形成されるようになる。水流もいつしか見られなくなった。

 

 

家ほどの大岩も。

 

 

 

 時には荷揚げし、ボルダリングの連続でなかなか消耗する登高だ。ゴルジュがなくても、

この谷の下降は難渋することだろう。幸いなことには、雲が広がり、日差しがなくなった。

午後には晴れ間が広がるとのことだったが・・・。巻けるところは、極力巻いて

なるべく巨岩の登高を回避するように進んで行くと、やがて左岸から大きな谷が入る。これが右又だ。

 

 

左又入って。

 

 

 

 

 左の本谷を採って進むと、谷は急勾配となって這い上がる。と、同時に水流が姿を見せる。

喜んでシャワクラしてみたが、濡れると存外冷たい。谷間は累々と岩が積み重なっており、

行く手を何度も塞がれ、その度に右岸、左岸へ逃れる。

 

 谷の勾配が落ち、ようやく河原となった感になり、ひと息・・・すると、雨がしとしと降ってくる。

と、思いきや、突然、左手の岩壁から流れ落ちる滝が現れる。雨と思ったのは、その滝

からの飛沫だった。20mのCS滝で、両岸壁が立って、なかなかの悪相。

そう、ここからが、ゴルジュの始まりなのだ!

 

 

ゴルジュ入口の滝。

 

 

 左岸のルンゼを登って、CSを高巻く。滝の頭くらいまで登ったところで、踏み跡あるバンドを

見付けてトラバースして行くと、途中で「ザイルを出して!」と、コージが言うので、「そこで待っといて」と、

言い残して先を見に行く。滝側へバンドを辿って行くと、不意に切れ落ちていた。

 

 そお~と顏を出して、先を覗いてみると、10mくらいのトユ状が掛かっているのが見える。

直登はできなさそうだ。両岸は谷に降りて見ないと分からないが、どうせ同じ所まで上がって

高巻くことになりそう・・・ということが分かったので、引き返して、コージにこのまま高巻こうと話す。

バンドから小尾根をモンキーで上昇し、バンドから眺めた10mを越え、その上に掛かる20mくらいの滝の

頭に降りた。高巻きながら、樹林越しにしか見られなかったが、20mの姿が気になる。

もしかしたら、懸垂しか滝の前に立てないのかもしれないと思うと、秘瀑中の秘瀑だ。先を急いでしまったことに、

後悔。

 

CS上のトユ状10m。

 

 

 20mの上は両岸の壁はなくなり、河原となる。ここから泳いでどんどん滝を登る予定でいたが、

どんよりと雲っている。河原を歩くと、さっそく釜を持った小滝が出迎えてくれるが、暗~いし、

寒~いし、濡れる気になれない・・・。次から次へと釜を持った滝が歓迎してくれたが、どんどん巻いて行った。

 

 

 

さっそく釜を持った小滝が歓迎するが。

 

 

 

 天気予報では30度近くまで気温が上がるはずなんだが、前線の南下が十分でなかったのか?

台高山脈の南東斜面には、湿った空気が予想以上に流れ込んでいるようだ。

 ちょっとした廊下となり、淵が伸びる。右に曲がった先にどうも滝を掛けているようだが、

泳いで行かなければ見ることができない・・・・ということで、またまた巻くことになった。

 

 

廊下の滝。

 

 

 左岸から枝沢が入った先で、今度は二条10mが深い釜に流れを落している。

これは登れないタイプで左岸を巻く。雨が降っていたのか、積もっている落葉がどれも

濡れている。これでは、テン場での焚火も怪しい・・・と思うと、テンションが下がってきた。

それ以前に、テン場に快適な台地や、砂地をなかなか見付けることができない。滝場を抜けても、

地味にゴーロでいい場所がない。コージが「お腹が空いた、お腹が空いた」と

五月蠅い。やはり予定の1350m二又まで足を伸ばさないとテンバはないようだ。

16時も過ぎたところで諦めて休憩を入れ、とっておいた最後のパンを齧ることにした。

 

 

大釜の10m。

 

 

 多段となった滝を直登すると、前方大きな滝が掛かるのを見る。二条かと思いきや、

右手の流れは枝沢に掛かるもので、出合で合わさった流れとなっていた。

本谷に掛かるのは15mほどだろうか?ザイル出せば登れそうだが、時間が迫っていたので、

巻くことにした。左岸の枝沢を登って行くと、更に上部に同じくらいの滝が掛かっているのが

見える。これも一気に巻いてしまおうということで、トラバースし、枝沢を更に横断して尾根に上った。

 

 

多段の滝。

 

 

源流大滝。

右側は枝沢に掛かるもの。

 

 

高巻き中から上段を眺める。

 

 

 

 時間に追われて滝身に迫った丁寧な高巻きができなかったのは、後悔。

大滝上は、ようやく河原となり、そろそろ良さげな場所がありそう・・・かと思ういきや、

河原は岩がゴロゴロしているし、かと言って両岸には台地が見当たらない。

二又になったところで、右の谷に入ってみると、ようやくタープが張れそうな台地を

見付けた。斜面になっているが、17時回っているので、贅沢はもう言えない。

 

 

 辺りの薪はどれも湿気ているので、もういいと言ったが、コージが「やってみる!」と言って

薪を集め始めた。私は濡れたウェアーが寒いので、ツェルトに入って着替えるていると、

モクモクと煙が上がる。「どうせすぐに鎮火やろ?」と思っていたが、みるみる火は盛んとなり、

何を入れでももう消えない位の焚火になった。コージの焚火の腕も上がったものだ。

コージのお蔭で、待望の焚火を囲むことができた。

 

 

焚火!

 

 

 

 しかしながら、ツェルトに戻ると、そこは斜面で、寝ているとずり落ちて、何度も何度も、

その晩、目を覚ますことになった。「少々デコボコしていも、テンバはフラットの方が快適だ!」と、教訓。

 

 

 翌朝も焚火を囲んで朝食を食べる。小鳥の囀りが耳に優しい。テンバからはほんの僅かな登りで、

尾鷲道に出ることができた。

 稜線に立つと、ボヤっているが、太平洋を望むことができた。「この風景が大好きだ」と、いつ来ても

思う。

 

 雷峠(場所には色んな説がある)から、1402mピークのある派生尾根を下って東ノ川へ。

 

 

 

坂本ダムを見下ろして。

 

 

 ブナの茂る気持ち良い尾根だったが、降って行くと、あのよく滑るテカテカした落葉が斜面を

覆うようになる。乾いたフェルトは、摩擦係数ゼロ!氷のようによく滑り、木組谷の河原に

降り着くまで、二人は一体、何度、尻餅ちついただろうか?そのお蔭かどうか、三時間足らずで、

林道に降りることができた。