ぼちぼち焚火山行がしたいと思い、一泊二日で大和谷川上谷を計画。

川上谷は大和谷でも最深部にあり、アプローチ・下山とも道程は長く、

更に現在は林道も荒れて、敷居が更に高くなってしまった。

 

・・・そう、だからこそ、私たちの求める世界が待っている。

 

 

大和谷橋からスタート!

 

 

 

 自宅を3時前に出発し、三重・宮川へ。宮川ダムから大和谷林道に入るが、

大和谷橋で通行止め。まだ、林道工事は終わってないようだ。仕方がないので、

終点までプラス1時間の林道歩き。林道を歩いていると、リスが太い尻尾を揺ら

しながら駆け抜け、カモシカが斜面からぬっと顔を出し、私たちをじっと見詰める。

 

 もはや基礎しか残っていないが、林道終点にはかつて木原造林事務所の廃屋

があった。すぐには谷に入らず、いつものように巡視路を辿る。大雨の度にこの

巡視路は損傷を受けているが、前回訪れた時比べて更に梯子がひしゃげたり、

落ちた りしていた。六丁峠への登りに入る前に入谷。

 

 

 

巡視路をしばらく辿り入谷。

 

 

 大和谷は荘厳さの漂う谷だ。両岸の壁は堅牢な廊下をなし、濃い樹林は谷間に深い影を落とす。

谷間には巨岩が多く、合間には長い淵。渇水期なら簡単な河原歩きで地池谷出合に

辿り着けるが、春先雨が多かったせいか、胸までの渡渉を繰り返す。

何とか渡渉で済めば良いが・・・・と思っていたが、とうとう泳ぎを

余儀なくさせる淵の登場。今回は泳ぎを全く想定してなかったので、防水はしていない。

「・・・どうしよか?」と思いながら見ると右岸にルンゼを見付ける。

ボロボロの岩壁に取り付いて、何とか巻くことができた。水量によって、谷の表情は変る。

キャンプのノリで今回は豪勢な食材やお酒、中華鍋をボッカしてきたので、大岩の乗り越しの

度に荷揚げしなければならず、意外と時間を食ってしまった。

「これだったら、六丁峠まで登った方が早かったかも?」と、コージと話す。

 

 

取水堰堤。

 

 

 地池谷出合の先で、再び巡視路に上がると、まるで高速道路に乗ったようだ。あっという間に、取水堰堤へ。

焼山谷、ロクロ谷出合を左岸に見送る。林道終点にベース張って、この二本の谷を訪れた

若かりしあの日が、懐かしい。下山中に日が暮れてビバークしたっけ。

ロクロ谷出合から再び谷中を進む。

 

 

再び谷中を。

 

 

 すぐに右岸から二段の滝を掛けるケヤキ谷が入る。取水堰堤を越えると初めは大岩が

ゴロゴロしていたが、やがて河原となる。今まで深い影に圧せられていた谷間だったが、水面や岩肌、

そして新緑にキラキラと光が溢れている。石垣が右岸、左岸と移りながらもずっと見られていて、

道が通じていたようだ。谷中を進むのが面倒な時は、その道に上がってみたりしたが、ヌケていて、

結局、谷に戻らせることになった。左岸に20mの斜滝が掛かるの(布引谷)を見上げると、大淵の先に、

典型的な“く”の字滝が掛かる。思わず跳び込みたいところだが、防水してないので、

指を咥えて右岸をへつる。

 

 

大淵の先に“く”の字滝。

 

 

 くの字滝を越えると、緑のアーケードが突如遮断されて、両岸から暗い壁が立つ廊下となる。

その暗がりの最奥には、暗黒を断ち割って入る閃光が・・・と思えば、それが巴滝だった。

・・・約20mほどの斜滝。両岸の壁は高く、ここに置かれた者は、絶望の淵に立たされたように

感じるだろう。それは、抒情詩から悲劇への変転だ。

 

 

巴滝。

 

 

 しかしながら、突破口はごく近くにあるもので、右岸の壁に亀裂が入っている。

以前、キャラ沢(ヤジ平谷)に行った時はそこでザイルを出したが、今は過保護までのフィックスが張られていた。

いつもは意地でも使わないのだが、今回は荷重を言い訳にして、臆面もなくそれを掴んで登った。

 

 巴滝を越えると、一旦、河原となるが、大和谷のクライマックスはこれから。

銚子谷を左岸に見送ると、前方上空から流れ落ちる水煙が眺められる。約40mほど。

途中で女性的なくびれを見せながら流れ落ちるその佇まいは、ギリシャ神話の女神を

思い起こすようだ。そうして、その右側には、両岸がドーム状の壁に囲まれた暗がりの中へ、

放物線を描いて流れ落ちる滝が掛かる。一見、それほどに見えないが、

近づいて滝下に立ってみると、同じく40mほどの滝。豪快な流れを持つその滝が雄滝と言われるのも、

納得させられる。滝下の暗がりには、はっとさせらせれるような冷気が漂っていた。

 

 

雌滝。

 

 

 

雄滝。

 

 

 ここで二又になっていて、雌滝は杉沢に掛かり、雄滝は川上谷に掛かる。目的の川上谷へは

左岸を巻くことになるが、キャラ沢行った時の記憶ではそんなに悪いとは思ってなかった。

左岸は嵓が発達していて、沢慣れてなければ尾根まで追い上げられることになるだろうが、

それも安易な道ではないだろう。ルンゼを登り、獣の気配を嗅ぎとることができれば、弱点を見出すことができる。

 

 

 

雄滝の巻きにて。

 

 

 雄滝の上は、一変して、河原が続く抒情詩的風景となる。両岸にはなだらかな斜面が降りてきて、

巨木が佇む。足を進めると、ナメの先には魚影が走る。あちこちで、鳥の囀りが。

ふと、コージが沢傍の岩壁に鳥の巣を見付けた。覗くと、親鳥だろうか、

黒い小鳥が飛び去って行った。巣の中には、黄色い嘴が二つ覗いていて、じっと動かずにいた。

 

 キャラ沢出合付近はゴルジュという程でもない。淵と小滝が歓待してくれる。

キャラ沢に掛かる、深い釜に簾状に流れ落ちる滝の佇まいが静謐で、息を飲むほど美しかった。

 

 やがて、二又となると、両岸に台地を散見するようになる。それら台地には、

幾重にも別れた幹の木や、タコのように幾足にも根っこを伸ばす木が時折見られる。

これが自然本来の営為・・・。かと思えば、すぐ脇には石積みが見られて、日本人と自然との

在り方を伺うことができるようだった。

 

 

キャラ沢出合。

 

 

川上谷源流風景。

 

 

 右岸から枝沢は入った先で、いい塩梅の台地を見付けたので、そこでテントを張ることにした。

ビールを沢に冷やし、米を洗ってから薪集め。流木が沢山あるので、そう時間の掛からない内に

焚火が熾った。熾ったところで、まず、ビールで乾杯!今回は百均で買った中華鍋をボッカしてきており、

それで豚肉とピーマンの炒めものと、ビビンバ丼を作った。お酒と豪華な料理とこの美しい源流風景と・・・

幸せとはこのことだと思った。

 

 

今回のテン場。

 

 

今晩のメインはビビンバ丼。

 

 

 

 翌朝は4時起床。私はグズグズしていたが、コージは時間になるとさっさとテントから出て行って、

焚火を熾しに行った。断続的に目が覚めて、よく眠れなかったとコージは言う。そう言えば、

私も明方は何度も目が覚めたけど、気にならなかったな。温かく、快適な夜だった。

 定番のカレーライスを食べ、5時半過ぎに焚火を消してテン場を出発。

 

 

翌朝出発して。

 

 

 もう何も出て来そうにない穏やかな源流風景がしばらく続くが、次第に両岸に壁が立ってくる。

左岸から枝沢が入ったところで、前方に大きな滝が掛かるのが目に入る。

「おお、まだあったか~!」と、思わす歓びの声。左岸の壁は大きく抉れ、岩小屋となっている。

右岸から巻くが、立っていて、なかなか降りることができず、トラバースを余儀なくされる。

20m上は連滝となっていたが、沢山の滝を見送ったところでようやく谷中に復帰した。

 

 

20m。

 

 

 復帰すると、両岸の壁はすっかり消え、再び穏やかな源流風景になる。不意に「石垣や~」と、

コージが叫ぶ。見ると確かに右岸、左岸」と移りながら続いている。仕事道なんだろうが、

それにしても立派な石垣だ。最後の二又に辿り着くと、その石垣もいつの間にか消え去ってしまっていた。

 

 

川上谷源流。

 

 本谷と思しき左又を採って進む。水の流れももはや滴り程度。ナメ滝が出てきたところで、

水を汲んで長い下山に備えることにする。そこから僅かで水切れとなり、左岸の尾根に上る。

この尾根をヤジ平尾と言うんだろう、細い灌木が生い茂った藪となっていた。

その灌木を掴んで掴んでの、しんどい登りでようやく弥次平峰の三角点に立つ。

どかっと座り込んで、ぐびぐびと水を飲んだ。

 

 

 

詰めはヤジ平尾へ。

 

 

 さて、ここから池木屋山まで台高山脈の縦走路を辿る。コースタイムで約2時間の行程だが、

アップダウンが幾度もあって消耗する。ようやく池木屋山山頂に立った時、下山の核心は終わったと、

思ったが、しかし、実はまだ先に核心は待ち受けていた。

 

 通常は池木屋山から東尾根を辿り、焼山ノ尾か、1332mから派生するモノレール尾根を

下るのが下山ルートだが、あまり快適ではなかった記憶があるので、

今回は三滝谷左岸の尾根から巡視路を使って下山しようと考えていた。

三滝谷やアゲノ谷溯行時にこのルートを使ったことがあり、歩き易かった記憶があった。

 

 

台高縦走路を行く。

 

 

 しかしながら、まず、東尾根から三滝谷の左岸尾根に至るまでの道程が意外と長く、

しかもアップダウンが小刻みにあった。野江股ノ頭方面への稜線を北に分けるまで、

ほどんど標高を下げることなくアップダウンを繰り返す。登山道と別れと告げ、更に東へ尾根を辿り、

1245mピークへ。ここから次第に尾根筋は南向きとなり地形図には記載ないが1230mピークから、

今度は東へ尾根を辿る。この辺りはヒメシャラの幼木の森となっており、伐採されたのだろう。

 

 

今も変わらぬ荒れ果てた焼山谷源頭。

 

 

 1173mピークから南へ下ると1140mくらいで急に切れ落ちる。そこで、東に派生する尾根を目掛けて、

方向転換。その尾根を下り、1000m切った地点から巡視路に乗るまでがルーファイの核心となる。

800m付近に大滝の頭があり、それを高巻く巡視路がある。今回は、一つ上流の尾根を下ってしまい、

そこまでトラバースすることになった。池木屋山からすでに4時間掛かっており、

急だが焼山ノ尾やモノレール尾根を下った方が早かった。

 

 

ようやく巡視路に乗るも・・・・。

 

 

 

 巡視路に乗ればお気楽かと思いきや、よくあるパターンでヌケていたり、

沢の横断で道型が何度も不明瞭となる。これはまぁ、想定内だが、光沢のある落ち葉が堆積していて、

よく滑ること!スリップすれば、谷底までまっしぐらなんで、モノレール尾根と下り難さは、

変わりない。数年前歩いた時は、こんな葉っぱ落ちていなかったと思うのだが、

植生が変わってしまったのか・・・?。

 

 林道に降りると、周囲の山々にガスが掛かっている。歩いていると、やがてポツポツと降り出してきた。

 

 

 

大和谷橋から。