川崎実氏による遺作『秘瀑』。そこに収録されている滝たちを訪ねてのシリーズ。

今回は、弥五兵衛谷左又の源流にあるという大滝を探しに行った。

 

 弥五兵衛谷は、大杉谷中枢に位置する不動谷、その左岸に入る支谷であり、

アプローチが至極不便で、足を運ぶ沢屋は、ほどんどいない。とある集会で、

川崎さんが来られており、何故かこの谷の話になり、「アプローチが面倒ですねえ」と

話すと、「右又は平凡で下降できるよ」というような話をして下さった憶えがあった。

思えば、この時すでに左又大滝の撮影を終えて、その話を私にして下さったのかもしれない。

わらじに関しては、『溯行』21号に和田さんによる記録がある。

 

 

筏場道を辿る。

 

 

 5月30日(木)、コージと休みを合せ、大台ケ原に向かう。2時に起床し自宅を出発、

川上辻駐車し、5時半に歩き始めた。ひんやりとした空気の中、筏場道を大台辻まで辿る。

すでに日は昇り、朝日に照らされた原始林が神々しい。大台ケ原の森は、他の大台の森

とは違い、巨木が多く、複雑で、多層的な植生を見せている。

大台辻からは台高主稜を添谷山まで縦走し、そこから東に派生する尾根を下って林道に出る。

狸峠という場所らしい。林道歩くよりこちらの方が近いらしいが、小さなアップダウンがあり、

消耗する。帰りは林道を歩こうと、コージと話す。

 

 

 林道に出ると、すぐに向かいの尾根に取り付いて、1355m三角点へと続く尾根を

進む。計画では、尾根が南東へ向きを変えるジャンクションピークまで進み、そこから

右又を下ることになっている。途中、休憩を入れたポイントでコージと言い合ったが、

「いや、尾根向きが違う」ということで更に進むこことに。少し進むと、開けたポイントがあり、

そこで尾根が南東に向きが変わっているので、ここが右又源頭なのだろうと目星を付けた。

しかし、地形図と照らし合わせて見ると、風景が合わない。「おかしいな」と思ったが、

コージと同定しあった結果、「やはり、ここだろう」ということになり、下降することにした。

・・・しかし、結果を言うと、この同定は間違いだった。

 

 尾根から谷筋に降り着くと、まずは倒木目立つ、平凡なゴーロ。落石に気を付けながら、

どんどん下って行くと、やがてナメが続く。右又はゴーロばかりと聞いていたのだが、??。

この時点に間違いに気付き始めたが、もう戻るのが面倒なので、そのままこの谷を

降ることにした。想定外のナメが続いて、愉しく下って行くと、不意に前方がスパッと

切れ落ちている。「やっぱり~」。切れ落ちた所に立ってみると、やはり滝の頭のようで、

沢床はそこから見下ろすことができなかった。

 

 

大滝の頭にて。

 

 

 

 この時点で、十中八九、左又を間違って下っていることに違いなかったが、「いや、右又に

未確認の大滝が枝沢にあるのかもしれない」とも思い、左岸から巻き下る。ブッシュ頼りに下って行き、

途中でルンゼに出て、沢に復帰するとナメ滝の途中に出た。樹林で見えなかったが、このナメは、

先程立った大滝まで続いているようだ。下流に更にナメは続いていて、降り立った所の少し先で、

新たな切れ落ちを見せていた。恐々ナメをトラバースし、右岸側に移って巻き下る。鹿道があり、

それを辿って行くと、容易に谷に戻ることができた。谷に降り立つと、目の前には30mの滝。

それが斜滝~ナメとなって、更に下流へと展開していた。

 

弥五兵衛谷左又大滝1。

 

 

弥五兵衛谷左又大滝2。

 

 

 水量は少ないが、優に100mを超える大滝。もうこれが、左又大滝なの間違いない。溯行していれば、

スラブ・クライミングを楽しめたのだろうが、下降してしまったのだがら、仕方がない。そこで休憩入れて、

お弁当を開けた。

 

 大滝下にはCS10mがあり、巻き下るとしばらくして、二又に出た。二又には、小屋跡があって、トタンや

瓶の破片が台地に落ちていた。右又に入り溯行するが、右又には何もないらしいので、途中で林道に

エスケープすることにする。ゴーロばかりの谷だが、周囲の森がしっとりしていて、雰囲気が良い。

大台最深部・奥大台と呼びたい辺境の地。

 

 

CS10m。

 

 右又をしばらく溯行していくと、左岸から滝を掛けた枝沢が入るので、これを登って林道に出ることにした。

10mの滝を左岸から巻いて越すと、この枝沢の水は涸れてしまい、ルンゼとなって続いていた。

左岸の山腹に逃れて、単なるボッカにしか過ぎなかったギアを恨みながら尾根に登り出ると、

不意に展望が開け、宮川界隈の尾根尾根の彼方に太平洋が望めた。

岩井谷や真砂谷の詰めから見た風景もそうだが、大台ケ原から眺めた太平洋は、

思慕と言うのか、憧憬というのか、独特の感情を掻き立てる。そう、この旅は魂の流離、

永遠の浪漫なのだ。

 

 

二又にて。

 

 

 尾根を下ると、すぐに林道に降り着いた。林道からは昨年、一人で溯行した不動谷を見下ろすことができた。

「ああ。あれもいい旅だったなぁ~」と振り返る。林道はところどころ崩壊で埋もれたり、

抜け落ちたりしていたが、さしたる困難なく狸峠まで辿ることができた。狸峠からは西谷源流を巻き

進むが、感じの良い台地が散見できて、今度、泊りで遊びに来ようと、コージと話した。

 

 アップダウンはほとんどなかったが大台辻までは、やはり台高主稜を歩いた方が早かったようだ。

大台辻からは、行きと同じく筏場道を辿って、川上辻へと戻った。