粟谷ゴルジュ。それは4年前、飄逸のかまちゃんに一緒に行こうと誘われていたのだが、行き違いがあって私たちはキャンセルした。かまちゃんに誘われるまで、粟谷小屋の存在を知っていても、そういう谷のあることなど知りもしなかったが、かまちゃんのHPの記録を見て、「何か凄い谷なんだ」と、その時思った。

 後で、わらじの古い記録を調べてみたのだけど、粟谷は粟滝を初め多くの滝を擁したゴルジュがあって溯行価値が非常に高い谷だということを初めて知った。一緒に行ったゴミキ谷もそうだけど、かまちゃんは古い記録なども丹念に勉強していて、ネット上には記録が載っていない谷を拾い上げて行っていて、なかなか感心な沢屋だと思った。
 
 そういうことがあって以来、私の心の中にどこか粟谷ゴルジュの存在が引っ掛かっていて、「いつか行かなければ」と思っていた。海の日の三連休、私たちは仕事が入ってしまい、近場でどこか刺激的な沢ということで、粟谷に行ってみようということになった。

 前夜は、早く出発しようということで、大台ドライブウェイの料金所跡で仮眠を取る。しかし、3時起きのだったはずが、5時まで寝過ごしてしまう。「しまった」と思うが、慌てても仕方がない。取り合えず、いける所まで行ってみて、後はエスケープしようということで駐車場に向かった。

 駐車場で準備をしていると、私たちの前で停まる車がある。「見たことある人やなー」と思ったら、Nさんだ。お会いしたのは何年ぶりだろうか?「西谷に行く」とのことで、アプローチでまた会うことになる。

 堂倉の枝谷を踏破した数年前、七ツ釜滝を登攀した一昨年、堂倉へのこの登山道を幾度となく歩いてきたが、やはり長く感じる。二時間半ほどで堂倉谷出合に降り立つ。そこから西谷を少し入って、右岸から入る谷が粟谷。出合から巨岩が累々と重なっていて、重厚な森の雰囲気とマッチしていて、なかなか良さげである。巨岩の合間を縫いあがって行くと、突然、大きな滝が現れた。粟滝である。

 ナメ状になった下部を登って、左岸のテラスで登攀の準備を始める。粟滝は右岸はハングした壁が立っていて絶望的で、左岸が弱点となっている。私がリードで左岸のスラブを登り始める。一見、傾斜が緩くて登り易そうだったが、登って行くと次第に傾斜が出てきて、ホールドもなくなって来る。「あそこはテラスで休めるかな」と思っていた場所も、実は外傾していて、全く居れない場所だと分かる。
 そこで一旦、草付き帯に入って、じわじわ高度を上げていくが、しかし、ランナウトした所でとうとうハングにブツかってしまう。「何とかならないかなぁ?」と思いながら、草を掻き分けてリスを探していたところに偶然、残置を見付けて、アブミで難所を摺りぬける。先人も同じことを考えていたんだな、と思わず嬉しくなった。しかし、その残置、しっかりテストしたはずなんだが、フォローのコージが回収しようとしたら、すぐに抜けてしまったらしい。

 その上は安定したテラスになっていたが、滝の頭までザイルが足りそうなので、ピッチを切らずにそのままリードを続けた。一箇所被ったところがあったが、トラバースで誤魔化し、左岸のコーナーに入って、後は快適なフリークライミングで頭に出た。

 粟滝の上には大きな釜の先に右手に船底のような岩を配したスラブ滝が掛かっている。左岸に釜を渡渉して船底のそうな岩を登っていくと、門のような側壁が立ってきてゴルジュとなった先に二条の滝が掛かっている、ここは左岸の岩場は容易そうなんで登って行くと、トユ状となった滝が流れていて、突っ張りで突破した。
 
 釜の先には腰を折った二段の滝が掛かっていて、ここは右岸の岩場にクラックがあったので、そこを人工で超えたが、見掛けに拠らず抜け口が悪かった。その上は岩のテラスになっていて、引き続きコージがリードで枝沢を渡ってトラバースで滝の頭に躍り出た。

 谷は一旦、河原状となったが、広い釜の先には連滝があって、またもやゴルジュになりそうだ。その河原で休憩しながらコージと相談した結果、時間もいい頃合だったので、ここは右岸から巻いてしまうことにした。巻きながら、ゴルジュ内部の滝の様子を伺ったが、8m滝の上には三段16mの滝が掛かっていて、更にその上にはトユ状の滝、恐らくこれを“ネジレ滝”と言うのだろうか、が掛かっていた。

 ネジレ滝の上にも5mほどの滝と、深い釜を湛えた12m滝があって、それでゴルジュは終わっていた。時間オーバーで上部のゴルジュは巻いてしまったが、ここを直登していったら、もっと充実しただろうと後悔したが、仕方がない。

 それにしても、粟谷小屋から再びアプローチの登山道を辿ったのだが、すっかりフリークライマー化した私たちの足には堪えてしまった。