今週末は泊まりで白川又川の谷行く予定だったが、日曜の天気予報が微妙だったので、日帰りで台高の大又川にある西ノ谷に日帰りで行くことにした。西ノ谷は、会の大先輩であるK崎さんが『溯行』に投稿されていた美しい滝の写真が印象に残っていて、一度是非とも訪れてみたいと思っていたところだった。

 国道169号線をひたすら南下し、池原ダムを越え七色貯水池から西ノ林道を車止めゲートまで入る。手前の広場に駐車し、目の前の斜面を下って入谷。堰堤を右手から越えて、しばらくは退屈な川原歩き。水が戻ってくると、両側が迫ってきて「いよいよだな」と思っていると、さっそく釜を持った滝が現れる。最初はへつったが、もう面倒臭くなって、普段は水に浸かりたがらない私も、積極的に泳いで滝を登る。幾つか釜を持った滝を越えると、ゴルジュは一旦切れて谷が明るくなって、太陽を受けてキラキラ光るナメ滝が続く。

 ナメ滝を嬉々として歩いていくと、目の前に広い釜を持った10mほどの端正な滝が現れる。写真で見た通りにどことなく品格の漂う美しい滝だ。ここは泳いでも登れそうに見えず、右側から小さく巻く。小滝を数個こなすと、両側の壁が迫った行合になる。これで今年は光谷や絵馬小屋谷のそれに、神童子谷のへっついさんに続き四つ目だ。細長い淵の先には1mほどの滝があって、これも泳いで簡単に越える。

 小滝を幾つか越えていくと、比較的深い釜を持った流木の横たわる7mの滝が現れる。右岸の岩場を伝って滝身に近づき、コージはフリーで、私は残置にスリングを掛けてアブミでこの滝を越えると、8mほどの滝の先に大きな滝が頭上から降り注いでいるのが見える。手前の滝を右手から簡単に越えてその滝の前に立つ。深い淵を持っていて、飛沫を上げながらその滝は勢い良く流れ落ちている。

 30mはあろうかという大滝だ。この滝はまずザイルを出してコージがリードで右岸のリッジを登る。リッジから樹林帯に入って上流方向にしばらくトラバースし、クライムダウンして再び滝身に接近し、最後はダイレクトに滝の頭に登りでた。高巻いても、こうやって頭に立てる巻きは爽快だ。その上の川原でコーヒーを沸かしてお昼にする。

 谷は明るく開放的になって悪場は過ぎたかと思われたが、相次ぐ滝を越えていくと、その向こうにまたもや大きな滝が遥かな高みから降り注いでいるのが見える。下段は二条となった、50mほどの大滝だ。これが“蛇の目滝”と呼ばれる西ノ滝の主だ。両側には大きな嵓を備えていて、これは簡単に巻かせてくれそうに見えない。左右見比べると左岸の嵓の方が発達していて、右岸から巻いた方が良さそうだ。コージに試しに「どっちからやと思う?」と聞いてみると、同じ意見なので右岸からに決定。

 樹林帯をしばらく上昇して行くと、上流へと伸びていく尾根があったのでそれを辿っていく。しかし、すぐに壁にブチ当たってしまったので、少し左手に回り込んでみると、右岸に入るルンゼが見えたが、潅木伝いにその壁を登れそうな箇所を見つけたのでザイルを出して、今度は私がリードで登っていくことにした。

 モンキークライミングでその壁を数メートル登ると尾根の上に出ることができたので、その尾根を辿って谷へと下降する。しかし、谷へと落ち込んでいく尾根の先が切れていて、どうも大滝の只中のようなので戻って、今度は尾根を跨いで上流方向へとトラバースすることにした。

 潅木を拾い、獣道らしき跡を辿って行くと、木々の合間から飛沫らしきものが見え、滝がもう、すぐ傍にあるるようだ。バンドをトラバースし、滝身まであと数メートルというところまで接近したが、バンドが切れていて、そこから先が進めなくなってしまう。あと、もう少しという所にブッシュがあってそれを掴むことができたら行けそうだったが、足場が悪くて、そのもうちょっとが手か出ないのだ。壁を登って尾根上に出て上流へとトラバースというルートを見付け、それを試みようとするも、コージに肩車をしてもらってもそ壁が這い上がることができずに、音を上げてコージにリードを交代してもらう。

 コージは最初、一旦戻って尾根から巻くというルートを主張していたが、リードを交代すると、私が試みていたトラバースをしてみると言う。コージは私がもうちょっとで届かなかったブッシュを投げ縄で捕らえて、そこを首尾よくクリア。しかし、その先でコージは長い間、動かなくなる。後で、フォローしてみて分かったのだが、コージはそこから滝身に向かってトラバースすることが無理だったので、諦めて頭上の樹林帯に出ることにしたのだが、そこから樹林帯に上がる箇所が悪くて、被った草付き斜面を這い上がらなければならない。手がかりになる岩もブッシュもなくて、随分、迷った挙句、千切れそうな草を、土に手が埋まるまでねじ込んで登った。

 樹林帯に登ると、そこは大滝上の釜を見下ろすことのできるテラス。「やった、大滝を越えた!」と一瞬、喜びかけたが、「まてよ」。その釜には右岸の枝沢から滝が掛かっているのではないか。そのテラスは、その右岸の壁と枝沢の滝に塞がれていて、本谷に戻ることができないのだ。勿論、懸垂下降して降りることはできるのだが、大滝上にある釜の先にはまたもや滝が。左岸は勿論、壁で、万事休すか。無論、戻ることも可能なのだが、二人ともそれはあまり気が進まなかった。

 コージは右岸の壁に生えるブッシュに投げ縄をして越えようと主張したが、私は一旦、懸垂で谷に降りてみようと主張。上から見て登れそうに見えない滝も、下から見ると「何だ」ということがよくあるからだ。急に見えるが左岸のルンゼが、もしかしたら可能のようにテラスから見て思えた。

 懸垂下降で降りてみると、果たして私の思惑通り、そのルンゼは下から見るとずっと傾斜が緩くて、登るのが容易そうだ。ただ、泳いでそのルンゼに取り付けるかどうかだが、先頭たって泳いで行ったコージが難なく這い上がるのを見て、私も釜に飛び込んだ。何ら問題なし!這い上がってみると、釜の上の滝も右側から登れそうなのに気付いて、ルンゼを登るのは止めて、そこを登ることにした。

 その後は淵を持った小滝が現れるが、何と言うことなく越えていく。、左岸側に石垣が続き、谷が開けたかと思うと、二又で、見上げると林道が見えたので、そこで溯行を打ち切って林道に這い上がった。その林道は至って快適な下山で、途中、あの“蛇の目滝”を枝沢の滝とペアで見下ろせるのがいい。小一時間ほどで駐車地に着いた。

 振り返ってみて、大又川の西ノ谷は、泳ぎの楽しめる下部ゴルジュも良かったし、ダイレクトに頭に立てる30m大滝の巻きも良かった。ちょっと梃子摺ってしまったけど、“蛇の目滝”の高巻きはなかなか面白いルートファインディングだったように思う。