左又大滝は右岸の側壁がモコモコとキノコ状に張り出していて、左岸の垂壁との間にルンゼを形成していている。水は垂壁を簾状に流れた後、大テラスのところで腰を折ってそのルンゼ内を下まで流れ落ちるというちょっと変わった姿をしていていて、水量は少なくても独特な側壁の威圧感でもって私たちの前に聳え立っていた。今回はこの方がスピーディということで3ピッチごとにリード交代することにした。

 まず1ピッチ目は第一テラスまでコージのリード。どこからでも登れそうだが、初登者と同じく水流に近い凹角を登る。易しいが最初なので、慎重なのか、カムとハーケンで二箇所支点を取る。

 2ピッチ目もコージのリード。出だしのスラブは順調にザイルが伸びていたのだが、ブッシュ帯に入った途端、ザイルの流れが遅くなる。ブッシュなのにと訝しく思うが、フォローしてみて分かったのだが、ここは被っていて、しかも足場がブッシュで見えなくて、登り難かった。第二テラスでピッチを切る。

 3ピッチ目は、快適な垂壁。第三テラスは「もうちょっと左上したところでは?」と思うが、コージはすぐ上のテラスでピッチを切った。ここには唯一、古いリングボルトの残置があった。

 4ピッチ目は私のリード。頭上のカンテから上の壁はブッシュが酷いので避けて、左へ20mほどトラバース。そこからブッシュの薄くなったところを右上して行こうと思ったが、ザイルの流れが悪くなってしまうので、ブッシュの生え際のバンドでピッチを切る。

 5ピッチ目はそこから第四テラスに向かって右上して行く。本当は、ブッシュのない箇所を登りたかったのだが、支点が取れるか不安だったので、結局、適度にブッシュの生える凹角を第四テラスまで登る。

 6ピッチ目の引き続き私がリードで第四テラスから凹状の垂壁を直上しルンゼに出る。カンテのところでザイルが屈折してしまったので、ザイルが重い。ルンゼは登らずに左手のカンテや凹角をステミングやキョン足を使って樹林まで登る。樹林でピッチを切って、コンテでルンゼを横断し、大テラスに出る。このテラスは上下二段になった広いテラスで、水流も近く水も得れるのでここでお昼にした。

 7ピッチ目は再びコージがリードで、水流と草付きの間のスラブを登る。快適。左手にある立ち木でピッチを切った。

 8ピッチ目。コージのリードのはずだが、ザイルのまとめ方を間違ったと私がリードすることに。その上の垂壁を登ろうとするが、「悪いで」というので潅木を追いながら左手からハングを巻く。

 9ピッチ目もそのまま私がリードをすることになる。嫌な感じがしたので一旦反対したが、コージがここだと言い張るので、立ち木に乗ってツルになった枝を掴んで被った岩に乗るが片足を置いた途端にその岩がグラリとして剥がれ落ちる。下のコージに当たるのではと怖れたが、幸いその大岩は立ち木に挟まった状態で止まってくれた。ザイルも切断されなかったようで一安心。「ここは危ない」と思い、ビレイ地点まで戻って、岩がいつ落ちるのか分からないのでそこから左にトラバースすることにする。

10ピッチ目。潅木の生えたバンドを辿って今度は右にトラバースして、谷に戻る。そこからは最上段の滝が見えたが、「もういいかな」という気分だったので、戻って右岸から巻くことにした。

 休憩した後、右岸のルンゼ目指して懸垂3回、そこからルンゼ内は樹林がなさそうだったので、樹林濃いところを目指して懸垂2回。2度目は20mほどの完全な空中懸垂になる。そこから一回の懸垂下降でルンゼに出て、後は歩いてルンゼを下って滝の下に戻った。

 摺子谷左又大滝は傾斜が緩くてテラスが多いので今まで登った大滝の中では一番登り易かったように思うが、200mあるだけあってスケール感ある大滝登攀を楽しめた。