初日に光谷まで入れて行程にゆとりがあるので、6時まで翌朝は眠った。昨夜は8時前には寝てしまっていたのだが、眠れば眠れるもんである。焚き火を熾して、コーヒーを飲んでまったりしながら地形図を眺めて今日の行程に思いを馳せる、そんな時間が好きだ。“辛ラーメン”を食べて体を温めた後、ようやく寝間着から沢装束に着替えて出発。
 林道をしばらく歩いていたが、ダルいので川原に戻る。すると、素敵なナメ床が広がっていて、こんな美味しいものを素通りしなくて良かったと喜ぶ。が、その喜びも束の間、また川は林道からの土砂で荒れてきて、うっとおしくなって再び林道を二又まで歩くことにした。
 「さあ、これからが本当の溯行の開始!」。ゴーロを快調に駆け上っていくと、ポツリポツリと滝場が出てくる。ここの谷は花崗岩の為か、割れ目の入った独特な形をしたナメ滝が多い。「色んな滝を見てきたけど、こんな滝見た覚えないなぁ」。すると、両岸の壁が押し迫った間に淵の伸びる“行き合い”という名所に行き当たる。ここは高巻くとしんどそうだが、淵に浸かって行けば簡単に超えることができる。“行き合い”を過ぎても谷の両側には未だ壁が発達していて、まだまだ出てきそうな感じ。ドキドキしながら登っていくと、谷が右折した先に三段ほどの連滝が現れた。
 「さぁ、どう処理しようか?」。連滝前の岩床に座って休憩を入れて考える。「滝側壁に入ったクラックを登れば一段目はこなせそう」などど考えながら眺めたが、しかし、今回はあくまで“足慣らしの溯行”ということで沢でのキャンプを楽しみに酒や食料のボッカを普段より多くしていたので、無難に右岸を高巻くことにした。
  最初、滝に寄り過ぎると壁が立っているので、右岸の涸れ沢を稜線めがけて安直に高巻こうと斜面を登っていたが、遥か先の稜線まで壁が延々伸びていてこのまま行くとかなりの高巻きをさせられるということに気付いて慌てて引き返す。「ここは雑にルートファインディングをするとハマってしまう」と思い、コージに待っていてもらい、一人でルートを探りに行く。今度はなるべく沢筋よりにルートを探り消去法的に絞っていった結果、バンドを伝いルンゼを横断した先にようやくルートを見付けて、コージを呼びに戻る。コージと合流後ザイルを出してルンゼを下りさらにバンドを沢筋向かってトラバースして、10m滝すぐ横のテラスまで行ったが、その上にも滝場が続いていそうだったので、結局、ルンゼを再び登って、壁の切れ間をモンキークライムで超して痩せ尾根に登り出た。尾根からは比較的大きな滝が木々の合間から見えた。木を伝いながら斜面を下って枝沢に降りその枝沢を少し下ってその滝の釜の前に降り立った。30mほどの優美な滝だ。ここでコーヒーを沸かしてお昼休みにすることにした。