林道では汗がダラダラ出ていたが、沢床に降り着くと、ひとんやりとしていて、むしろ寒い位だ。降りたところは河原だったが、ちょっと先はさっそく両岸が立ち、淵を作っていて白川又川本流らしい風情を醸し出していた。白川の語源となる、白い岩が朝日を浴びて目に眩しい。
 さぁ、これからがいよいよ出発だ!歩き出すと、すぐさま淵が現れて、泳がされることになる。やっぱり、白川又川の水は冷たい。数メートル泳いだだけで、もう私の体は芯まで冷えてしまって、すっかり泳ぐ気を喪失してしまったが、谷が右折すると、どうしても泳がなければならない淵にまたもやぶつかる。中ノ又谷出合前にある長淵だ。15mほどだろうか?泳いで左岸の岩棚に這い上がって、中ノ又谷出合に掛かる滝を正面に見る岩場の上に立つ。中ノ又谷に入るには、目の前の流れを渡たればいいのだが、しかし、本流に掛かるトユ状滝からの奔流が、先で白泡を立てて渦巻いていて、失敗すれば恐ろしいことになりそうだ。
 コージは何を思ったのか不意に自分のザックを対岸に放り投げた。ヤツはここをジャンプして渡るつもりなのだ。今度は私のザックを貸せと言って放り投げたが、着地に失敗し、コロコロ転がって行って、渦巻く釜の中に流れ落ちて行った。それを見てコージは慌てて飛び込もうとしたが、あんな釜の中に入ってしまったら、戻って来れるのか分からないので、「行くな!」と制した。幸いなことに、ザックは釜の中でグルグル回転していたが、しばらくすると出て行く流れに乗って、下流へと運ばれて行った。私がザックと取って戻ってくると、そんな横着なことをしたらあかんとコージを怒った。コージは対岸へジャンプした後、今度は、お助けでザックを引張って引き上げた。初めからそうすべきなのだ。私はコージに確保してもらってそこを渡った。なんだか不動七重のF1上の徒渉に似ていて、なかなかスリリングだった。
 出合の滝を右岸からトラバースして越えると、谷はしばらく廊下状だったが、大した滝場もなく河原となった。そうして、ずんずん歩いている内にアンノ谷出合に着いた。ここは、明るく開けていて幕営するには快適そう。そこからワル谷出合まで取り立てて言うほどの滝場もなく、快調に進んでいった。