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 昨日は台高の北股川にあるムラダチ谷に行って来た。土曜はジムで登り込んでいて、どこか新緑を愛でながらのんびり沢登りが楽しめる場所ということで、この谷に決めたのだった。北股川は台高でもブナ林の美しさで際立っている池木屋山に源を発している川で、その支谷は自然林豊かな池木屋山から馬ノ鞍峰かけての稜線から流れ込んでいている。昨年、溯行した南股谷も素晴らしい森だったので、隣りのこの谷も期待ができた。
 コージは相変わらずの酷い咳で、夜中にゴホンゴホンと咳き込み、起こされた私もこれ以上眠れそうになかったので、そんなに早く出発する必要はなかったが、4時前に家を出ることにした。薬の影響か、運転していると眠気が襲ってくるようで、林道に入ったところで7時前まで仮眠を取ることにした。
 柏原谷出合を過ぎた後、道が緩く左曲する辺りで対岸に大きな谷が入っているのが見え、これが恐らくムラダチ谷だろうということで車を停めて沢仕度を始めた。踏み跡を辿って北股川本流に降りると、丁度、目前にその谷があって、ザバザバと川を徒渉して出合に向った。
 谷に入るとしばらくは苔蒸した岩の積み重なるゴーロが続くが、谷が左折した所で10mほどの滝が現れた。最初ということでザイルを出して、私がリードで右岸を巻くことにする。壁際を登ろうと滝身へとトラバースし根っ子を頼りに壁に取り付いてみたが、這い上がりの一歩が微妙なので無理をせずに戻って踏み跡に従って高巻く。すると、その上にも15mほどの滝があって、面倒臭かったのでそのまま右岸を巻いてこれらを越えた。
 小滝を幾つか直登したり、交わしたりしながら溯行して行くと、今度は25mほどの滝が現れて、これも右岸を巻く。この滝を越えると、谷に太陽の光が入ってきて明るく気持ちのいい場所だったので、小憩を入れた。もうお腹がペコペコでコージが買ったローソンの“ホイップメロンパン”を分けてもらった。左右に枝沢を幾つか見送ると、両方に滝を掛けて出合う、二俣に辿り着く。左手が本谷だろうということで、滝を一旦右の谷に入ってトラバースで越えると、正面に大きな嵓が立ちはだかるのが見え、近付いていって見ると、何と30mの大滝だった。嵓は逆層のオーバーハングとなって覆い被さるように聳えていて、威圧感がある。滝はその嵓の合間から水を霧散させるように落としていた。この滝も右岸を巻いた。
 その上はまだ谷幅が詰まっていて、まだ出てきそうな雰囲気、と思いつつ溯行して行くと、扇状の美しい20mの滝が現れた。これも右岸からかな?と一瞬思ったが、「いや待てよ。右岸からの方が最短で巻けるかも?」と思って左岸のルンゼの様子を見に行って見ると、傾斜が急かなと思われたが接近してみると以外に緩くて、しかも壁の切れ目のブッシュを辿って頭へとトラバースしていけそうだ。一方、最初楽かなと思われた右岸には滝の高さのさらにその上に岩峰のような嵓があるではないか。やっぱりこちらからだと右岸のルンゼを登ってみると、果たして思惑通り、頭へとトラバースしていけそうな場所を見付け岩場を少し登ると、先人もそう感づいたのか踏み跡があってそれを辿ると、ばっちし頭にでることができた。
 30m滝の上はすっかり谷が広くなっていて、小滝を幾つか越えると、バイケイソウの茂る堆積地が見られた。そこでお昼にしようということになって、ザックを下ろしてガスを取り出したが、コッヘルを持って来るのを忘れたことに気付いて愕然とする。お昼にカップヌードルを用意したのだが、これではお湯を沸かすことができない。仕方がないので、行動食に用意していたバターサブレを二人で分けて食べたが、とっても楽しみにしていたお昼だっただけに、かなりショックだった。
 予定では源流まできっちり詰めるつもりだったが、これですっかり気分も失せてしまったので、ここで溯行を打ち切って戻るこにした。さて、下山ルートは?ということで、コージと相談したが、二人とも意見が一致して、右岸に伸びる地獄谷との分水尾根をルートファインディングして降ることにした。
 まず、谷から右岸の小尾根を登って1040mピークを目指す。ピークからムラダチ谷右岸に入る枝谷の源頭をトラバースし、西に伸びる尾根を降りる。途中、何度か尾根が分岐していてややこしいが、その度に地形図とコンパスを出して西に伸びる尾根を見付けて降りた。尾根上には微かな人間らしき踏み跡ようなものがあって、誰かが使っているのかもしれない。600m付近で地獄谷へと伸びる尾根に入って嵓の上で行き詰まったが、登り返してムラダチ谷方面へ伸びる尾根を探し出して降って行くと、上手いことばっちしムラダチ谷出合に辿り着くことができた。
 このムラダチ谷右岸尾根を降る下山ルートは幾つか急な箇所もあったが、大体が快適な道だった。この谷の下山方法は隣りの地獄谷を下降したり、台高主稜線に出たりと色々考えられるが、これが一番スマートな下山ルートのように思える。ムラダチ谷は期待していた通りの森の美しい素敵な谷だった。コッフェルさえ忘れなければ、最高の“癒し渓”を楽しめたように思う。