物事を改める際に、改善と改良の二つの考え方があります。改善は負(マイナス)の是正、改良は正(プラス)の促進。
 本来のあるべき状態を零(ゼロ)としたとき、負の領域であるにも関わらず、いきなり改良をしようとしても、それは無理な話。まずは、改善によって零にする。その後、促進すべき良い点があれば、改良をするのです。

 この善と良の考え方は、膳と食にも当てはまります。どちらも食べる事ですが、薬膳と言うほどではないにしても身体の事を気づかった食を全般的に膳と言います。
 病気の人は、まずは膳。医師と相談のうえで病気の治癒に努める事です。食はその先にある事ですから、身体の是正をし、その後、食を考えると良いでしょう。
 また、膳は肉体や精神という個人的な事ですが、食は人間関係を含む社交的な事となります。いつ、どこで、誰と、何を、どういう形で食べるのか。これらを常に考える必要があります。
 膳によって本来の体調である零に整えても、人間関係の不味さが災いすれば、精神に負荷がかかり、すぐに負の領域に戻されてしまいます。
 食べる事は生きる事。生きる為には人付き合いが伴います。
 たとえ水であろうとも、器に注がれた段階で料理となる。それをご馳走にしようと思えば出来るはず。その為に必要な人間関係を考える。それが食を考える事だと思います。

 零までの道である善、零からの道である良。自分が今、どちらの道のどの辺りに居るのか、常に考えるのは疲れる事でしょう。
 それでも、それを価値のある疲労感であると、私は常々思うのです。

✒️鐘子店本樹