実力の出し所 | 「賛否両論 笠原将弘のオールナイトニッポン」オフィシャルブログ by Ameba

実力の出し所

回転寿司で僕は優雅な深夜飯を楽しんでいた。
回転寿司は楽チンでいい。自分のペースで食事を楽しめる。
僕の斜め向かいに中年のカップルが座った。
男性のほうは、首にスカーフを巻き、髪はパーマでチリチリ、派手なシャツの胸元までボタンを開け、いかにもちょい悪オヤジ風だ。ちょっと梅図かずお先生に似ている。
男性は、俺食通だもんね!という空気をムンムン出している。
僕は金目鯛の炙りを頬張りながら、男性を観察した。ねぇ、お酢をおちょこに入れてくれるかな?
男性はカウンターの中の板前さんに言った。
お酢ですか?
板前さんは不思議そうな顔をしている。
そう、少しでいいからお酢をちょうだい。
板前さんはおちょこにお酢を入れて男性に渡した。
お酢を飲めば、その店の味が大体わかるんだよね。
男性はややどや顔で連れの女性に言った。
男性はイッキにお酢を飲み干した。
ゲホッゲホッゲホッ!
男性は猛烈にむせた。
僕は笑いを噛み殺した。
大丈夫ですか!!
板前さんがお茶を差し出した。
いやいや失礼。いい酢を使ってるね。
男性は冷静を装おっている。
いかを握ってくれるかな?切れ目はいれなくていいから。
あと海老の握りに、少しかにみそを乗っけてくれたまえ。
男性の注文はいちいち面倒くさい。回転寿司でそこまで食通ぶる必要があるのか?
板前さんは男性の注文通りに握った。
ウーン、いかの甘味が弱いな。海老の味もかにみそに負けている。
男性は目を閉じて呟く。
そりゃそうだろ、いかは切れ目を入れたほうが甘味が出るし、海老にかにみそ乗っけるなんて聞いた事ない。僕は心の中で呟いた。
ホタテを二秒だけ炙ってくれる。
板前さんはホタテを炙った。
ああっ!!炙り過ぎ!三秒いっちゃってるよ!
男性は声をあげた。
板前さんがビクッとする。一秒でホタテの味は変わってしまうんだよ。
男性はしたり顔で呟いた。格好つけたいんだろうが、ここで実力出す必要性無いだろう。回転寿司はサッと食べて、サッと帰るのが格好良いと僕は思う。食べ物屋でうんちくひけらかす男は僕は嫌いだ。
かんぴょう巻き、涙でるくらい、ワサビたっぷりで巻いて。
男性がまた注文した。
板前さんがかんぴょう巻きを包丁で切ろうとすると、あー!駄目駄目!6つじゃなくて、4つに切らなきゃワサビのききかたが変わっちゃうよ。
男性が駄目出しした。
すいません、これはこちらの御客様のかんぴょう巻きなんで。
板前さんが苦笑いした。
そのかんぴょう巻きは僕の注文したものだった。
僕もワサビのきいたかんぴょう巻きが好きだ。
男性はばつが悪そうに、僕を見た。
すいませんね、僕は6つ切りが好きなもんで。
僕は男性にウインクしてやった。
男性は4つ切りかんぴょう巻きを口にしながら連れの女性に言った。
4つ切りのほうが、きくだろう。
それまでずっと無言だった女性が口を開いた。
どっちでもいいじゃない!!食事中にいちいちうるさい男、嫌いなのよ!
僕は女性を二度見した。
板前さんも女性を二度見した。
男性の皿の上のガリが、悲しく干からびていた。