携帯電話業界の2005年は、ソフトバンクなどの新規参入が決定し、もうすぐ押し寄せるであろう次の大波を予感させる1年であった。
そんな2005年を締めくくるのが、本書である。

携帯電話でのビジネスというと、キャリア、ソフトウェア、コンテンツの3つに大別されるだろう。
その中で、本書では特にキャリアに多くのページを割いている。

携帯電話のソフトウェアやコンテンツは、まさにこれからがビジネスの花盛りであろうと思われる。というのも、パケット定額制の普及をベースにして、利用者が様々な使い方をする素地が整いつつあるからだ。
これに対して、キャリアは苦しいビジネスを強いられている。従来の従量課金であればトラフィックに見合った収入を得られていたキャリア運営企業は、定額制が普及することにより今後益々トラフィックが増加するにもかかわらずパケット代は頭打ちになるのである。こうなると、キャリア運営は従来のやり方では当然立ち行かなくなるわけである。

この苦境にあって、さらに新規参入企業の出現、ナンバーポータビリティの導入、無線LANサービス普及による利用者の食い合いなど、かなりシビアでタフな状況が想定される中で、それぞれの企業はどのような戦略で乗り切ろうとしているのか。
まさに本書では、その最も過酷な凌ぎ合いの部分を大きくフューチャーしているのである。

ソフトウェアやコンテンツを生業とする企業たちも、キャリア同士の戦いの行方を固唾を呑んで見守っている。どのキャリアが勝ち組になるかは、どのようなソフトウェアやコンテンツが受け入れられていくかに大きく影響するからだ。
いや、見守っているだけでなく、時には仕掛け人の一人であろうとする。ソニーのように端末もソフトウェアも開発している大手企業から、Access、INDEXといったインターネットベンチャーまで、様々な企業が陰に陽に動き回って、自社の生き残りを図って巧みに立ち回っているのである。

本書では目まぐるしく展開する携帯電話業界を描いているわけだが、このような状況は利用者にとっては高い利便性を安価に享受できるすばらしい動向であることは言うまでもない。

新規参入組のソフトバンクやイーアクセスはどうなるのか。無線LANサービスはどこまで定着するのか。ウィルコムは今後もシェアを伸ばせるのか。通話やデータ通信以外の使い方も定着するのか。
まさに目が離せないホットな業界であることは間違いない。
そして、その動向に喝目するための基礎知識を手っ取り早く手に入れるのに、本書は優れた一冊と言えよう。

(サバイバル度:★★★★☆)

日経コミュニケーション編集
風雲児たちが巻き起こす携帯電話崩壊の序曲―知られざる通信戦争の真実