以前「希望格差社会」 の書評でも書いたが、僕は大学卒業後27歳までフリーターだった。
フリーターの頃は、時給1,000~1,500円程度のアルバイトで週に4日だけ働き、必要最低限の生活費のみを稼いでいた。週に3日の休日はダラダラと過ごすだけだった。
自分のまわりも同類が多く、芝居をやっていたり音楽をやっていたりと、それぞれの好き勝手なことを生活の中心に据えていた。
かく言う自分も、肩書きだけは「フリーライター」だったが、ライターとしての年収は約20万円。アルバイトで稼ぐ月収よりも少ない有様である。そのくせ、出版社に売り込みに行くわけでもなく、目標すら見出せない日々を送っていた。

今から思えば何とも冷や汗の出るような生活を送っていたわけだが、当時は将来への不安から出来るだけ目を逸らそうとして、その時を如何に生きるかということしか考えないようにしていた。
まさにこの本で描かれている「下流」の生活スタイルそのものである。

格差社会に対する危惧が声高に指摘される昨今だが、そのような指摘を目にするたびに、自分の過去を振り返って胃の痛くなる思いをするのである。
そう、前向きな人生を送らない自分が悪いのか、目標を見出せないような社会が悪いのか、僕には正直なところ分からない。ただ一つ言えることは、ちゃんと正業に付き、少しでも壁の向こう側の光が見えれば、マシな生活に向かって努力しようと思うものである。
日本一有名なニートの発言「働いたら負けかな」も、もしかしたらこのような構図の中で壁の向こう側が見えないばかりに発せられた迷言なのかもしれない。

フリーター時代の僕がそうだったように、なんとか最低限の生活だけはしていける。
まさにそういう人々がこの本で言う「下流」である。
詳しく言えば、この本の中で著者は、自身を「中の上」と位置付ける人を「上」、「中の下」もしくは「下」と位置付ける人を「下」と規定して、それぞれの価値観形成を分析し詳解している。
分析のベースになっているのはアンケート調査であるが、「あとがき」内で著者自身が述べているように、サンプル数は非常に少なく、統計学的に信頼できる数値とは言いがたい。だが、傾向を掴むということでは充分な内容と言えるのではないか。(サンプルの抽出の仕方が気になるところだが。)

アンケート結果を分析して見えてきた傾向について著者は、「上」ほど上昇志向があり、「下」ほど社会的成功より「自分らしさ」を志向するとしている。
まあ、それはそれで、本人達が良ければいいんだろうけど。。。


ところで、「自分らしさ」という言葉を見聞きするたびに思うのだが、「自分らしさ」を口にする奴等は、「自分らしさ」が何なのか分かっているんだろうか。
少なくとも、自分探しの旅に出たヤツがちゃんと自分を見つけて帰ってきたケースは見たことがない。
でも、「自分らしさ」って便利な言葉だよね。漠然としているから、なんとなくそれらしい気分になれるし、突き詰めて考える必要が無いぐらいに総括してくれる大きな言葉だから。
願わくは、そんな言葉の影に隠れていないで、「下」の人たちには違う一歩を踏み出して欲しい。かつての自分がそうだったように。


それにしても、こういう本を読むと尻を蹴り上げられたような気分になるなぁ。。。


(身につまされ度:★★★★★)

三浦 展
下流社会 新たな階層集団の出現