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      三木句会ゆかりの仲間たちの会:大塚楓子さんのエッセイその3「鶴亀」

 

 

       鶴亀

 

       謡曲のお稽古は、通常は「鶴亀」という曲から始まります。謡本に

      して6ページ、10分ほどです。私が今お習いしている「誓願寺」は24

      ページ60分です。「鶴亀」がいかに短い曲かということがわかります。

      「名寄せ」を見ると 「猩々」と並んで短い曲の一つです。

       先日お稽古がありましたが、若い女性が「鶴亀」を習っていました。

      先生がお部屋いっぱいに響く声で一句謡われます。生徒も続いて大声で

      歌いますが、先生が「もっと声が出るでしょう」と言っておられます。

      大きい声を出すのが、まず第一の課題です。次に節回しを真似しますが、

      謡曲の節回しは独特で、真似するのもなかなか大変です。最初は一句

      づつお習いしますが、今は一節づつお習いするようになりました。

       「鶴亀」は唐代の皇帝に新春を寿ぐもので、鶴と亀が中の舞を、皇帝

      自身が楽(ガク)を舞います。ただそれだけの曲と言って良いと思います。

      お謡は、内容のごく単純なものが多いです。基本、七五調で言葉が美しい

      のですが、歌っている時はあまり意味を考えていません。

      「鶴亀」といえば、私には特別な思い出があります。お謡と仕舞を習って

      いると、先生から、お能を出さないかとお誘いがあります。一つの舞台を

      出すにはお囃子方と地謡の先生方が必要です。シテ(とツレ)が費用を負担

      します。お能に欠かせない脇はいつもプロの方が出演されます。費用も

      さることながら、私は能楽堂全体に通る声を出す自信がなくて、お誘い

      をお断りしていました。私が能の舞台で初めてお役をいただいたのは

      「鶴亀」のツレでした。皇帝役のシテは.某会社社長夫人と決まっており、

      私と友人にツレの鶴と亀をというお話だったのです。今の私は痩せていま

      すが、友人はとても細くてキリっとした方でしたので、当然彼女が鶴、

      私が亀の役を頂きました。衣装も比較的軽いものでした。皇帝役の衣装は

      遠目には立派でしたが、近くで見るとなんだか古く見えたのでなぜもっと

      綺麗なものにしないのだろう、と不審に思い尋ねました。するとその衣装

      は、古いが生地も今は入手困難な上等な品質で、身につけると軽いものだ

      ということでした。通常、本番の衣装はお借りします。

       舞台は、皇居とみなされる作り物が舞台に置かれて、皇帝が座している

      ところに、新春を寿ぐために、鶴と亀が登場します。鶴と亀が膝をついて

      挨拶し、続いて舞い始めます。我々鶴と亀も定位置に立ちました。鶴が

      早めに舞い始めました。慌てて亀も追いかけて舞い始めます。控えて

      いた師匠が慌てて出てきて、2人を合わせてくれました。舞い終わって

      座ると鶴の袖が引っかかって、かたちが変になっていました。師匠が

      直そうすると、鶴はいやがって師匠の手を振り払いました。

       皇帝が立ち上がって「楽」の舞を厳かに舞います。楽には、足ぶみが

      たくさんあって、お囃子方と合わせます。

       私たちの「鶴亀」も無事に終わりましたが.姉は鶴が私だと思って、

      ずっと鶴さんを見ていたと言うのです。息子は、亀の方が上手だったと

      言ってくれました。

       師匠、姉貴分の友人、姉、息子も皆、別の世界に逝ってしまいました。

      この機会に久しぶりにビデオを見ましたが、亀さんの足の運びに溌剌と

      したものが見られ、歳月の流れを感じました。

 

 

 

 

 

 

               

                               「能楽協会」HPより

                    すり足の白足袋浮かぶ鏡板   大塚楓子