三木句会ゆかりの仲間たちの会:有冨光英自解150句選より その10
朝焼を逃してしまひ百日紅 昭和49年作
「四季」(松澤昭主宰)に入って一年ほど過ぎた頃の句。「四季」の主張は
有季定型を尊重した上での心象美と言われているが、平板な写生句に馴れた
者にとってはなかなか難しい。私が最初に途惑ったことは何を切り口にして
表現するか、その切り口を探すことだった。普通に作句する場合、発想とい
う言葉がよく使われるが、心象造型にあっては発想が抒情でも叙事でもない
ところから始まるように思えた。
この句、私なりにものに感情を投入させて描写を超えようとした。他に、
穹を余さず満天星にある翳り
雀の子からり彼方の山を引く
のような句を作った。
『琥珀』・季語=百日紅
しぐれ噛みしめる煙突だけの道 昭和49年作
雑木林と畠の間にはさまれた住宅街に育った私には、煙突のある風景はあ
まり馴染みがなかった。強いて言えば銭湯のそれが唯一の煙突と言えた。空
に向かって自己を主張するような煙突が、いわゆる原風景として私の記憶の
中にある。
時々、所要があって工場地帯を歩くことがあった。工場街の広い道の両側
に煙突が並んで建っている。尖から吐き出された煙が煙突の叫びのように見
えるのだが、人の姿がないので風景全体が無表情である。冬の季節、特に時
雨が降る頃にはいっそうこの感じが強くなる。そのあたり、「しぐれ噛みし
める」という措辞で表現できないかと思った。
『琥珀』・季語=しぐれ
photo: y. asuka
息詰めて見る蟷螂の食ふものを 右城暮石
