三木句会ゆかりの仲間たちの会:樹 水流さんのエッセイ
「ヒルマ・アフ・クリント展」 東京国立近代美術館
ニューヨークのグッゲンハイム美術館では来場者数過去最多の60万人を
動員したという展覧会、アジア初公開です。まだ抽象画という言葉もない
頃描かれた内なる思考を表現した作品に圧倒されました。
スウェーデンの裕福な家庭で生まれ、頭脳明晰であり美術の才能に恵まれ
たのは、美術学校時代のデッサンやスケッチを見ればよくわかります。その中、
現代よりずっとポピュラーであったスピリチュアリズムに関心を寄せ、4人の
友人と「5人」と名付けた交霊会を作り、瞑想や交霊を行ううちに、その感覚
を絵画とするように啓示を受けたそうです。最初は螺旋や簡単な線で描かれた
スケッチですが、時を経てそれは大作の連作となり、その展示場所の構想まで
していました。今回はその大作「神殿のための絵画」が印象的に展示されて
います。特に私が注目したのは、ブルーと黄色の関係です。どの絵にも必ず
と言っていいほど使われていました。彼女がそれにどのような意味合いを
持たせたのか、探るには力が足りませんでした。ご興味のある方は近代美術館
のホームページに詳しく書かれていますのでどうぞご覧ください。
没後約80年、なぜ今彼女に注目が集まるのか興味深いところです。彼女が
繊細な感覚を持って生き始めた頃、科学の進歩により目に見えないものの発見
や発明がされます。一方で、精神性、宗教なども深く掘り下げられた時代で
した。解説によれば、科学と精神世界は目に見えないという共通項を持ち、
それ等を絵画で表現したのが彼女の作品となったようです。
現在、私たちの世界でもテクノロジーの発達で見えないうちに動かされている
感覚を味わい、不安も感じる中、改めて五感を確かめ実感とするようなことは
ないですか?自分の存在を示す何かを手にしようとする、そんな時代なのかも
しれません。
土を耕す事、空を見る事、木陰を憩いの場所と決める事。
それは自分らしいスピリチャリズムの表現と呼んで良いように思います。
樹 水流
photo: y. asuka
たましひをうばふ数ほど藤垂れて 山田 径子