有馬英子第一句集『深海魚』より
連載していた英子さんの第一句集『深海魚』の続きを掲載します。あと2回で昭和61年か
ら平成12年までの268句をご紹介することになります。過去の掲載を含めてプリントアウ
トして一冊の句集として手元に置くのもいいかもしれませんね。英子俳句のエスプリ、象
徴をいつも感じて作句に向かいたいと思います。
初空に飛ばすつもりの鶴を折る
贋作の我かもしれぬ初鏡
寒烏だれも分からぬ氏素性
裸木の青天井に見得を切る
データーを一瞬に消す雪女
うららかに道は大きくまがりけり
青葉若葉目からビタミンカルシウム
前奏の始まっている新樹かな
母の日の母にしかける口喧嘩
万緑の中に人間探求派
私にはまだ着こなせぬ濃紫陽花
蛞蝓の後ついて行く迷路かな
にこやかに人遠ざける白日傘
秋風のうしろから来る他人かな
虫鳴くや胸に琥珀のペンダント
寒風や行人坂は急な坂
寒月の見えぬところで虎を飼う
この先は笑うしかない枯野原
立春を遠回りする一輪車
調合は風にまかせる沈丁花
photo: y. asuka
