2022年9月三木句会報
中秋の朝の静けさこれぞ今 加藤光樹
風吹けば色が流れるすすき道 吉村未響
日晒しのシーツの硬さ夏の果 関本朗子
海と空ぐるぐる混ぜて台風来
梨剥くや夫に問いたきことのあり
毒キノコ色目使いに人誘う 関根瞬泡
教会に静けさ残し燕去ぬ 藤井 素
秋麗や初産既に母の顔 白樫ゆきえ
虫の声祭り囃子に入り交じり 米澤 然
澄んだ空窓開け放ち秋招く
しゃかりきの地球とわれら秋出水 國分三徳
ひとときを伽耶の壺なる白木槿 田中 梓
この星を去りて銀河に連なるや さとう桐子
哲学の道仄白き月の影 佐藤花子
残照の烏熟柿をほしいまま 太田酔子
秋の色躍らせ作る混ぜご飯 草野きょう子
混濁の世や一筋の秋の風 幸野穂高
寂しいと言われ驚く案山子かな 神宮前小梅
天高しゼウス生まれた山見上げ 小泉真樹
秋深し土鍋片手に男所帯 佐々木 梢
店の奥地味に目立つは吾亦紅 原宿美都子
台風や渇水地帯潤せよ 山崎哲男
朝寒や眉描いてより顔となる 飛鳥遊子
箸使い綺麗なひとや零余子飯
今月はいつもより少ない78句からの選となりました。最高点は未響さんの11点句「風吹
けば色が流れるすすき道」。詩情豊かな感覚的な句です。秋風に芒の穂が一斉に揺れる様
を見て、色が流れると感じられました。続く10点句は朗子さんの「日晒しのシーツの硬さ
夏の果」。4隅をぴんっと張って干し竿に掛けられたシーツは、晩夏の強い日差しにシャキ
ンと干し上がりました。主婦の感覚がすくい取られていて共感を呼びました。朗子さんには
7点句の「海と空ぐるぐる混ぜて台風来」と5点句の「梨剥くや夫に問いたきことのあり」も。
台風の句は、大きな自然現象をまるで盥の中のことのようにユーモラスに詠まれたところ
がお手柄です。梨の句は、次ページで瞬泡さんが推奨句にあげられましたのでそちらを。
「夫」は俳句では「つま」と読みます。
「朝寒や眉描いてより顔となる」は遊子の8点句。男性陣にはハテナ?の句であろうかと
思いきや、三徳さんも瞬泡さんも採ってくださいました。人生経験豊富なおのこはお見通
しなのですね~。遊子には5点句の「箸使い綺麗なひとや零余子飯」もありました。つるり
と逃げる零余子をこぼさぬように口に運ぶのはなかなか大変。「人」は主に男性を、「ひ
と」は女性をという言い方が俳句にはあるようです。
「毒キノコ色目使いに人誘う」は瞬泡さんの7点句。この夏、山で真っ赤なキノコを見つけ
ました。赤は警告色でもあるのでしょう。同じく7点句は素さんの「教会に静けさ残し燕去
ぬ」。教会の入り口に営巣していた燕。数羽の子燕が喧しく親に餌をねだっている季節は去
り、季の移ろいを感じられたのでしょうね。ゆきえさんは「秋麗や初産既に母の顔」で7点
ゲット。初産を待つ娘をみる母の目があります。「既に」は「すでに」としてはどうでしょ
う。俳句は韻とともに、見た目の美しさも大切にしたいものです。
もう1つの7点句は然さんの「虫の声祭り囃子に入り交じり」。夏の季語「祭」と秋の季
語「虫の声」のダブリが気になりますが、情景が目に、耳に浮かぶ句になっています。然
さんには6点句の「澄んだ空窓開け放ち秋招く」もありました。大健闘です。
「しゃかりきの地球とわれら秋出水」は三徳さんの6点句。地球もわれらも、もうしゃか
りき。何がって洪水やら地震やら噴火やら。戦争まで加わって。頑張らないとどうなること
か……。その他には梓さんの6点句「ひとときを伽耶の壺なる白木槿」、桐子さんの6点句
「この星を去りて銀河に連なるや」がありました。花子さんの5点句「哲学の道仄白き月の影」
は瞬泡さんの添削コーナーをご覧ください。
三徳さん特選の桐子さんの句「「混沌」の前で腕組み美術展」について一言。「混沌」
を括弧に入れたことで、本のタイトルか、何か題名であることがまずわかり、「前で」に
よって、あ、絵かな、と。「腕組み」で絵の前で困惑している人が浮かびます。そして「美
術展」で全てが解明。これほど余分な説明なしに助詞2つでつないでユーモラスな1句に仕立
てているのはあっぱれですね。
photo: y. asuka
壁に沿って一日歩くカフカかな 筑紫磐井